「おっぱいターッチ!」
「ひあっ!?」


突然背後から意味のわからない言葉と共に飛びかかられて胸を揉まれ思わずキャラに似合わない声を上げたアーチャーだったが、ばっと勢いよく後ろを振り返り、蛮行を行った主は誰だと確かめる。
「コンチハー。へへへ」
「! アンリマユ……っ」
顔を赤くしたアーチャーは体を捩ってまだしつこく胸を揉み続けていたアンリを何とか振り払い、その頭へと鉄拳制裁を落とす。ごつん。
大変に痛そうな音がして、殴られたアンリは涙目嘘目でひどーい!と胸元で両手を可愛らしく握りこぶしにしてぶんぶんと左右に振ってみせた。
「オレ何も悪いことしてないのに!」
「……冗談を言うのはどの口だ?」
赤い糸で縫い付けてしまおうか?と冗談じみて言えばアンリは打って変わった真顔で、
「え、アンタってばオレのこと好きなのラブなの愛しちゃってるの」
「そうかこの口か、よしわかった了解した」
「もしかしておっぱいタッチ! じゃなくてボインターッチ! って言われたかった?」
ごめんなオレ気が利かなくて、と真顔でアンリが言うから。
よーしもう一発行っちゃうぞー、と天使のような笑顔でこぶしを振り上げたアーチャーさんでしたとさ。


「うううう痛い。痛い痛い痛いようマジ痛い。遺体? オレ死んでる? いや生きてる? でもサーヴァントだからどっちにしても死んでるんですけどねー! なんてねアハハー!」
「……楽しいか?」
心底そう思っているのか?というような顔でたずねてきたアーチャーにお茶目な冗談じゃん、と軽々言い放ちアンリは、ねーねーと足をばたばたとさせる。
「それよりオレお腹すーいーたー。何か作ってよ、美味いもの!」
「何かとは……また漠然としているな。希望はないのか」
「うん特にない。オレ基本的に美味きゃ何でもいい性質だから」
あと楽しければ何でもいい性質だから、と聞かれてもいないことを言い、アンリはキシシと笑う。アーチャーはため息をつくと、よっこらしょと立ち上がった。その途端アンリの目がキラーンと光る。
「細い腰にタックル!」
「だが避ける」
「何……だと……!?」
愕然としてアンリが言い、ふいっとかわされた勢いそのままごろごろごろと転がっていってどしゃーん!と派手な音を立てて壁に激突する。アーチャーはまた、ため息ひとつつくとすたすたと歩いていってその傍にしゃがみ込み。
「君は時々己が虚しくならないかね?」
「ふ……ふふ……! 甘いな……! 悪戯小僧はつれなくされると余計に萌えるもんなんだぜ……!」
「何だか漢字が違う気もするが……まあ深く追及はせんよ」
す、と立ち上がると壁の傍でのびているアンリを放っておきすたすた歩いていくと、アーチャーはエプロンを手に取った。そして後ろを振り返らずに言う。
「少しでいいから待っていたまえ。それなりに美味いものを作ってやる」
「期待通りの答え、ありがとうハニー」
愛してるぜ!との答えはもちろん無視したアーチャーだった。


「プーリーンー!」
しかもでっけー!とスプーンを持って歓声を上げたアンリは目を輝かせてカスタード色のそれを見つめている。そしてさらにそれを見る、エプロン(赤い)姿のアーチャーはどこか誇らしげだ。
「すげー! すげー! プリンプリンプリン! オレ甘いの大好き! えーとねでも辛いのも」
「いいから食べたまえ」
「うん!」
いい子でお返事したアンリはそーれ、とプリンにスプーンを突入させようとしたが、やおら何かに気付いたようなはっとした顔になった。
「?」
そのアンリを不思議そうな顔で見たアーチャーは、どうしたのかね、と言いそうになって。
「…………」
「…………」
プリンを指先でつんつんとつつきだしたアンリの謎の行動に、鋼色の瞳を怪訝そうに細めていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……おい、君」
「へ?」
「一体何をしているんだ?」
さすがに耐え切れなくなって聞いたアーチャーに、アンリは真顔になり。
「いや、アンタのおっぱいもこんな風に柔らかかったらいいなーなんて」
「なっ」
「でけーし揉み甲斐はあるけど硬てーんだよなー。ま、なんてったって筋肉だし、しゃーねーなー。我慢してや……」
「何様だ君はっ!?」
そして変態かっ!?と裏返った声で絶叫するアーチャーになおも真顔のままアンリは、
「何言ってんだ。おっぱいは男のロマンだろ」
「ロマッ……」
「あと尻と太股もな!」
今度その辺チェックさせてくれると嬉しいな!と真顔で言ったアンリの顎へと。
コークスクリューパンチを決め、天井までふっ飛ばしたアーチャーの顔は赤鬼のように真っ赤だったという。


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