彼の目の前で椅子に座って足を組む。履いているのは深々としたスリットの入ったロングスカートで、下手なマイクロミニスカートよりもそこから覗く足は扇情的に見えるだろう。
見えるだろう、見えなければ困る。だって、そういう効果を狙って選んだのだ。彼の目に映るように。そう、映るように。
下手をすれば痴女扱いだ。行動は慎重に慎重を重ねて。計画に計画を練って練って練り上げる。そうして出来上がったまるで精巧な飴細工のように彼を私で絡め取るのだ。
「……なあ、ランサー?」
彼の名前を呼ぶ。その声さえも扇情的に彼の鼓膜へ残るように。
吐息を重ねて残していく。刻んでいく。
私という存在を。彼の体の至るところに。そうやって忘れられなくすればいい。彼を私の虜にするのだ。そう、虜囚。私という看守に見張られる哀れな囚人。
罪は私の心を奪ったこと。
なあ?ランサー。
知っているかな。
私は、君のことを愛しているんだよ。
そのすらりとして逞しい腕に抱かれたいと、日々夢想しているんだよ。
恥ずかしい告白を内心でして、足を組み換える。下着もあえて、女物を選んだ。だって体は女なんだ。心は男だけど、体は女なんだ。
だったら、女として仕掛けなきゃ嘘だろう?おかしいってものだろう、ランサー?
女として君に愛してもらう。その覚悟が私には必要なんだ。そして、準備は出来ている。
後は君が私の罠にかかってくれるだけ。張り巡らされた策に躓いてくれればいい。道端に落ちた石ころのようにそこらじゅうに用意しておくから。
君はただ黙ってそれに引っかかってくれればいいんだ。簡単なことだろう?女が好きな君のことだ、少しの抵抗はあるかもしれないけど、何、すぐに慣れる。
……慣れてもらわなきゃ、困るんだ。
「ランサー」
私はただ君の名前だけを呼ぶ。その他には何も促さない。君が自分から罠に飛び込んでくれるのを、絡まってくれるのを待つばかり。
女ってものはそういうものらしい。凛がよく言っていた。彼女も立派な淑女だ、もちろんその前にれっきとした少女であるのだけど。
淑女で少女。
淫乱で貞淑。
無情で愛情。
刻薄で告白。
繰り返す。繰り返す。繰り返す。繰り返す。
絡め取る。
私の指で、糸を。
意図を糸として紡ぎ上げて、君をそのまま絡め取ってしまおう。そうして、君に抱かれよう。
君の胸板はさぞかし心地いいことだろう。逞しくて、頼りがいがあって、温かくて。
いや、もしかして熱いのかな?
私が触れたら火傷してしまうくらい。
私は剣だ。
私は鉄だ。
私は錬鉄の英霊エミヤ。
とてもとても冷たい、今は、女。
そんな女が君みたいな熱い男に抱かれたら、アイスクリームみたいにそのまま溶けてしまう。とろとろに溶けて、君の体にへばりついてしまう。
そうなったらもう離れない。ランサー。覚悟を決めて。
私のものになって。
私をものにして。
どっちでもいい。
どっちでも同じ。
どっちも違う?
どうだっていい。
なあ、ランサー。
早く、震える足に触れてくれないか。
冷たい私の足は、いい加減凍えてしまいそうなんだ。
だから早く君の熱い体で温めて。女の体の私を男の体の君で抱いて。そしてそのまま押し倒してスリットを引き裂いてシルクのシャツのボタンを乱暴に引きちぎって飛ばして床に転がして行方知れずにしてそんなこと構わずに私を抱いて。
私を犯して。
私を侵して。
まるごと君のものにして。


なあランサー?
こんな私のことを頭のおかしい奴だと思うだろう?とんだ痴女、いや、まだ君は私のことを男だと思っているのかな。
だとしたら覚悟を決めて。考え直して、思いを決めて。
私は女だ。元は男だったかもしれない、だけど今は君に懸想する頭のただれた女でしかない。
だから愛して。君で満たして。私を君でいっぱいにして。
私をまるごと君で塗り替えて。私なんてもういらない。君にそのまま作り変えて。
なあ、そうやってひとつになってしまおう?だって男と女ってそういうものなんだろう?
私を嫌がらないで。嫌わないで。君に嫌われたら私は生きていけない。もう死んでいるって?もののたとえさ。
それくらい君を愛してるってこと。
なあランサー。
早く。


私は足を組み換える。君の喉がごくり、と鳴る音を確かに聞いた。凛の化粧棚から失敬してきた彼女にはまだ早すぎる真っ赤なルージュを引いた唇で、私はにっこりと微笑んだ。そして勝利宣言をする。私の勝ちだよ、ランサー。
だから早く、私に触れて。
君の白い指で私の体中を触って。
そうして。
そうして――――。
あとはどうか、きみのしたいようにして。


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