「アーチャー」
「…………」


えっと。
何なんでしょう、この状況。
赤い弓兵ことアーチャーは、左右に控えた白い槍兵ことランサーリリィと黒い槍兵ことランサーオルタに混乱の極みを感じていた。
「アーチャー、オレの相手はあいつだけだ。だからおまえを本気で愛することは出来ねえ、けれど……おまえもあいつの一部だ。だからな、慈しむことくらいは出来るぜ」
「……オレは……命令がないと……動かん……」
いや、動かないでいいです。というか動かないで!
ランサーリリィの光の御子度200%増しっぷりとランサーオルタの無気力200%っぷりに戸惑うアーチャー、辺りをきょろきょろと見回してみるが辺りには自分と、ランサーズ以外誰もいない。え?
何これ。
罰ゲーム?
「アーチャー。何がしてほしい? オレはきっとおまえの願いを叶えてやるために来たんだと思う。だから言っていいんだぜ。おまえのしてほしいこと、希望を……」
「…………」
すり、とランサーリリィの白い手がアーチャーの褐色の手の上に重ねられる。それにびくりとしてしまうアーチャーだったが、慌てて自分を落ち着けようとコンセントレーションする。深呼吸、深呼吸。
すーはー、すーはー、すーはー。
「き、みたち、」
残念!声が裏返った!
そんなアーチャーだけど、ランサーリリィは優しい瞳で見つめてきてくれて、「ん?」とやはり優しい声で問いかけてきてくれる。首を傾げると、解かれた青い髪がさらりと流れて光を弾いた。びっくりするほど御子様である。
一方のランサーオルタはぼうっとしていて自分から行動を起こそうとしない。自立心がない。自発心がない。行動力ゼロ。きっと、マスターである黒桜が命じるまで何もしないのだ。あとは電波が命じたから、とか。
「…………」
びくっ。
なんてデンパ系のランサーオルタさんの金色の沈んだ瞳が自分の方を見たので慄くアーチャー。す、と白い、刻印が刻まれた手が伸びて褐色の手に重ねられる。
「な、んだろうか、」
「マスターが……」
しろ、と。
「おまえの相手をしろ、と」
電波で命じてきたから、とさらっと言ってしまうランサーオルタさんマジぱねぇっす。
だけどアーチャーはふたりのランサーを相手にする余裕なんてなくて、戸惑ってしまってぐるぐるぐるぐる。
「してほしいことはないのか? 叶えてやるぜ、言えよアーチャー」
「マスターの命令だ……言え」
いやいやいやいや。
そんな風に言われたって、左右からサラウンドされたって、困ってしまうわけで。
「なぁ……アーチャー?」
ランサーリリィの優しい声。
「…………」
ランサーオルタの無言の強要。
ぐるぐるぐるぐる。やめて!左右から責めないで!
混乱するアーチャーの左右の手に、白いランサーリリィとランサーオルタの手が重ねられている。それだけでアーチャーの心臓は高鳴る、ばくばくばく。
慈愛を湛えた赤い瞳がじっと見つめてきても、
桁外れに澄んだ金色の瞳がじっと見つめてきても。
結果は同じ。アーチャーを戸惑わせるだけ。
(……――――〜っ、ああもう!)
アーチャーはすっくと立って。
「おい、アーチャー?」
「…………」
ふたりのランサーの隙をついて、そのままダッシュで逃げ出した。


「おー、おかえり。……って何だ、どした、顔真っ赤だぜ? 風邪でも引いたか……って……」
「…………っ」
ぎゅっ。
唇を噛んだアーチャーに突然抱きつかれて目を丸くするランサー。瞠目しながらぎゅうぎゅうとしがみついてくるアーチャーをなだめようとして口を開きかけるけれど、抱きついた当の本人が早口でこう、言うものだから。
「君が」
「?」
「君が、一番、いい」
「…………っ」
どきんとさすがに胸が鼓動して焦るランサー。いきなりデレられれば当然である。「な、んだよ」と茶化すように言ってみるものの相手は真剣だ。だから勢い、ランサーも真剣になることを強制されてその背中をぽんぽんと叩くこととなる。
「な、落ち着け、落ち着けって。何があったのか知んねえけど、もう大丈夫だからよ」
「……うん……」
幼い受け答えにずくん、と疼くどこか。欲情にも似たそれは、けれど今のアーチャーに向けるには酷すぎた。
だからランサーは心の底に仕舞って、ぽんぽんとアーチャーの広い背中を叩いてやる。
「大丈夫だって。だから安心しろ、な?」
「…………」
「オレがいるから」
その答えに安心して、アーチャーは軽く一度頷くと、目をそっと閉じたのだった。



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