ひょいっ、と少女たちの頭がみっつぶん、植え込みから覗く。
「覗き見なんてやめようよぉ……ふたりに悪いよぉ……」
「何を言うのさ由紀っち! あたしたちは正義の心が命じるままに! 動いてるんだよ!」
「まあ、ただの覗き見であるがな」
おとなしそうにおどおどした少女。元気よく活発そうな少女。理知的で冷静な少女。彼女たちの通り名は……穂群原三人娘、とでもしておこう。
「それにしてもレッドの兄ちゃん、あの兄ちゃんとどういう繋がりがあるんだ?」
むむむ?と首を捻るは活発な少女。その袖を引っ張って、一番下のおどおどとした少女が語る。
「ま、蒔ちゃん……やっぱり尾けるなんてよくないよ……ね、やめよ?」
「由紀香は甘い。もっとここはこう、こうだな」
「鐘っち何をす……うわー! やめろー! やめろやめろやめるんだー!」
「わっ、わわわっ!」
活発な少女の大声に、慌てておどおどした少女がその袖を強く引っ張ってしゃがみ込ませる。その隙に理知的な少女が鳩尾に一撃。
「ぐおお……」
「騒ぐからだぞ」
「親友に当身を食らわすとは何事だ……」
「親友になったつもりはない」
「鐘っち!?」
「鐘ちゃん!?」
「まあ、冗談だ」
脱力する残りふたりの少女。どうやら無事に三人娘は覗き見をしていた対象の視線から逃れることが出来たようで、男ふたりは何かしらを話しながら道を歩いていった。
「ふう……」
「ね、ねえまだ尾行なんてするの? 蒔ちゃん……」
「そら、由紀香が心配と苦悩を同時に味わっているぞ。これを見ながら犯罪行為を続ける度胸があるのかね?」
「……鐘っちは見たくないわけ?」
「…………」
「か、鐘ちゃん?」
「やっ」
そこで理知的な少女が再び鳩尾に一撃。……を食らわそうとしたが、今度は活発な少女にひらりとかわされてしまう。
「ふふふ、一度見た攻撃に当たるあたしじゃねーのさ。こうなったらふたりとも諦めてあたしに……」
「……蒔ちゃん?」
「とうとう諦めたか? 由紀っち」
「……いないよ? あの人たち」
「なんだとう!?」


「やっと撒けたな」
「何の話だ?」
「いや、こっちの話」
うん?と首を傾げるレッドの兄ちゃんことアーチャー。それにあの兄ちゃんことランサーは微笑み返してみせて、な。とアーチャーへ向けて手を差し出した。
「?」
余計に首を傾げるアーチャーに、ランサーは己も首を傾げて。
「手、繋ごうぜ?」
「……なっ」
ぶわわわわっ、と。
全身の毛を逆立てる勢いで、いや、もちろん比喩ではあるが、アーチャーはその褐色の肌を朱色に染めた。ひどくひどく、それは扇情的な光景で。
「嫌か?」
「う、あ、」
「なら、抱きしめるのは?」
「も、もっと駄目に決まっているだろう!」
「じゃあ、手くらい……繋いでくれよ」
な?
先程の気安さとは全く違うしおらしさでランサーが差し出した手にアーチャーは視線を落として、戸惑いを見せると。
「――――ッ」
ぎゅ、と目を閉じて。
「…………!」
えい、とばかりにランサーの手を握ったのであった。
それに驚いたような様子を見せるランサー。自分で言っておきながら。だが彼とて意外だったのだ。まさかアーチャーが手を繋ぐレベルのことだといっても外で承諾するなど。しかし。
「な、アーチャー」
「“な”“な”と君は先程からそればかりで……、」
「オレ、すっげえ嬉しいんだけど」
耳元でささやかれたその言葉。
吐息と笑みと共にささやかれたその言葉に、アーチャーは瞑っていた目を開いてしまい。
そしてランサーと繋がれた自分の手を見て。それでも。
それでも、離そうとはしなかった。
「……愛してるぜ、アーチャー」
「……やかましいわ、たわけ!」



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