「よっ。と、おっと。よっと!」
たんたんたん、と軽快なステップ。
踊るように――――いや実際踊っているのだが、ランサーは点灯する足元のランプを踏んでいる。その度に目前のモニタには点数が加算され、周囲を囲むギャラリーから歓声が上がった。
曰く、“すげえ反応速度!”曰く、“このステージでこのレベルとかマジ神じゃね?”曰く、“やだ、超カッコイイ!”。
最後の歓声にはちょっと思うところがあったアーチャーだったが、観衆の前であからさまに焼きもちを焼くというか、その、嫉妬するのはみっともないので自重しておいた。
こんなに自分を翻弄して一体どういうことだこの男は、と内心で思ってはいたが。
「――――よっし!」
たたん、と最後のステップ。
モニタにはパーフェクト!との文字が躍り、今度こそギャラリーから怒涛の歓声が沸き上がったのであった。
それを気にすることなく、くるっ、とランサーは振り返る。その赤い瞳に射竦められ、アーチャーは一瞬ぴくりとして。
「へへっ」
誇らしげにVサインをしてくるランサーに、ああ、もうこのたわけが。と思ったとか思わなかったとか。


「さっきのはなかなか面白かったな。音ゲー? っつーの?」
自販機で買ったコーラを傾け、ランサーがつぶやく。その隣で紅茶を飲みながらアーチャーはそうだな、と答えた。
「先程君が勤しんでいたのはそういった部類に入るものだ。他にも手で叩くものや、太鼓などを叩くものもあるぞ」
「太鼓?」
首をかしげてランサーが言うから、アーチャーは最後のひとくちを飲み終え指でとある方向を指した。すると、親子連れが微笑ましくバチを持ち、太鼓を叩いている情景がそこにあった。
「へー。ふたりで出来んのか。なあアーチャー」
「やらんぞ」
「何故に」
ゴミ捨て場に缶を捨てたアーチャーに真顔で言うランサー、それに眉を寄せたアーチャーは。
「何故にと問われてもな。男同士であんなもの、一緒にやる方が恥ずかしいだろう」
「なんで。恥ずかしくねえだろ」
オレたち恋人同士なんだし。
「!?」
突然の宣言にぼしゅー、と顔を真っ赤にしたアーチャーは立ち上がると咄嗟にランサーの口をてのひらで塞ぐ。むぐむぐぐ、とあまり深刻そうでない反応をランサーは返した。
「な、な、な、なにをきみはとつぜん」
「むぐむぐぐ」
「い、いみがわからん!!」
「むぐ」
「ひぁっ」
口を塞いでいたてのひらをぺろりと舌で舐められ、アーチャーは素っ頓狂な声を上げる。それで手を離してしまい、ランサーの口は目出度く自由を得た。
「本当のことだろ。言って何が悪い」
「ほ、ほ、ほんとう!?」
「……オレのこと、嫌いか?」
「うっ」
露骨な上目遣いにアーチャーはたじろぎ、赤面もそのままに後じさってしまう。
「なあ、嫌いか?」
「――――ッ」
その時だ。
ぴしゅーん、ぴこーん、ぴこぴこ。
「!」
レトロな電子音が響き、アーチャーはそちらに視線を向けた。そして言う。
「な、なら勝負だランサー。あのゲームで私がハイスコア、頂点を取れたのなら私の勝ち。取れなかったのなら君の勝ちだ、太鼓でも何でも付き合おう」
「え、マジ」
「私に二言はない」
胸を張るアーチャーにランサーはにやりと笑んで頷いた。アーチャーも頷き返した。
ただし、企み成功!といった、なかなかに悪いご尊顔で。


「ずりぃ……」
「君も同意はしたではないか」
「おまえの超得意分野だって知ってたらもっとなんかこう……やりようがあっただろ」
アーチャーが持ち出してきたのは弾幕ゲー、所謂シューテイングゲーム。
鷹の目で雨あられと降り注ぐ弾幕を易々とかいくぐり、アーチャーは見事ハイスコアをたたき出してみせた。結果、勝負はアーチャーの大勝利。
「今度からおまえをアーチャーとは呼ばねえぞ。シューターと呼ぶ」
「何とでも好きなように呼ぶがいい」
ふふんと鼻を鳴らすアーチャー。それをむっすりとした顔で見返し、ランサーは言った。
「で、シューター。おまえは何してほしいんだ」
「え?」
「イカサマとは言え、勝利者だろ。なんかねえの?」
「……え?」
「ねえなら、オレが選んでやるよ!」
その夜。
勝利者様にご奉仕を、とランサーが“秘密のお勤め”を特に張り切り、翌日アーチャーは部屋から出てこれなかったという話。



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