酒を呑もう、と確かにランサーは言ったが。
「このような形だとは思っていなかったな……」
「これだって立派な酒の作法だろ?」
言いながらランサーはシャカシャカとシェーカーを振る。その前には繊細な作りのグラス。
「ほら、出来たぜ」
チョコレートリキュールとミルクを混ぜて出来上がったのは、カルアミルクと呼ばれるものだった。
「…………」
「ん? 何だよ、早く呑めよ。ちゃんと美味く作って――――」
「いや。その、君が好むのはもっとこう、男が好んで呑むような……」
強く、濃いものだと思っていたから。
そう、随分と可愛らしいものを出されてしまった戸惑いを顔に乗せてアーチャーは言った。それにランサーは唇を尖らせ、
「気に食わないってのか?」
「あ、いや、そういう訳では……」
「こいつだって立派な酒だぜ? 呑んでみろよ」
「ん……」
あまり酒を呑まない、下戸の節があるアーチャーとて知っていた。カルアミルクは甘い酒である。
ほとんどコーヒー牛乳のような、甘い甘い酒。
どうしてだか赤いチェリーが添えられたそれをじいっと見て、グラスを手に取り。
「美味いだろ?」
「……うん」
ちゃんと、きちんと。
予想外と言っていいほどに、ランサーの作ったカルアミルクは“酒”として完成していた。
甘いだけでなく、適度にほろ苦い。コーヒー牛乳とはどうやったって間違わないだろう。
「何だ、その顔」
「……感心しているところだ」
「そりゃ、光栄とでも?」
言ってランサーは笑う。言って、ぺろっと唇を舌で舐めた。
「ん」
「…………」
「うん、美味いな」
「――――!?」
突然くちづけられたアーチャーは、目を瞬かせ座っていた椅子をガタガタと鳴らす。
「な、な、なな!?」
「な?」
「何をする!?」
「何って、味見」
「味見ならグラスに残っているのを――――」
言おうとして気付いた。グラスの中になど、ほとんどランサー作・カルアミルクは残っていなかったのを。
「ゴディバ? って奴のリキュール使ってんだぜ。有名なんだろ?」
「確かに有名だ――――が! 話を逸らすなランサー!」
「えー。別に逸らしてねえよ」
「逸らしているッ!」
「もう一杯呑むか?」
「呑むかッ!!」
ぷい、とそっぽを向いてしまったアーチャーに、ランサーは不思議そうな顔をする。先程の自分の行動を、まるっきりおかしく思っていないらしい。
もう一度ぺろ、と唇を舐めて、美味ぇのになぁ、などと言っていて。
「唇を舐め回すな! 下品だ!」
「なんか必死だな、おまえ」
どこか呆れたように、ランサーが言ってみせるから。
誰のせいなのだと、叫びだしたくなるアーチャーだった。
「もう呑まねえなら、グラスよこせよ」
ランサーが手を伸ばして、アーチャーの前のグラスを取る。
そうやって。
「――――ッ」
赤いチェリーを取り、その唇へと運んでいた。
舌を出して迎えに行くような動作がひどく淫らに見えて、アーチャーは挙動不審になってしまう。
「……ん。美味ぇ」
ランサーは笑い。
「おまえの味がする」
赤いチェリーは。
おまえのイメージだと、さらりと言ってのけたのだった。
ならば。
ならば、褐色のカルアミルクも同様か。
問いかけてみたいアーチャーだったが。
返事を聞けば動揺がさらに沸騰しそうで、とても聞くことなど出来はしなかったのだった。



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