こ……。
これはひどい。


思わずアーチャーが心中でそうつぶやかざるを得なかったのも仕方のないことだろう。
だって目の前には四人の男。
五次ランサー、四次ランサー、旧槍、エクストラランサーことヴラドさん。
彼らはひたとアーチャーを見据え、それぞれに壮大なブーケを手にして片膝を地についている。
それぞれが着ているのは戦闘衣装ではなくタキシード。
こ……。
これはひどい。
今回二度目いただきました。


さて、どうしてこんなことになっているのか。
今日も今日とて衛宮邸、家事に勤しんでいるのがアーチャーだった。
衛宮士郎、遠坂凛、間桐桜は学校である。家事が出来る人間は夕方まで帰ってこない。だからアーチャーが自然と担当になるのである。
そこに、来客がやってきた。ぴんぽーん。ぴんぽーん、ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん。
チャイムは鳴る。自分の部屋で洗濯物を畳んでいたアーチャーは手を止めて急いで玄関まで向かう。
ぱたぱたぱた、と足音を鳴らし。
「はい、衛宮ですが――――」
「アーチャー!」
そこに。
ばっ、と突き出された四色の薔薇。
「……え?」
「オレと」
「あ、あの、俺と」
「オレと!」
「我が妻となれ!」
白髪の男が残りの三人から蹴りを喰らう。ダイナミックに足元へと滑り込んできた彼にびくりとして、アーチャーはとりあえず「……何かあったのだろうか」と思ってしまう、危機感の薄いタイプだった。


「プロポーズ?」
「おう」
耳を疑う。自分も男で、彼らも男だ。いやそもそもそういう問題ではなくて。
「君たち、その、格好は……」
「嫁を娶るのに相応しい格好ってのがあるだろうが」
「それにしたってその格好は」
ランサークラス全員がタキシード。五次ランサーと四次ランサーはきっちり着こなしていて、旧槍は少し着崩し。エクストラランサーも同じく着崩してはいるが、それがどこか危うげな魅力を醸し出していて――――。
「それで公道を歩いてきたのか?」
「屋根の上とかを歩いてきたから誰にも見つからなかったぜ」
「そういう問題では……」
ないと思うのだが。屋根の上、電柱の上を飛び移り飛びつきやってきたと?シュールだ。果てしなくシュールだ。
「で、アーチャー」
「え?」
「返事はどうした。返事」
「い……今か!?」
「おう」
胸を張って返される。正直、そんな場合ではないと思うのだが……!
「せ、先輩、そんなすぐには決められませんよ、大事なことなんですから……」
「あ? んだ、おまえオレに逆らうのか」
「ひぅっ」
怯えてしまった四次ランサーの前に、ずいと庇うためでもないだろうが旧槍が出る。
「アンタな、無理言ってんじゃねえよ。いい年して駄々こねたってわかんだろ? 何でもかんでもてめえの思う通りには行かねえんだよ。だから……」
「さあアポロン、そのしなやかな体を」
「人の話を聞け!」
後頭部にキック、またもスライディングなエクストランサー(略)さん。それにハッとしたように五次ランサーが声を上げる。
「おまえ、いるじゃねえか妻! あのラルルー……?とかいう奴! それを裏切ってオレのアーチャーに手出ししようとはふてえ野郎だ!」
「ランルーくんだと思うが……そうだな、君には大事な妻がいるだろう? それを……」
「故人曰く」
「は?」
「“愛する妻は何人いても困らない”」
「…………」
沈黙がよっつぶん。その隙を突くようにエクストランサーがアーチャーに向かってダイブするように飛び掛る。
「うわっ!?」
思わず展開したローアイアス、それにべちっとぶち当たって落ちる姿は虫を連想させた。
「アーチャーナイス!」
グッド!と親指を立てた五次ランサーに、頭が痛いとため息をついてみせるアーチャーなのだった。



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