「ん……ん、ん」
「ぁ、は、……っ、らん、……さぁ、」
「……ん?」
ちゅ、ちゅ、と額に頬にくちづけを落としていたランサーは、腕の中の存在――――アーチャーにと声をかけた。
かけたが早いか、
「しつこいわ、いい加減にしろ、このたわけ――――ッ!!」
思いっきり、突き飛ばされて、いた。
「ま、ったく、ひと、が、だまって、いた、ら、しつこ、く、つづけ、おって、」
ベッドの下から途切れ途切れの声を聞くランサー。アーチャーの日頃低い声は掠れ、わずかに高い。
つまりはそういうことだ。
「……おぅい、アーチャー?」
「なん、だね」
「……アーチャーさん?」
「だから、なん、だと」
「ていや」
「!?」
くどくど言っている状態のところに覆い被さり、押し倒す。簡単なことだった。元から筋力では勝っていたし、相手は油断しきっていたし。
「な、な、なっ」
「うるせぇ。オレは気分を害した」
「なにをッ、言って」
「……なら、今から何をされるかわかってんよなァ?」
ランサーは、んー?と笑って首をかしげる。
絶妙な力加減で表情筋に「笑え」と命じた。「ただし目が笑ってない笑顔でな」と。


ブラックアウト。


「……も、そ、こ、やだ……!」
ちるちると音を立て、足の指を舐める。
最初は汚い、だとか止めろ馬鹿、だとか喚いていたアーチャーもすっかり蕩けてしまってこの様だ。
泡立った唾液を指に絡めて舌の裏で擦りごくんと飲み込んで、その反応を楽しむ。
はー、はー、はー、と忙しない呼吸をも、耳で楽しむ余裕がランサーにはあった。
はー、はー、はー、はー。
「らん、さ、本当に、いやだ、やめ、」
「……めねぇ」
「んん……!」
「……ん?」
びくん、とアーチャーの体が跳ねた。
それから柔らかに弛緩する。
「…………」
「…………」
「……おい、まさか?」
「……だ、から、いやだといったのに……っ!」
涙声でアーチャーが返す、息が荒い、異様に荒い、熱病にかかったかのようだ。
ランサーの腕の内にあるのは指先への愛撫で達したばかりの体。
「ひぃう!」
横向きになった体。
膝をぐり、と下肢へ押し付けてみればやはり濡れた感触と音がした。それと声。
「……なんて声出しやがるんだ、この野郎」
「え、……? どう、して、怒って、」
「怒ってねえよ察せよ馬鹿この鈍感」
あーもう。
「ぁあ!?」
今度は耳の中に熱い舌を前触れなく捻じ込んでやる。そうすればアーチャーの体はまた、跳ねて。
「へん、なところ、ばか、り、」
「ん、…………」
「それ、おしこ、まな、いで、くれ……っ……!」
「…………」
じゃあ、と、がじり、と噛んだ耳は甘かった。
どこもかしこもきっと甘い。
だから尽くそう。喰らい尽くそう。
時間はたっぷりある。朝になっても続けていられるんだ。
バイトは休み。ランサーはシフトを即座に脳裏に広げて、アーチャーの耳の裏に舌を這わせた。
ひく、と鳴る音。
生命の音だ、と飲み下して、ランサーは。
さて次はどこから喰らい付こう、と算段をゆうるり立てていた。



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