アーチャーがそれを見てしまったのは、本当にただの偶然だった。
凛の頼みで教会に何日か住み込みで働くことを強いられ、全く呑気なことだとつぶやきながら。
けれど仕事は完璧に、と働きこなし、ランサーとギルガメッシュに一種羨望のまなざしに近いものを浴びながら主夫まがいのことをしていた。
炊事、洗濯、掃除。
日常生活を運んでいるのなら片付けなくてはならないこと。
そのうちのひとつ、洗濯。
男三人分の洗濯物を片付け、それぞれのものに分け、部屋まで運んでいく。そんなことをしていた日のことだ。
見つけて、しまったのは。
ノックもしなかった、薄く開いていた言峰の部屋のドア。ひょいと顔を覗かせ、「済まないが、両手が塞がっていて――――」と続ける。その動きが固まるのをアーチャーは自分で察知した。
中にいた言峰は着替え途中。そして、その体に刻まれたのは。
どう見ても、銃で撃ち抜かれたであろう古傷。
十年前の第四次聖杯戦争により、衛宮切嗣が言峰綺礼の身に刻んだ痕跡であった。


「それ、は」
「――――」
無言の言峰。鍛え抜かれた体に、心臓に刻まれた傷跡。
それを自分の古傷と重ね合わせながらアーチャーは後ずさる。ドアの前から。覗かせた顔を一刻も早く引いて。逃げなければ。逃げなければ、早く。
だというのに。
「……見た、のだな?」
掴まれたのは手首で、縛ったのは暗い瞳だった。
見てしまっただろう、見たのだろうと言葉は詰るようでも、言峰の声はまるで弾むようなそれだった。
見つけてくれて嬉しかった、とでも言わんばかりの。
それは、声で。


「ん、ぁ、あ――――!」
頑強な膝の上でアーチャーは喉を反らせる。背後から抱き込まれるようにされて、言峰の膝の上に乗せられ、アーチャーはその内を穿たれていた。
言峰の息継ぎに乱れはない。行為などしていないとでも言うかのように、それでも彼はアーチャーを追い詰める。大きく足を開かせたアーチャーを己の膝の上へ乗せ、どうしてだか昂ぶった自身で慣らさぬアーチャーの内へと侵入を果たしていた。
「っは、やめ、こと、みね、」
「……どうした? 随分と乱れているようだが?」
無理矢理にされることが好きなのかと低い声でささやけば、アーチャーの体は大きく戦慄く。
「ちが、う、そんな、こと、は……っ、あ……!」
突き上げられ、大きく広くかさついたてのひらで胸を、傷跡を撫で回される。言峰のそれと同じように心臓を穿ったそれ。
過去によって刻まれた、呪いの朱槍が抉っていったその痕跡。
「見てはならないものを見て興奮でもしているのか? アーチャー」
言峰はそう言うが、そんなものはきっと彼こそ同じ。重く着込んだ法衣の中に隠していた傷跡を、痕跡を見られ、暴かれ、彼こそが興奮していた。
厳重に隠すことで興奮を高めていったのだろう。そしてそれはアーチャーも同じだと言峰は言う。
顔と喉、それと指先くらいしか覗けないアーチャーの概念武装を、性癖だと取り上げては笑った。
「同じだな。おまえもまた、今こうして私に見られてはいけなかった傷跡を見られて興奮している」
がつん、とらしくなく言峰が腰を突き上げればアーチャーの口から悲鳴に似た嬌声が迸る。それに言峰は薄く笑んで、
「あまり大きな声を出すとランサーやギルガメッシュが気付いてやってきてしまうぞ?」
「! …………ッ」
途端に口を片手で抑えたアーチャー、それでも言峰の動きは止まらず、声もまた抑えきれない。
「ん、んんぅっ、ふ、ぅ、ぅ、――――!!」
一度大きく震え、アーチャーが精を吐き出した。続けて、言峰のそれもアーチャーの中に吐き出される。
「――――ッ、ぅ、ん、」
決壊しそうな潤んだ瞳はぎゅっと閉じられ、爪が痕を付けるかのように内側に向けて握られるこぶし。
細かく体を震わせて、絶頂の余韻に崩れ落ちんとするアーチャーの内を、またも突くものがあった。
「!?」
「まさか、仕置きが一度きりで済むものだと思っていたのか?」
「ん、ッ、んんッ、」
涙目でぶんぶんと首を振るアーチャー。だけれど、言峰は笑いを浮かべたまま腰をゆるりと動かして。
「せいぜい耐えることだ。それが私の心を慰めるものとなる」
「ッ……!」
「行くぞ、アーチャー」
低い声が歌う。
腰を掴んでいた手を片方離して、アーチャーの左胸をなぞり嬲る。
心臓のあった場所、生前に魔槍で抉られたその場所を愉しそうに辿りながら。
暴かれた銃創、心臓を貫いたと見える己の傷跡とそれを照らし合わせながら、言峰は嗤った。
笑うではなく、嗤い。
どくんと鳴った仮初めの心臓に爪を立てた。
「同じだな――――」
泥で動く自らの心臓と。
エーテルで編まれたアーチャーのそれをと。
同じものだと言い、言峰は嗤った。
暴かれ、暴いた悦びに心を浸しながら。



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