scene:02 
とんとんと歩いて。
影を、踏んで歩く。

影から外れてはいけない。明るいところを渡ってもいけない。
けれど安心。
ここは全部が暗闇で、光なんてどこにもないから。
とん、とん、とん。
影を踏んで、跳んでいく。
血だまりみたいなどろりとした、素敵な影の上を。
とん。
振り返る。きちんとついてきているだろうか。
心配なんてしていないけど、相棒はちゃんといた。
遊び相手。こうなる、前からのずっと。
足を止めて見ていると金色の目がこっちを見てきた。
この世すべてに興味のないような気だるげな上目遣い。それに向かって、笑う。
ただ相手は黙って見つめてくるだけだった。
……いい。
とん、とん、とん、とまた影踏みを始める。自分たちを呑みこんだ闇。影。
どうしてあんなに嫌って避けていたんだろう。ここは、こんなにも楽しくて。
気持ちがいいのに。
真っ暗な空からどろりと粘った闇が滴って落ちてきた。食べたんだろう。あの少女が、餌を。
こくこく喉を鳴らす音。ここは彼女の体内だ。
笑う。力が湧いてくる。落ちてくる闇のせいだ。彼女はおすそ分けをくれる。いつか、自分たちが彼女のために働くときのために。
だけどそれはまだしばらく先。
名前を呼ぶ声に雑音。とんとん影を踏んで先に行く。呼ばれるまではこうしてていい。呼ばれたら、殺せばいいんだから。
上機嫌でとんとん。しばらくして、後ろからゆっくり大股に影を踏んでついてくる気配がして、うれしくなって声を立てて笑った。
黒みがかった青く長い髪。それと金色の目が好きだ。
罠なんてとんでもなかった。足元いっぱいに広がった影はすべて解き放ってくれるものだった。
あんなに躍起になって。どうしてもっと、早く取りこまれてしまわなかったんだろう。
とん、とん、とん。
滴る。血だまり。先々にある影を踏んで歩く。
彼女の影を踏んでしまった私は、もう彼女のもの。

back.