scene:03
「俺、二番目の男でもいいよ」
その発言にアーチャーは刹那動きを止めた。しばらくしてから解凍。動きだす。
「……は?」
鍋の前、おたまを持ったまま呆然としたような声に士郎はちゃぶ台に頬杖をついたまま、
「二番目の男でもいいって言った」
「衛宮士郎。脳でも沸いたか」
頭がフットー……いやそれはおいといて。あくまで真面目な顔の士郎は頬杖をついたままつぶやく。
「なんかさ。これまで躍起になって頑張ってきたけどもういいかなって。妥協も人生には必要かなって……」
「おい待て衛宮士郎」
アーチャーは思った。妥協というものを覚えたこいつは“自分”になることはないだろう。
いやそうではなく。
「何があった?」
「別に何もない」
「何もないということはないだろう」
士郎は。
ふ、と笑った。
「こういう時だけおまえ、心配してくれるんだな……」
大変です過去の自分がやさぐれました理由は知りませんが。まっすぐというものを忘れたこいつは以下略。
え、だけどそれって人としてどうなんですか教えて爺さん。
教えてHFルートノーマル&トゥルーED制覇後の桜の木よ。
「いいよ、おまえは俺を見捨てて本当に好きな奴と一緒になればいいよ。どうせ俺といたって幸せになんかなれないし未来なんてないしそもそもなんていうか俺…………」
士郎は遠い目をしてつぶやいた。
「大抵が当て馬役だし」
その言葉に何故だかアーチャーも泣けてきた。目頭を指先で押さえる。どこで、どこでこの少年は道を―――――。
「背は低いし体格差でも絶対敵わないし……ああ、因縁って線があったかな……」
それは己に向かって言っているのか。ここにいない誰かに言っているのか。
「落ち着け衛宮士郎。い……言いたくはないが某ルートでおまえは私を救っただろう。一騎打ちという見せ場もあった。あれは」
「他にもあのルートに一騎打ちって見せ場はあったよな。誰と誰のとは言わないけどさ」
やっぱりあいつか。
士郎はやけにさわやかな顔でふ、と笑って宙を見て、
「大丈夫だよアーチャー。俺も、これから頑張っていくから」
「どこを見ている衛宮士郎!?」
「おまえ、言ったよな。“―――――ならば、せめてイメージしろ。現実では敵わない相手ならば、想像の中で勝て。自身が勝てないのなら、勝てるモノを幻想しろ”……あの助言、せいぜい役立たせてもらうさ。全ルートを通ってきた今の俺ならどんなイメージを脳内で実体化することもたやすい。セイバーや遠坂や桜の手助けもあることだし……」
「待て衛宮士郎! それは男として最低だぞ!?」
「―――――決して、間違いなんかじゃないんだから……!」
「いや間違いだろう! それもかなりの!」
「難しい筈はない。不可能な事でもない。もとよりこの身は、ただそれだけに特化した魔術回路―――――!」
「名ゼリフを陵辱するのも大概にせんか貴様!!」
怒鳴り声を上げたアーチャーを、ちらり、と士郎が見る。思わずやや後ずさったアーチャーをしばし眺めて、士郎は視線を落とした。
「―――――投影、開始」
「何を投影開始する気だ貴様はあああああ!」
ちりーんと。
夏でもないのに、風鈴の音が鳴った。
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