scene:04
気付いた時にはもう手遅れだった。時間を引き延ばすことは出来ても、止めたり巻き戻すことはオレには出来なかった。
その引き延ばせる時間でさえほんのわずかなもんだったがオレはそのあいだ精一杯あいつに付き合うことに決めた。
そうでもしなきゃ頭がおかしくなりそうだったんだ。
あいつのことが好きすぎて。
あいつは頑固で不器用で、とてもじゃねえがひとりで放っておけない奴だった。オレのこと好きなくせに素直にそう言えない困った奴。
ほんとに、笑っちまうくらい困った奴だった。
付き合うのも最初は上手く行かなかった。好きだった。好きだったのにな。
だけど、手、つないで。触って、キスして。
今になると笑えちまうけど。オレたち馬鹿みてえに一生懸命だった。
ガキでもねえのに。
おかしいことにはうすうす気付いていた。もともと相手が不器用な奴だ。すぐわかる。
でもオレは止められなかった。その結果がこれだ。
思えばオレたちは。いや、オレは馬鹿みてえなんかじゃなく、正真正銘の馬鹿だったんだ。
好きだったのによ。
奴のこと。
殺す時、生みだす時奴は最初はひどい顔をしていた。それがだんだん普通になっていって。
最後には、なんにもなくなった。
自分は兵器だと奴は言った。兵器は殺すのが仕事だと。
だから自分は大丈夫だなんてふざけたことを抜かした。
私は大丈夫だ。
そんなわけあるか大たわけ。本当に奴は大馬鹿野郎だ。死神と言われて怒りも憎みもせずただ笑っていた。
それが私の仕事だから。
オレが好きだった。好きな、笑い顔で。そんなことを、抜かした。
そうして数えきれない程の人間を殺しては、泣いた。
やがて涙の出ない体になっても。剣を生みだしては、泣いた。
奴をそんな風に変えたのは得体の知れない存在で、例えるなら“世界”とかいう代物らしかった。らしかった、というのはとうとう最後までオレがそいつをぶん殴れなかったせいだ。
誰のせいでもないと奴は言ったが、はいそうですかと認められるわけもない。
むしろ怒りもしない奴にオレの方が怒りを覚えた。
私は兵器だから。
なあ。
オレがそれを聞くたびどう思うのかおまえはわかってるのか?
私が全部やるから。
なあ。
なんで、おまえがそんなことしなくちゃなんねえんだよ。
なあ。
なんでなんだよ。
そうして奴は完全に剣になった。兵器。死神。そう呼ばれる存在になってオレの前から消えた。
オレは思った。
馬鹿野郎。
それから長い時間が経ってオレたちはふたたび出会った。
だが奴はオレのことを忘れていて、完全に自分のことを兵器だと。
笑うことも泣くことも全部捨て去った兵器だと、俺に知らしめた。
“私は兵器だから”
奴は頑固で不器用で、とてもじゃねえがひとりで放っておけない奴だった。だから。
だから抱いた。
―――――奴は。
隠れてじゃなく、初めてオレの前で、泣いた。
エミヤ。
それが、オレのこいびとの名前だった。
兵器でも死神でもない。オレの、愛するこいびとの名前だった。
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