scene:05
私はその時も戦場にいた。
すべてが終わり辺り一面焦土と化した焼け野が原。
なにもない、夕陽だけが照らすこの世は確かに美しかったのだ。
私は兵器だ。速やかに壊し、滅し、殺すもの。そう作られたものだ。
今日は何人殺しただろう。
瓦礫の上に腰かけ呆としながら指折り数えてはみたが無駄なことなのですぐやめた。
私は兵器だ。世界という名の人に作られた兵器である。いつの時代も人を殺すのは人だ。私は兵器であって人ではないが人により生みだされた一振りの剣である。
兵器に感情などいらない。
私はかつて持っていたそれらをすでにほとんど手放しかけていた。
大変なのだ。余計なものを持っていればそれだけメモリを食う。“仕事”にも影響が出てしまう。
だというのに、私は泣いていた。ぼろぼろと両目から惜しげもなく涙を流し。
プログラムの修正を。
けれど止まらない。視界がみるみるうちにぼやけて輪郭を失っていく。
あたたかかったひと。好きだと言ってくれた誰か。その笑顔。
それが誰なのかわからない。
「こわいよ……」
気付けば流れ落ちる涙を両手で拭いながらつぶやいていた。
だけど。
こわい、とはなんだったろうか。
今にも落下してきそうな夕陽。そうなった瞬間、私はそれを障害物と見なし速やかに破壊するだろう。
稼動するメモリの80%でそんなことを考えながら、残りの20%でオレンジ色の光の中で笑う誰かの顔を思いだそうと私は懸命にあがいた。
無駄なことであると充分に理解しながら。
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