scene:07 
「―――――、」
詰めたような息を吐きだす。やけにそれは熱くこもっていた。うっかりすれば結露しそうな。何がと問われれば困るのだけど。
うっすら鋼色の目を開き、ゆるやかに擦りつける腰の動きをそのままにまた、恥じるようにか封じるようにか、閉じる。
ぞっとした。
少しいいだろうか、と。
相手から言いだすことすら稀だったから少し驚いた。割り当てられた部屋で寝転がって雑誌を読んでいたところに開けられた襖。何事か言いだすのは大抵自分からばかりで、だから、驚いた。顔には出さなかったけれど目には出たかもしれない。
なにしろ“目は心の窓”だというらしいので?

君は動かずに。
……なに、風変わりな……だと、思ってくれればいい。
…………どうして思いついたかなどと、聞かないでくれないか。
私にもわからないのだから、と相手は言って、途方に暮れたように突っ立っていた体勢を崩し、畳に膝をついた。そして、始めた。
途方に暮れていたなどと。訂正しよう。相手は実に積極的に動いた。部屋に足を踏み入れる前から。言いだす前から、提案する前から、すでにもう熱くなっていたらしいそれを擦りつけてきて、静かにしかし着実に高まっていった。
目の毒だ。良く言うなら媚態。悪く言うなら痴態、を、見せつけられて、動かずにとは。
「っ、」
また声にならない声が吐きだされた。軽いのに、塊のようにがつんと落ちてくる。胸元に。
ああこれは完全に毒だろう。目の毒。体の毒。毒は出さないといろいろと悪い。
だというのに自分はおとなしくされるがまま。したいようにさせている。明らかに、自分も高まっているというのにだ。
なんというか。
健気。
間違った方向にだろうが、健気に見えたからだろうか。恥ずかしいだろうに(たぶん)言いだして(その割には堂々としていたような、気もするけれど)自分から(だけどそれは欲望極まった果てのことで)こう、やってきて。
…………。
こっちから動いてもいいんじゃないだろうか。
思った。
直後に、ゆるく繰り返すばかりだった動きに変化が出た。いや、変化というよりは―――――変則的?
口だけを“あ”のかたちに開いて、予想外といった風な顔をして、相手は体勢を崩した。こんな時でも規則正しく繰り返していた動きが崩れ、目の前の体が震える。さて、とっさに顔を伏せたせいで見えなかったが、瞬間の唇はだらしなく開いていたか噛みしめられていたか。
起こしていた上半身の、畳についていた肘を離して腕を伸ばし、その顎に触れて顔を上げさせてみてもいいんじゃないかと思った。
これだけ好きにさせていたのだし、もう相手だって我慢がきかないことだろうし、こっちだってろくにどうこうされているわけでもないのに我慢がきかなくなってきているし、それに。
触りたい。
触りたかった。こんな風に体の一部分と一部分だけじゃなく、あらゆるところを触れ合わせたいと、そう。思ったのだ。
「        ?」
問いかける。すると下を向いたまま、先程とは別に、反応を示すように体を細かく震わせた。
「         」
答えが返ってくる。また、体が少し崩れた。濡れた音が鳴った。さて。
「         」
答えを返す。下を向いたまま動かない。そんなにしたいのか。続けたいのか、これを。
それとも、我慢できなくなったのか。言いだせずにいるのか。それを。
もしくは、もう。

“目は心の窓”。
だというので。
その濡れた、ある一部分と同じく濡れた鋼色をこじ開けて確かめたいのに伏せて見せてくれない。
手っ取り早く体を暴いてみるより難しそうだ。
面倒臭いな、と思ったのか、ぞくぞくする、と思ったのか。
それさえも判別つかず、とりあえずは、手を、伸ばしてはみた―――――。

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