scene:14
「デッドエンドからあなたを救う」
胴着姿の虎。
「タイガー道場!」
ロリブルマ。
いつものタイガー道場の面子。そこに、見慣れない顔があった。
白い髪、褐色の肌、鋼色の瞳、身長は低いがプロポーション的にぱっつんぱっつんの体に纏うは体操服とブルマ。ロリブルマとおそろいである由緒正しい装束、ただしカラーリング効果でかなりエキゾチック。
「は……はじまる……よ……?」
ハイテンション上げていこう!上げていかなければむしろ死!ハイテンションオアダイ、THE MOVIE……!なノリのトラぶるに対して新顔はかなりゲージが低い。なんというか、ついていけない。入っていけない。空気読めない。KY。いや一般的には彼女が正しいのだが、この異空間では常にゲージぶっちぎりが常識なのである。
「あま―――――い!」
「ひあっ!?」
当然、罰が下った。虎にケツバットならぬケツ竹刀(ネーミング的にどうかと思う)をかまされて新入りは甲高い悲鳴を上げた。
痛いとかそういうのではなく精神的ダメージだ。竹刀で叩かれたのである、臀部を。道場的テンションで。
―――――このタイガー道場ではテンションの高い者ほどパワーアップする、心身的にだ。つまり常識人に待っているのは、死!
「うんまあ死ぬことはないけどね? だけど死にます!」
「どっちさ!」
「細かいことなんて気にしてたらここでは生き残れないわよ?」
「いや、生き残れないというかだな、何故私は、」
へたりこんで今の僕には理解できない的な顔をしている新入りにロリブルマが微笑みかけた。弟子一号と呼ばれる彼女は、新入り、弟子二号ができたことがうれしいのか愛らしく首をかしげて。
「仕方ないなー。手短に説明してあげるからよく聞いてね? ……聞かなければ死!」
「だからなんですぐに死か!」
死ぬのは奴だけで充分だ!と叫ぶ新入りを華麗にスルーしてロリブルマは微笑んだまま、
「あなたはマスターの借金のカタにここに売られてきたの」
―――――。
「イリヤちゃんもなかなかあくまっこよのう。いくら遠坂さん相手でもあの利息はないわー」
「あら? リンが納得したのよ? わたしは別に強制してないわ。選んだのはあくまでリン。あはは、だけどシロウじゃなくても、人生のデッドエンドって簡単に起こり得るもんなんっすねししょー!」
新入りは泣いた。
声を殺して泣いた。借金のカタとして売られた自分の行く末と、これからのマスターの行く末を思って……!
「だからね、今日からあなたはわたしたちの仲間よ! ここでデッドエンドったシロウを迎えて正しいルートに戻してあげましょう!」
「うんうん、一緒に頑張ろうね、弟子二号!」
輝くような笑顔を見せてくるトラぶるに、すすり泣いていた新入りはキッと顔を上げる。幼い顔が凄味を帯びた。鋼色の瞳はさながら、剣。
「誰がそのような愚行を!」
張られた声にきょとん、と師弟はそろって目を丸くした。彼女たちに新入りは続けて声を張る。
「誰が衛宮士郎などを救うものか! 救う? この手にかけたいと願ってやまない相手を? は! ある意味好都合だ、ここに来たが最後。復活などできぬよう、かつ輪廻転生の枠からも外れるほどに完璧に抹殺してやろう―――――!」
へたりこんだままというのが情けないが。ついでに衣装はブルマだ。
しん、と沈黙が落ちる。
三者は見つめあう。ロリブルマが口を開いた。
「それでししょー、タイムスケジュールですとそろそろシロウがこっちに来るころなんですけど」
「あれ、またかー。今度の死因は……っと」
「君たち私の話を!?」
「聞いてないわそんなの。借金のカタに売られてきた身で意見できると思ってるの? そもそも妹が姉に逆らえると思って?」
まあ正しくはわたしはあなたの姉であって姉じゃないんだけど、と言うロリブルマ。なになに?と虎。
「うんうん。タイガはあっちで岩塩でも齧ってて。沖縄産よ?」
「わーいめんそーれ! だけど水もほしかったかなー!」
道場の隅でカリコリと岩塩を齧る虎を背景に、ロリブルマは髪をかき上げる。
「いい、ここでは、あなたの、意見は、通りません。」
「いちいち区切らずとも……」
しかも最後に。までついた。某アイドルグループじゃあるまいし。古代すぎる。新入りはいまだへたりこんだまま、ロリブルマを呆然と見上げることしかできない。
「あなたは今までの自分を捨てるのよ。これからはここで弟子二号としてわたしたちとデッドエンドったシロウをやさしく癒して、時に叱って、そして慰めるの」
「叱ってもいいのだな!?」
「はい、そこに反応しない」
叱るじゃ済まないでしょうとつぶやいて、しゅんとうなだれた新入りをロリブルマは見下ろした。
「まあ、恨むなら自分を売った金喰い魔術師のマスターを恨むことね。ここに来るシロウはあくまで救済対象。刺したり斬ったり射ったり罵ったり嘲笑ったり階段から突き落としたりしちゃ駄目」
「……無理だ」
「うん?」
「…………無理だ。衛宮士郎を救うなど、私には。…………それと、このような格好も…………」
あらゆる箇所がぱっつんぱっつん、指先でつついたら破裂しますと言わんばかりの格好を恥じるように新入りは己の姿を見やる。特に胸……といった風に掴んで揉むようにしているのに、
「あ、言い忘れてたけど、もうシロウ来てるから」
ロリブルマが非情なお知らせをアナウンスした。
自らの胸を揉みしだいた格好のまま道場の入り口を見やる新入り。そこには今まさにデッドエンドってきました、という我らが主人公、衛宮士郎。
目の前でそれ何メロン?という感じの自己主張が激しすぎるバストに呆然としている。
「な、あ、あ、あ、」
褐色の肌が見る間にかああああ、と赤くなっていく。衛宮士郎の肌も同じく。
だって、目の前にぱっつん(略)なブルマ姿の見た目美少女がいるのだ。しかも自分で自分の胸を。なのでさらにおおきさがしゅちょうされて。
「あ、え、う、あ、」
ぱん!と大きな音を立てて衛宮士郎は鼻の辺りをてのひらで押さえる。だからと言って押さえられるわけでもなくひとすじ垂れる、赤い。
「―――――ッ」
鋼色の瞳が潤んだ。
できししろー、できししろー、できしー、できしー、デキシー。
涙声の絶叫が道場に響き渡り、デッドエンド救済の場のはずのそこで二度目の死を迎えた青少年がひとり、誕生したのだった。
後日談。
「ししょー! 入り口に青いのとか金ぴかのとか黒いのとか来てまーす!」
「はーい追い返しなさーい! ここは士郎専門の道場だからねー!」
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