scene:16/05 
「私とランサーを引き裂く者など皆滅びてしまえばいいと思うのだが、どうだろうランサー」
「どうだろうってなんだよいきなり。つうか突然現われるんじゃねえよ!」
素で語った黒い弓兵に向かって青い槍兵は怒鳴る。ぶっちゃけ心臓が貰い受けられたかと思った。悪い意味で。ものすごくドッキリした。あくまでドッキリはカタカナで、とかいらない知識が聖杯からダウンロードされたが全力でうっちゃった。
即座に距離を取ろうと飛びすさる。黒い弓兵は追いかけてこなかったが、視線が。
金色の視線がどこまでも追いかけてきて、体中に絡み付いていやあ見ないでえ!状態だった。
「いやな。今日は七月七日……七夕だろう? 日頃、都合で離れ離れになっている私としては是非この機会にランサー、君に会いに来たかったのだよ」
「えっとな。なんかすっげえ違和感があるっていうかよ、つい先日っていうか昨日会ったような、ああうんそりゃあいい、深く追求とかしたくねえ。―――――離れ離れってよ、おまえ、そこにいるじゃねえかよ!」
胸に手を当ててうつむき、視線をつまさきに。そんな黒い弓兵の背後を青い槍兵は白い指先でビスっと音がするくらいに指した。
そこには黒い槍兵の姿。いつものようにやる気なくどこを見るでもなく、気だるく立っている。
黒い弓兵はその言葉に背後を振り返り、黒い槍兵を見た。熱っぽい視線でじっと。黒い槍兵は動じない。温度のない視線で見返す。じっと。しばし見つめあうふたり、動きませんが放送事故ではないのでお待ちください。
振り返ると黒い弓兵は、
「“君とは”離れ離れの身だ、ランサー」
「君とはじゃねえよ欲張るんじゃねえ! ひとりいりゃ充分だろが! おひとりさまおひとつかぎりです!」
「何を言うのだねランサー、ランサーは何人いても困らん、むしろランサー百人に私が乗っても大丈夫、的な」
「いや意味わかんねえし!」
物置扱いか。無茶な改変でわかりにくいし。
ところで赤い弓兵はというと、青い槍兵の後ろでじりじりとしていた。黒いふたりに対して。
黒い弓兵は今すぐ叩きのめしたい。なんというか見ていられない。自分と同じ顔、同じ声、同じ―――――ものが醜態、としか言えないものをさらしているのは見ていられない。衛宮士郎と黒い己の写し身。どちらを殺したいかと問われれば、答えづらい。それほどに。
だがしかしそれの傍には黒い槍兵がいる。あれは……苦手だ。
赤い弓兵は内心でつぶやく。同時に胸元でこぶしを握ってしまう。でなければ不穏な鼓動に自らを引き裂かれてしまいそうで。
とても、平静ではいられない。
それって怖いっていうんじゃないのと白い少女がいたなら言うだろう。認めたくはないがそう、なのかもしれな―――――違う!
「怖くなどない!」
叫んだ赤い弓兵に三種の視線が集まる。青い槍兵は驚いて。黒い弓兵は興味なく。黒い槍兵は……理解不能。
「何を突然叫んでいる、ツンデレ」
「だからツンデレと言うなと!」
「ツンデレをツンデレと言って何が悪い、ツンデレ」
平行線だ。
黒い弓兵はふいと気まぐれな猫のように会話を打ち切ると、ここからが本番だとばかりに毛を逆立てた猫のような赤い弓兵の肩へと手を添えている青い槍兵に向かって笑いかけた。
「それでランサー、本題だ」
「そっちの黒いオレとよろしくやってりゃいいだろ!」
「七夕に付き物の天の川。英訳すればMilky Wayと言うのだがな」
「無視かよ!」
答えは聞いてない!
青い槍兵に笑いかけつつ黒い槍兵に腕を絡め(黒い槍兵は宙を見ている)黒い弓兵は指を一本立て。

「君のミルクを私に飲ませ」
「ちょお待ててめえええええ!」
「下品にも程があるわ貴様ああああああ!」

場は一気に阿鼻叫喚となった。ちなみに由来はギリシャ神話で、Milky Wayとはそっちのミルクではなく母なるミルク、母乳の方である。
故意でも天然でも間違えたらダメ、ゼッタイ。
「川になるほど溢れさせてくれても私としては一向にかまわんのだが、ランサー?」
「こっちがかまうっつってんだよ! 大体オレはアーチャー以外には」
あ、まずい、やばい、危険。
赤いツンデレの猛攻撃、どこからか―――――I am the bone of my sword.とか聞こえてこないかと青い槍兵が顔色まで青くなり辺りを見回そうとした瞬間、
「―――――ッ!」
声にならない絶叫が聞こえ、青い槍兵と黒い弓兵の視線が向いたその場所には。
「……顔でいいのか……」
「…………ッ! …………ッ!!」
いつのまにか跪かされて黒い槍兵に髪を掴まれ、蒼白になって必死に首を振る赤い弓兵。
「ランサー!?」
さすがに驚いたように、自らの腕から逃れていた黒い槍兵の姿に目を見張る黒い弓兵、瞳の色、烈火のごとく殺気を漲らせる青い槍兵。
「てめえ……オレのアーチャーに何してやがる!」
先程とは種類の違う阿鼻叫喚。その中でひとり己のペースを保った黒い槍兵はことん、と首をかしげて、

「……せっかくの七夕……やっちまえ……と、命れ……電波、が……」
「電波!?」
「…………ッ!!」
「ランサー……ミステリアス……!!」
「ミステリアスとか違うよな!?」
「……オレは命令には逆らわねえ……」
「いや逆らえよ!! 自分の意思ってもんを持て!! つうかアーチャーを離せもうなんでもいいからアーチャー離せよ!! アーチャー離してやれ!! 泣いてる! 泣いてるからよ!! 声出さないで震えてもっのすごいぼろぼろ涙流してんのが見えねえのかよてめえらはよ!!」



もはや七夕とか全然関係ないですよね!だとか。
黒い奴らはほんとろくでもないですよね!とか。
いろいろあるらしいですが、青い槍兵がとりあえず赤い弓兵より先に磨耗しそうなことは、確かです。

back.