scene:22
子供にされた。
「…………」
「…………」
まあ、原因はどこにあると言えば至って簡単。英雄王(小)でしかない。だけれど、言っておくと英雄王のせいではない。完全に今回の件はこっちに非がある。
「……だから直感で動くなと言ったろうに」
「うん。なんていうか。すいませんでした」
ぺこりと頭を下げた。アーチャーは眉を寄せて腕を組んでいる。
野暮用があって教会に戻ったときのことだ。ちょっと興味が湧いて、英雄王の部屋に入ってみた。半年前の我様ならともかく今の姿なら何かやらかしたとしても仕方ないですね、で済むと思って。
部屋はきれいに片づいていた。整理整頓を体現したような部屋だった。へえ、と少し驚いてうろうろ歩き回る、ちょっとした武器の原点なんかが落ちてたりしていないかな、とか思ってみたけどそんなことはなかった。
完璧すぎてつまらない。ち、などと舌打ちをして部屋を出ようとした瞬間だった。
机の上にそれを見つけたのは。
「なんか。美味そうだったから」
おまえの分も持ってきたんだぜ、と言えばいらん、と渋い顔で返された。だろうなあ。
「この程度で済んだからよかったものの、もし命に関わるようなものだったらどうするつもりだったのだね、君は」
「ん、それはねえな」
「何故言いきれる」
「だってよ、オレがいなくなったらおまえ泣くだろ」
いくらオレがどんなに迂闊でもおまえ泣かすような真似はしねえよ。
そう言うと、アーチャーは固まった。見事に。
いつもなら肩を叩いたり、髪をぐしゃぐしゃにしたりするところだが背が足りない。なので服の裾を引っ張ってみた。
「アーチャー?」
は、と覚醒したアーチャーはものすごい顔をした。なにそれ怒ってんの、つかオレ殺されるんですか殺されますか、みたいな。……つか、なんで、怒りながら泣きそうな顔、
「いてててててて」
頬を左右に伸ばされた。子供の頬はやわらかいのでよく伸びる。そりゃあもう餅のように。
「痛てえ! つうか痛てえ、いきなり何すんだよ!」
「それはこちらの台詞だ! ……いきなり、何を言いだすのかね君は……!」
アーチャーは泣いても怒ってもいなかった。なんて言ったらいいのかよく……ああ、
「アーチャー」
擦り寄る。
びく、と擦り寄った体が震えた。
「オレの台詞にときめいただろ」
「! …………!?」
「でもって照れてる!」
「照れてなどいない!」
「照れてる!」
きゃー、と両手で頬を押さえてはしゃいでなんてみる、子供らしく。思わずアーチャーはこぶしを振り上げたがそれをどうとも出来ない。当然だ。だって性格上、いたいけな子供相手に鉄拳制裁なんて無理だろう。
たとえそのいたいけさが“見た目だけ”だとしたってだ。
「アーチャー!」
まるで某アインツベルンの令嬢のように歓声を上げ抱きつく。すると、な、と声を上げて真っ赤になって見事に固まった。またも。
「一体何のつもりだね!」
「あー、なんつうか中味も外見に引きずられてガキになってるみたいでやたらとはしゃぎたくなる……んじゃねえの?」
「他人事のように言う台詞か!」
「んーよくわかんねー!」
「無責任な……ッ」
子供に責任を求めるのが無駄だ。
大人らしくずるく言って、子供らしくじゃれついた。甲高くなった声ではしゃげば腰にしがみついたまま振り回される。
やろうと思えば引きはがせるだろうに。いや駄目か。小さいのを無下にするなんて、まったくもって不得意だろうから。
プラス好意があれば倍率は跳ね上がってうなぎのぼり。
「ったく、おまえは本当かわいいなー」
「なに……!」
「でもってオレもかわいいだろ?」
絶句したアーチャーを見つめて一瞬だけにやりと笑うと、ぱっと無邪気な顔に切り替える。
まずい。
これは楽しいかもしれない。
「なあ、遊ぼうぜ? ……遊んでくれるよな? アーチャー」
シャツに埋めていた顔を上げてささやくとまた顔を埋め頭上のしどもどする気配にほくそ笑み、しばらくはこの時間を楽しむことに決めたのだった。
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