つないだ指がほどかれる。
怪訝に思って見れば、うつむくところをばっちりとらえてしまった。
おまえなんで―――――問いかけようとしてやめる。耳が赤い。こういうときは大体かわいいことを言う。
「…………」
じっと見ていると耐えられなくなったのか、言い訳するように早口で、
「君が、いやなわけではないんだ」
「別に誰もそんなこと言ってねえだろ」
「誤解されるのは避けたい」
トラブルはごめんだと言外に。だったら指を離さなければいい。自分からつないだ指だけど。
そんな風な意味合いをこめて視線を投げかけ続けていると、察したのかさらにうつむいた。
「……その。慣れて、しまうのが」
恐ろしい、と言う。ほらやっぱりかわいい。かわいくて、面倒だ。
図体がでかいくせに中味はまるで育っていない。「元」の方がよっぽど成熟している……というのは言いすぎかもしれないが。
仮面をかぶるのは得意なくせに不意のアクシデントに遭うとぽろりとそれを取り落としてしまう。そうして現われたのは中にしまいこまれていた柔い本心。ずっと仮面で隠されていたので驚くほど柔い。素手で触っていいのか心配になるくらい。
取り扱い注意のラベルを貼っておけ。そうすればまわりもそれなりの対応をしてくれるから。
心は硝子。取り扱い注意。痛くしないでください。
外側にはいくら傷がついたって平気な顔をしているのになと思った。
「慣れて何の悪いことがある」
「なくしたときに。あきらめるのは得意だが」
「あきらめるなよ。死に物狂いで探せ、オレはどこにも行かねえけど」
おいていけねえよ、と顔を見て言う。下からのぞきこむように。
「おまえみたいな危なっかしい奴。おいていけるか」
「危なっかしいとは何だ」
「そのままの意味だ馬鹿」
自覚しろ。
吐き捨てるととっさに言い返そうと顔を上げる。鋼色の瞳がこっちを見た。チャンス。
両頬に触れて、
「―――――」
固まる。
見事に。
「な、な、な」
やっと解放されたかと思えば、壊れたレコードみたいに繰り返しだした。顔がみるみるうちに赤くなっていく。
本当に、不意のアクシデントに弱い。
「―――――ッなにをする!」
「キス」
「ぬけぬけと平気な顔をして言うな!」
「いや、隙だらけだったからよ。こりゃいただかねえと損だと思って」
「損とか得とかそういう問題ではないだろう!」
「あーうるせえな、じゃあおまえもやれ。ほら」
それでおあいこにしようぜと言えば目を見開く。真面目な顔でそれを見つめて、目を閉じた。
「いて」
頭を叩かれて目を開ける。
「殴れって言ってねえだろ。キスしろって言ってんだ」
「出来るか!」
「おまえキスもできねえのかよ。そりゃ問題だ」
わざとらしく驚いて言ってみせる。すると予想通りに、
「誰が出来ないと言っ、」
まずいと思ったのか口をつぐむ。だが遅い。
「だよな」
にんまりと笑んで言ってやった。
本当に危なっかしい。
隙だらけだ。


絶句したところをもう一度唇で塞いで、抱きしめて背中を叩いて頭を撫でる。
下りてきた髪をおっとと上げてやって、もう一度笑んで手をつなぐ。
「やっぱおまえ、オレがいないと駄目だな」
あっけらかんと言い放って歩きだす。
しばらくして我を取り戻したらしく後ろからたわけだの離せだの言ってきたが、全部無視して歩き続けた。
いろいろ難しく考えこむからいけない。
慣れるだの何だの思うより先に、頭を空っぽにしてしまえばいいのだ。



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