「ヤキモチ」


妬いてるんだろ?
言ってみれば、目の前の男はぽかんと目を丸くした。言ってみれば、当の自分も何だか恥ずかしかった。
それはともかく、だ。
「相手なんか誰だっていいんだ。遠坂、セイバー、それからイリヤ。とりあえず俺が親しくしてる奴だったら誰でもいい。そのみんなにお前はヤキモチを妬く可能性がある。いや、可能性なんかじゃない、これは事実だ」
その恥ずかしさを押し切って言い通してみる、言い切ってみる。男はぽかんと黙ったままだ。いつもの嫌味などその口からはまるっきり出てこない。
「だってお前」


言った。


「俺のこと、すっごい強く思ってるだろ?」
そうなのだ。そのはずなのだ、好きの反対は嫌い?違うだろう。
好きの反対は無関心。だったら?
強く強く、思ってるのだとしたら、それは?無関心じゃないだろう、違うだろう?それって、それは。
好きだってこと、だろう?
執着執念、念入りに殺意。そこまで思われたのならもう嫌いなんてものじゃなくて好意だ。安易だけれど殺したいほど愛してる。
俺を殺して自分の存在を――――なんて言い訳だ。だってお前は答えを得た。
それでもお前は俺を強く強く思ってる。想ってる。だったらそれは好きってことだ。
「なあ、アーチャー」
俺のことを強く見てる視線を、感じてるんだ。
遠坂と魔術のことで話してるときとか。
セイバーにお茶を勧めてるときとか。
イリヤと遊んでやってるときとか。
いろんなときに、俺は視線を感じる。アーチャー、お前のだよ。強い、痛いほどの視線を感じる。
だからアーチャー。言ってしまえばいい。自分はヤキモチを妬いてるんだって。
“オレ”はお前が好きなのだと。
“私”ではなく“オレ”と。
本音でそう、言えばいい。あの殺し合いのときのように。
本音で思いっきり、俺にぶつかってくればいい。
そうしたら俺はお前を全身で受け止めてやるから。だって、俺も。
俺もお前が好きだから。遠坂に、セイバーに、イリヤに。
ヤキモチを妬いてしまうほど、俺もお前が好きだからさ。
だから、言ってほしいんだ。
“オレもお前が好きだ”って。
そうしたら俺はお前に全身でぶつかっていけるから。全身でぶつかって、抱きしめて、頭をかき回して、髪を梳いて、首筋に鼻先を埋め、何の匂いもしないのに少し笑って、そんな自分にまた笑って、それからそれから。
やりたいことはたくさんある、だけどそれにはお前の告白が必要なんだと。
俺からじゃなくて、お前の告白が欲しいと。
思ってしまうのはきっと、間違いじゃない。
それでも促すために正座している膝の上に乗せられた手の上に手を重ねる。するとびくり、肩が揺れた。ほら、無関心なんかじゃない。
「アーチャー」
名前を、呼ぶ。


それから先は、お好きなように。



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