各部屋にクーラーが欲しいわと言う凛たちは、時折縁側に涼みに来る。その際にはランサーの部屋の前を通らなければいけない。
ということはその際には、部屋の前で、廊下で眠るランサーを踏み越えていかなければならないのだ。
「もちろん君のことも心配している。凛たちの次にだが」
「……その言葉、地味に傷つくんだが」
枕を抱え、ごろん、とランサーは寝返りを打った。あー、暑い。などと呻きながら。
その赤い瞳が、ちらりとアーチャーを見上げる。
「おまえ、暑くねえの」
「特には」
「――――へえ」
剣製の、錬鉄の英霊だもんなあ。
そう言ってランサーは、ふと目の前にあるアーチャーの足首に手を伸ばす。
「ッ!?」
「ああ、冷てえ。気持ちがいいな」
そうだ。ランサーはつぶやく。
「おまえを抱いて寝たら、さぞかし気持ちがいいだろうよ」
「――――ッ、は!?」
「冷たくて、ひんやりしててよ。そうしたなら、オレも部屋に戻れる。うん」
「……寝るだけでは、済まないだろうに」
「うん。まあ、そうだな」
「ここは、否定するところだろう……っ!」
息を。
呑む。
足首に触れていたランサーの指が、巧みに動き始めたからだ。
それはスラックスの隙間から忍び込み、出っ張った骨を撫でて、足首を擦り、ふくらはぎを。
「や……めっ」
「涼んでるだけだぜ?」
「嘘を、つけ」
「本当のことだ」
にやにやと、笑ってランサーは言う。嘘だ。明らかに、彼は嘘をついている。だとしたら、ただ涼んでいるだけならば指先はいやらしく、こんなにもいやらしく蠢いたりしない。
愛撫をする舌先のように。
ちゅっ。
「ひ、あ!?」
はだしの足に、甲にくちづけられてアーチャーが悲鳴を上げる。慌ててばっと口を手で覆うが、漏れてしまった声は止められなどしなかった。
床に転がったランサーはそのまま、スラックスを舌で押し上げて先程指で辿った後を舌で追う。骨を。足首を。ふくらはぎを。
もちろん不自由な体勢だ、身を半分起こしてまでランサーは舌先で愛撫を行う。
「熱く、なってきたな」
からかうように、ランサーは舌を蠢かせながらささやく。
アーチャーは怒鳴り声を上げたかったが、夜――――そして、今、口を覆う手をどかせたのならばおかしな声が迸ってしまいそうで。
出来なかった。
「……んっ、ふ、ぅ、」
「声。出して、いいんだぜ」
首をふるふると振る。出来ない。そんなことは、出来ない。
ふうん、とつぶやいたランサーは舌を最大限に伸ばして、スラックスの生地を押し上げ、その中までを確かめた。
「全部」
くぐもった声で、ささやく。
「焼けちまってるんだな」
がくん、とアーチャーの腰が折れる。おっと、とランサーは笑って手を伸ばし、その体を支えながら。
「部屋。入ろうぜ」
「…………ッ」
「嫌だなんて」
言わせねえよ、と立ち上がり、震えるアーチャーを抱き上げて中途半端に開いた襖の奥へと。ランサーは、消えていった。



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