「その心臓……貰い受ける!」
「く……!」
舌打ちしたアーチャーの前に、差し出された赤い薔薇の花束。
「……え? は?」
きょとんと目を瞬かせるアーチャーに、ランサーはにこりと笑って。
「恋愛的な意味で。貰い受けるぜ?」
「――――なっ」
ぶわっ。
耳まで薔薇のように赤くなったアーチャーは、べしんと花束を叩き落そうとする。
しかしそれをさすがの敏捷で避け、ランサーは尚も迫るのだった。
「なあ、なれって。オレのもんにさ」
「いや、それはっ、」
「なーれって」
「いやいやいやいや無理だ! です!」
真顔で拒否し、なのに照れて。
慌てるアーチャーに、ランサーが笑う。
「なれよ。愛してやるぜ?」
「愛していらない!」
真顔になり。
ずさっと後ずさったアーチャーに、尚も迫るランサー。
「いやいやいやいややめてやめやめ!」
端正な顔を手で突っ張り押し退けるアーチャーだが、ランサーはぐいぐいと。
「うわうわうわうわ、本当にやめてくれないか心底やめてくれないかくださらないか!」
「言葉遣いおかしいぞおまえ」
「だって!」
“エミヤシロウ”の片鱗を残して駄々を捏ねるアーチャーの顔は、耳まで赤く。
概念武装の、色をしていて。
「いや、もう、本当に……!」
「え、何で。つうか、可愛い」
「可愛いとか言うな!」
悲鳴のような声を上げたアーチャーは、まるで初心な生娘だ。
まあ、身長がとてもではそんなものではないのだが、だが。
でも!
そんなアーチャーの内心の絶叫であるかのように、顔色は悪くなり。赤くなり。
声はうろたえ、目は泳ぎ。
汗を掻き。
涙目、とはならなかったが。
大慌てである。
「ろ、ろーあいあす!」
迫り来るランサーの顔に手を突っ張り、防御するアーチャーはやはり混乱していた。
「ろーあいあすって……」
呆れたように言うランサーに、必死に抵抗するアーチャー。
いやいやいやいや、無理無理。
「何でひらがなだよ……」
「混乱しているのだよ! るんだ!」
「混ざってんぞー」
「います!」
「どういう」
敬語かよ。
ちょっと真顔で突っ込みを入れたランサーであった。
「いや、ほんとに、無理で、ほんとに!」
「いける!」
「いけない!」
「いけます!」
「いけません!」
ぐぐぐぐぐ。
「はーい筋力D〜」
「うわああ」
「うわああ、って」
随分な返事だな。
「いいだろ、しようぜ! キス!」
「しない!」
「する!」
ちゅっ。
可愛らしく鳴った音に、アーチャーは目を白黒させたのだった。



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