ちゅっ。


「――――」
呆然と。
目を見開いて、固まって。
アーチャーは、手にした洗濯物をはさりと畳に落とした。
「……ん? 煙草臭かったか?」
首を傾げてぬぬぬ、などと言っているランサーに、
「そういう問題ではっ、ないわ、このたわけぇぇぇ!!」
「うおっ」
剛速球、きぃんと駆け抜けていった怒声にランサーは耳を塞ぐ。その素早さはまさに最速のサーヴァント!
……いや、そんなでもなかったか。
顔を真っ赤にしたアーチャーは、指をびしりとランサーの形のいい鼻に突きつけ、きんきんと裏返った声で言い募る。普段低い声が高く跳ね上がってきんきんと。矛盾かもしれないが、明らかに事実であるので。
「何をした、ランサー!?」
「え、何って」
「いや言うな。何も言うな。言ったら」
「ちゅう」
「言ったらと言っただろうが――――!!」
「あいたっ」
ぽかり、と殴った。
大変可愛らしい音を立てて殴った。だけど哀しいかな、筋力BとDの差なのよね。
「全然痛くねえんだけど」
「……投影したエクスカリバーで斬ってやろうか」
「え、出来んの? 出来んの?」
「知るかたわけぇ!!」
何だよ自分で言い出しておいて、と口笛でも吹きそうな唇の尖らせ具合でランサーは言った。その隙に、


ちゅっ。


「――――〜ッ、ッ、ッ、」
「へへー」
にんまり。
大型犬が、わらう。
「き、き、きさま、また、また、したな!? にどもしたな!?」
「気のせいかな、おまえの言うこと全部ひらがなに聞こえんだけど」
「知るか!」
その手に投影されたは慣れ親しんだ干将・莫耶。ランサーが発したのはぶーぶーとブーイング。
「えー、エクスカリバーじゃねーじゃん」
「貴様は一刀両断まっぷたつになりたいのか!?」
「え……アーチャー」
「何だッ!?」
「…………」
あまりにも小さな声で、聞こえない。アーチャーが仕方なく、憤死しそうになりながらも顔を近付けると、
「それって……優しさ?」
沸騰。
「何でちょっと照れている!?」
「え……だって……なあ……?」
「何がどうして“なあ……?”なんだ!」
「照れる……」
「…………」
アーチャー、怒りのオーバーエッジ。
カッコイイポーズ!
「照れるなああああ!」


「えっ、何!?」
何事!?と二階の部屋で魔術の練習をしていた凛と士郎が慌てふためく。何しろ轟音だ。爆発じみた轟音だ。
ばたばたと忙しなく階段を駆け下り、震源地である居間へと辿り着くと。
「……ああ、凛。どうした?」
UBW的笑顔に返り血を飛び散らせたアーチャーがいました。
「……いや、あんたが……」
「どうした?」
さすがの遠坂凛様もそんな気迫のアーチャーには何も言えず、「……何でもないわ」と言葉を閉じてしまいました。
士郎はその後ろでがくがくと震えてゴーゴー。
結論。
あまり調子に乗り過ぎないようにしましょう、というお話。



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