「本当にあいつって子供好きよねー……」
ショタコンロリコンの気があるんじゃないの?
己のサーヴァントに向けてそんなあまりにあまりなことを言った遠坂凛さんは、煎餅をぱりんと齧りながらため息をついた。
そこに温度も味も最高レベルなお茶を出してきながら、妹の間桐桜さんが苦笑いをしつつ言う。
「姉さん……それはちょっと……」
「だってそうじゃない。元である士郎自身がまずそうだしね」
言ってちらり、と洗濯物を畳む衛宮士郎くんを見ながら、凛さん。よく聞こえなかったのかそれに大した反応もせずにそれでも、少しは不穏なものを感じ取ったのか顔を上げて「ん?」という顔をしてみせる。そうして姉妹の方を向いて、
「遠坂、桜。何か言ったか」
「いいえ」
「な、何でもないんですよ、先輩」
「んー……そっかー?」
安心してしまって士郎くんは家事に戻りだした。ほっとため息をつく姉妹、その視線が別の方向に飛ぶ。


「まったく君は……このように綺麗な髪をしているのだから、洗った後はきちんと乾かさないと傷んでしまうぞ?」
「ってもよー。女子供じゃねえんだから、別にそんなん気にしねえって」
「今の君は子供だ」
白い髪の褐色の肌の男。
青い髪の白い肌の少年。
彼らは非常に仲睦まじく、きゃっきゃと言い合いながらも男が少年の髪を拭ってやっている。
男の名はアーチャーさんで、少年の名はランサーくんだ。
ただし少年の顔は美少女のように整っていて、肌は白く透き通るよう、頬は薔薇色で髪には天使の輪。
まるで天使のように美しいお子様であった。
そんなお子様が口にするのはべらんめえ口調の男言葉。
「おいアーチャーくすぐってえって、そんなとこまで拭かなくても」
「ここが汚れが一番溜まるんだ。こんなことも知らないようで君は、」
「あーへいへいへい、わかったわかった」
「ランサー……君、そのような……」
眉を八の字にして困ったような顔をするアーチャーさん、ランサーくんはご満悦といった風だ。
普段は口喧嘩でランサーくんがアーチャーさんに勝てるということは滅多にない。それは何故かとたずねたら。


ランサーくんが、普段は“ランサーさん”だからである。


ランサーさんがランサーくんになったのは、彼の同僚であるギルガメッシュくんが愛飲している若返りの薬のせいだった。
ギルガメッシュくんは大人に成長するとすこぶる迷惑な性格の男になるので、子供の彼が周囲に迷惑をかけないように、薬を飲んでいるのである。
それをとある日ランサーさんが見つけてしまった。ちょっと飲ませろよとランサーさんは口端から涎を垂らしてギルガメッシュくんへと強請り、結局ゲットすることに成功した。効果にではない、味に興味があったのだ。
当然ランサーさんは若返ってランサーくんとなり、いつもの調子でふらりと衛宮邸に顔を出し、いつもの面子をびっくりさせたのだった。
まあ、その。
びっくりさせた、というレベルからはちょっと遠いような気がしないでもない皆の驚き様だったのだが。
「ほら。もう少しで終わるからじっとしていてくれ」
「むー……」
唇を尖らせるその姿は、日頃の男である姿からかけ離れて愛らしい。
思わずその気がない姉妹でさえ、むむむと来てしまうほどだ。
「だってイリヤとかにも甘いじゃない、あいつ」
「姉さん……まだ言ってるんですか……」
ぶつぶつと語る姉、苦笑する妹。その遠くでアーチャーさんはランサーくんに「よし」と、ひとこと許しの言葉を放った。
そうすると。
「よっしゃ!」
「わ!?」
くるりと振り返ったランサーくんが突然アーチャーさんに飛びついて、そのまま床へと倒れ伏す。小さな全身を使ってごろごろごろー、と懐くランサーくんにアーチャーさんは俄かに慌てて、あ、こら、君、などと言っているが体格差で圧倒的に勝っているのに小さな体を押しのけようともしない。薔薇色のまだ少し熱気で上気した頬をアーチャーさんの頬に擦り付けると、ランサーくんは足をじたばたさせながら喜んで。
「わー、アーチャーお兄ちゃんおっきーい☆」
「お兄ちゃん……!?」
「バカップルね」
「……ですか」
「ん?」
驚愕するアーチャーさん、呆れる凛さんに苦笑する桜さん、何も知らずに顔を上げる士郎くんなのでした。



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