たん、たんとちゃぶ台の上に置かれたふたつのもの。
ふたりのエミヤはそれを見てただただ呆然とした。
「どう? よく出来てるでしょう」
エミヤたちの姉。イリヤスフィールは胸を張って満足そうにそう言った。顔には満面の笑みが浮かんでいて、自分の考えは絶対に正しいと思っているらしい。
「あの……だな。イリヤ?」
「なあにシロウ」
「これは……どういうことなんだ」
「だからあなたたちの新しい体よ。シロウたちがふわふわのぬいぐるみは嫌だって言うから」
わたし悩んだんだから。今度はふくれてそう言う。その様はたいそう愛らしかったけど。でも、だけど。だからといって。
「……イリヤスフィール」
大きいシロウ。アーチャーは額に手を当てて頭痛を堪えるようにつぶやく。
「それは、どこから手に入れたのかな」
「もちろんわたしが作ったの。大変だったんだから! さ、だから、ね?」
「だからじゃなくて!」
小さいシロウ。衛宮士郎が叫ぶ。イリヤは赤い瞳をぱちくりとさせた。次いで士郎をかわいらしく睨む。
「なに。シロウはこれじゃ気に入らないっていうの」
小さな姉のふくれっつらに士郎は一瞬たじろいだ。だがすぐに気を取り直す。
「イリ」
「ほら、これね? 首が取れるのよ。体を取りかえっこできるの。どんな着せ替えも自由自在なんだから」
「着せ替え……」
ならぬいぐるみの方がどんなにマシか。そう語っている表情で士郎は眉間に皺を寄せた。
「首が取れるなど猟奇的だイリヤスフィール。小僧ならともかく、私は御免被りたい」
「ちょ、アーチャーおまっ」
「駄目よ。アーチャーもこの人形に入るの! それでわたしと毎日着せ替えごっこして遊ぶんだから」
無邪気に言い放つイリヤ。幼いことは罪ではないけれど。時にそれは残酷だ。
その残酷さを充分に発揮して、イリヤはふたりに迫る。じりじりと。
「おねえちゃんの言うことが聞けないの?」
悪い子たち!イリヤは叱咤する。腰に手を当てて立ち上がり、ふたりの弟を睨みつける。
本気だ。イリヤの目は、本気だ。
「おとなしく自分から入るか。無理矢理わたしに入れられるか。どちらか選びなさい。それくらいは好きにさせてあげる」
「どっちも入れられるんじゃないか!」
「そうよ。いけない?」
「いけないに決まっているだろう……」
いまだ頭痛を堪えるようなアーチャーのしぐさ。そもそも、サーヴァントは頭痛など患うのだろうか?
イリヤはちゃぶ台を手で叩き、置かれた“弟たちの新しい体”を示す。
それはピンキーというものだった。本当はかわいらしい少女などがモチーフになるのだけれど、並んでいるのは士郎とアーチャーにうりふたつの風貌をしていた。完璧な造形師でもここまでは再現できないだろうというくらいに。
「さあふたりとも、観念しなさい。ボディもたくさん用意してあるわ。熊に、犬に、ウサギに、それからえっと」
「待てイリヤ。それは全部動物じゃないか」
「? ええそうよ。わからないの? シロウ」
「わかったから言ってるんだ! それはぬいぐるみとどこが違うのか俺にはわからない」
「……貴様と意見が同じになるのは腹だたしいが、その通りだな」
イリヤは真面目な顔で言う。
「顔は人間のままよ」
「…………」
「…………」
「わがままね!」
「どっちがだよ!」
士郎が叫ぶ。イリヤは疑問符をまわりに振りまいていた。
「わからないわ。なんでそんなに嫌がるの」
「当たり前だろ! ……っていうか、そこから説明しないといけないのか、もしかして」
「よし小僧任せた。私は仕事がある」
「おいこら、逃げるなよアーチャー! おまえだって俺と一蓮托生だろ!」
「気味が悪いことを言うな。私は無関係だ」
「この……!」
「ふたりとも喧嘩しないの! まったく、仕方のない子たちなんだから」
「……あのなイリヤ」
「君が言うことではないぞ」
「?」
どうして、という顔でイリヤは首をかしげた。そこからふたりのエミヤの説得が始まるわけだけど、それは割愛することにしよう。
新都から帰ってきた姉妹が心から怪訝そうな顔でその光景を眺め、挙句にイリヤの技術を褒めたたえたことでまた騒動が起きるわけだけど、それもまた割愛するべきことだ。



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