ひたいのねつがあつい。
「……全く……」
アーチャーは縁側で額に落ちかかる熱を露にする。
ランサーにぐちゃぐちゃに乱された髪だ。
体のどこかしこが熱いけれども、一番熱いのは額。
ランサーの指先が触れた額。
髪が、触れた。
ランサーの指先が触れた髪が通して、そして指先が直に触れていった額だった。
「勝手な、男だ」
はあ、と。
長々としたため息をついて流れるようについた肘を崩し、アーチャーは目を閉じた。
けれどそれが失敗。
目蓋の裏に先程までの光景が鮮やかに蘇ってきてしまったのだ。


「アーチャー」
ただいま。
「ああ、おかえり」
居間で洗濯物を畳んでいたアーチャーは、バイト帰りのランサーの声に顔を上げる。
すると、目を丸く丸くしてしまった。
「ランサー、君?」
「これか?」
ランサーの髪。くくられた髪。
だが、そこにあるのは。
「バイト先の嬢ちゃんが付けてくれてよ。なかなか似合うだろ?」
明るい黄色の、弾けるような大きなリボン。
どうやら髪留めの上から付けられているようだった、が。
「君、それで帰り道を帰ってきたのかね……」
「? そうだけどよ?」
そうらしい。
「……とにかく、解いてしまおう。凛たちが帰ってくる前に」
「何でだよ。嬢ちゃんたちにも見せ……」
「前に」
そう言って、座った体勢のままアーチャーはランサーの首の後ろに向かって手を伸ばす。そうすれば、ランサーはにやり、とした顔付きになった。
「おやおや」
「ん……?」
「大胆だな、随分」
「…………!」
どん!
「いって!」
まるで、首に腕を回して何かを強請る格好になってしまっていたのに気付き、アーチャーはかあっと顔を紅潮させランサーを突き飛ばす。ランサーは咄嗟に避け切れずに尻もち。
「おいおい……アーチャーよ。おまえを悦ばせる頼みの腰を壊したらどうするってんだ?」
「そ、んなもの、知るかッ!」
「冗談だよ」
軽々と立ち上がり、ランサーは笑う。そうやって、易々とアーチャーに近付いてきた。そうやって、
「それはそうと、おまえもさ」
「――――?」
「髪。いじってみちゃどうだい?」
前髪。
だけでなく、頭頂部、後頭部、その全てを。
白い指先でかき回されて、アーチャーは息を呑む。
「ん」
うっとりと。
何かを呑むように、ランサーは微笑んだ。
「似合う」
落ちかかってきた前髪の感触を感じて。
アーチャーはぱち、ぱち、と瞬きをした。
それから一気に。
顔を赤くし。
ランサーの鳩尾に一撃入れて、居間から逃げ出したのだった。


ひたいのねつをさます。
「熱い……」
はたはたとてのひらで扇ぐ。
「馬鹿者め」
ただ、つぶやくしかなかった。



back.