本当のことが目に見えないのなら。
全部あなたに差し出そうと思うの。
「とは言っても。わたしの胸を裂いて心臓を取り出して見せてあげてもあなたは困るのよね」
「……やめなさい。死んでしまうだろう、いくら何でも」
「あら。わたしの生命力を舐めているの? 死なないわよ、たぶん」
「たぶん……そこは絶対と言ってほしい」
「馬鹿ね、わたしがあなたを置いて死ぬと思うの?」
くすくすとわたしは笑う。そうすれば、彼は困ったように笑ってくれるのだ。
その苦笑が、わたしはすごく好きだ。
もっと困らせたくなってしまう。虐めたいわけじゃないけど、その顔をもっと見たいと思うんだ。思ってしまうの。
本当を、あげたいって。
わたしを。全部。
その代わりにあなたをって。
頂戴、と。
「思ってしまうのは罪なことかしら」
「ん?」
「いいえ、なんでも」
ないわ、と。
首を傾げて笑えば、長い自分の髪がくすぐったかった。
くしゅんと小さくくしゃみ。わたしの体のように小さなくしゃみをひとつ。
すると途端に心配そうな顔をして、大丈夫か、姉さん、って。
「大丈夫か、姉さん……?」
「……ふふ」
「え?」
「何でもないわ。本当に可愛いのね、あなたって」
「なんでさ!?」
「可愛いシロウ」
ああ、わたしの。
可愛い、弟。
かけがえのない、本当だけをあげたい。
ありきたりだけど、愛しているわ。
弟として。家族として。
ねえ、傍にいたいの。ずっとではなくてもいいわ。なるべくでいいの。
傍にいさせて。傍にいて。
ほんとのことよ。
真実なの。
「ねえシロウ。お茶が飲みたいわ。美味しい紅茶がいい」
「わかったよ。甘い紅茶だろう?」
「そうね、あとケーキが欲しいわ」
「ショートケーキでいいかな」
「あなたの作ったものなら何でもいいわ。チョコでも、チーズでも」
いっそ、毒でも。
「毒……?」
「あなたに殺されるのなら本望ってこと」
「殺さないよ!」
「言葉のあやよ」
「心臓に悪い……」
「どうかしら」
「どうかしら、というのは」
「ふふ。あなた、すぐにどきどきとするでしょう」
わたしは笑う。
とっても、明るく。
あなたが好きだって言ってくれた表情で笑うの。
あなたには、いつでも本当をあげたいから。
嘘なんて、渡したくないから。
本当をあげるわ。
ねえ、……シロウ。
大好きよ。
もちろん、兄弟として。家族として。
だから、本当をあげる。
わたしの全部を、あなたに。
だからあなたの本当の全部をわたしに頂戴。
それで、つりあうでしょう?
ね、シロウ。
大好きよ。



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