握り合った手が熱い。重なった体が熱い。このままとろけてひとつになってしまいそうなこの身が怖い。
「―――――は、あ」
吐いた息が熱い。湿った空気が熱い。びくびくと痙攣する足の指から細胞が崩れていきそうで身震いする。肌に強く押し当てられたランサー自身に、大げさに身をすくめる。あつい。あつい。あつい。くらくらする。
ランサー、と小さく呼んだはずの声さえもやたらと熱っぽくて、目の前がかすんだ。答えた声は聞こえたけれど、一体なんと言っていたのかは定かではない。だけれどなんだか安堵して、胸元に置いた顔を押しつけて、目を閉じた。暗闇はぬるい。胎内のようなぬるい闇。
沈んでいく意識はしかし、ぬめった感触に呼び覚まされた。
「く、は」
身を起こして喘ぐ。片目を開けて、とたんに赤い瞳に縛される。あつい。あつい。あつい。くらくらする。
どうして、見られただけでこんなになるのだろう。ぬるい闇に沈んでたゆたい、安らいでいたはずなのに、一気に引き戻されて。
体を、精神を焼く熱に、とぷんと沈められた。
全身を熱が焼く。静かに、植物の根が這うように体を支配していく。あつい。……あつい。
口を懸命に動かせてそれを訴えると、赤い瞳が細まった。おそらく、笑んだのだと思う。見て、さきほどと同じく奇妙に安堵したから。ランサーの口が動いて、なにかを言う。相変わらず遠くて聞こえないけれど、赤い口内が垣間見えて背筋がぞくりとした。
あの舌で、歯で、ああ。
力が抜けて視線が焦点をぼやかす。ずれて、合って、またずれて。また、ぬめった感触が意識を叩き起こす。肌に擦りつけられる。
「あ、あ、あ、」
意味のない言葉が漏れて、また目を閉じる。今度はきつく。眉間に皺が寄って頭が痛むほど。
すると唇に指が触れ、思わず噛んでしまう。低く呻く気配がしたが、すぐに笑う声がする。
仕方ねえな。
そう、はっきり言う声が聞こえたかと思うと、ずるり、と。
侵入されて、息が止まった。先端から中程までを含まされて、嬌声には程遠い絶叫を上げて中の熱を引き絞ってしまい、結果余計に形を認識することになって身を捩らせた。
なまぬるい、と感じて、泣いていることに気づく。いつから泣いていたのだろう。流れる涙は塩辛く、なまぬるく、まとわりつくように頬を、顎先までを濡らす。滴り落ちたころには、涎とまじって粘りのある液体になっていた。
「ラ、……―――――サ、」
ゆるゆると含まされる。
ぞくぞくとした。
「あ―――――あ」
全部を飲みこんで、ため息をつく。握りこんでいた手をゆるめて、熱い腹を撫でる。とくとくとくとく、と駆け足のような脈動。
陶然として、唐突に揺さぶられ始めて、声を上げる。
強い突き上げに目がくらんで、また涙がこぼれる。熱い、けれど、どこか先刻のぬるい闇の中に沈んだときのような安堵が爪先から身を浸していく。手を伸ばしても逃れられない。その手はランサーが握っている。


「わからなくなっちまえ」


溶けろ、と声がした。
とたんに中に、叩きつけられるように熱が、飛沫が、溢れだして、その刺激に体を弓のように反らせる。
声は出なかった。
―――――、と息を詰めた。緩い頂点に一度達して、それから本格的に達して、唇を噛んで全身を震わせる快楽に耐える。自らの腹と、ランサーの腹に落ちていく精。
びくん、びくん、と体を何度も震わせて、詰めた息を吐きだした。
それはとても、熱かった。
意識が遠のいていく。自分が拡散していく、溶解していく。
それでもいい、と思って、いまだ体中を満たす熱にすべてを任せてそのまま意識を失った。



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