本当に?
と問いかけるような瞳をしてこちらを見てくるものだから。
きょとん、とした顔をして。
“応よ”
笑顔と共に答えてやった。
それでも不安そうにしているから、馬鹿、と。
罵倒ではなく愛から溢れるように言って手を差し出して。
自分よりでかい体を、抱き締めてやった。
ぎゅうと。
抱き締めた体は冷たく。なのに火照っていて、は、おかしいの、だなんて。
口端を吊り上げて息を吐いた。
ぞくぞくする。
腕のなかにぜんぶ。
まるごととじこめてしまっている。
この男が全部、自分のものだ。
素晴らしい。素晴らしい事実。現実。夢ではなくて妄想でもない、現実だ。
こんな現実をひとひらでも刹那でも手に出来るのなら。
第二の生にも理由はあった。
欠片でいい。
ほんの少しでいいんだ。
大々的な変化なんていらない。望まない。
必要はないんだ。
この腕の中の男は今はひびだらけで、いきなり水を大量に注いだら割れてしまう。
大切に注いでやらないと。
滴るような蜜で満たしてやろう。
ひびさえ塞ぐような濃密な蜜で。
ゆっくり、ゆっくりと。
抱き締めてやれたらいい。
そう思う。
どくん。
は、と声を上げた。
からかうような笑い声。
甘く甘く揶揄するように。ここまで。
ここまで、落ちてこい。
ゆっくりと。
待っていてやるから落ちてこい。
手を広げて待っていてやるから。
足を一歩踏み出して、こうしてここまで落ちてこい。
黙ったまま笑って受け止めてやる。
おまえを確かに、オレが。
「……ん」
「……ん?」
小さな声に聞き返す。
「から、だを」
「からだ?」
「体を、」
はな、してくれ。
「駄目って言ったらどうする?」
「…………」
むう、と黙ってしまわれたので「はいはい」とばかりに解放してやる。あまりにもあっけなく。いっそ凄惨なほど。
いっそ薄情なほど。
愛情なんてものはほんの少しも抱いていないという素早さで。
「、…………」
「離して、」
ほしかったんだろ?
幼くたずねる。首さえ傾げてみせて。
「察せ」
「は?」
「ばか」
ばか、と繰り返して離れたはずの男は離れたはずの腕の中に飛び込んできて。
こちらの唇を、奪っていった。
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