「んー……ふふふ。ランサ……ん……」
「おいちょっと待てこの酔っ払い」
「うん?」
明らかに様子がおかしかった。べろべろだし、顔は真っ赤だし、アルコールと薬の混じった匂いはするし。
そう。英霊・サーヴァントアーチャーは酔っ払っていたのだった!じゃじゃーん!
「……とかハイテンションでごまかせればよかったんだけどなー……」
「ランサー、ランサー」
「はいはい、何ですか何の御用ですか」
正直酔っ払った前後不覚状態のアーチャーを相手にしてもなー、などと思っていたランサーは、仕方なく自分の名前を連呼するアーチャーの方へと顔を向けた。すると。
ちゅっ。
「…………」
「えへへ。キス、しちゃった」
ていうかそれ、マスターの名言じゃありません?
でも何でもいい!萌えるから!!
カッ!と俄かにハイテンションになってランサーは、アーチャー、と真っ赤になって左右に揺れながらへらへらしているアーチャーの肩を掴む。
「んん?」
「オレからキス、してもいいか?」
「んー……ダメー」
「ええっ!?」
何で!
オレとキスしたいんじゃないんですか!?とショックを受けたランサーさんに、アーチャーさんはへらっ、と笑ってから。
「私から。ランサーに、したいんだ」
だからダメなんだ。
言うが早いか、ちゅっちゅっちゅっちゅっ、とキスの猛攻を仕掛けてきたアーチャーにランサーは呆然となって。
押し倒すぞこの野郎。
そんな思いを、ぎりぎりのところで我慢した。
「はぁ……ランサー……」
ぺろっと舌でキスのし過ぎでほのかに色づいた唇を舐める仕草は、たまらなく色っぽく艶っぽい。ランサーはちくしょうこんなの目の前に拷問だろ、と思いつつ「アーチャーから」「キスされている」という貴重すぎるシーンの保持のためにその細腰も抱き寄せられずにいた。さっきまでの仕方なく、なんて意見は軽ーく吹っ飛んだ。お山の向こうに飛んでった。
「ん、らん、さ、」
(キター!)
そのうち胡坐をかいたランサーの膝の上にゆっくりとアーチャーが乗り上げてきて、首に腕を回されてランサーは思い切り興奮した。脳の血管が切れそうなほど。
酒によって高められた体温は高く、褐色の肌はしっとりと汗をかいていて。
どうしようもなく、興奮した。
「もっと……」
深いのがしたい、とアーチャーがささやくように耳元に唇を寄せてきて言って。
「しても……いい、ランサー……?」
「はい」
シークタイム・ゼロ。迷う隙などなかった。それに「よかったぁ」とアーチャーは二度目へらっと微笑んで、はむっ、と唇に柔く噛み付いてきた。
うっわ。
えっろ。
なんなのこいつえっろ。
「ん……ん、」と声を上げながらくちづけてくるアーチャーの顔を目前でがっちり確認しながら、ランサーはその光景にたまらなく欲情した。
あわよくばこのまま押し倒して服を脱がせて(以下略)してしまいたいところだったが、さすがにそこまでは男がすたるというものだろう。意識のしっかりしていない相手にどうこうするというのは。
じゃあキスならいいのか?という声が聞こえそうだったが、それはアーアーアーキーコーエーナーイー状態だった。そこはセフセフらしい。ランサー的に。
でも。
「は、」
舌を絡めあっていたところへのふとした攻撃に、アーチャーが甘い声を上げて身を捩る。どこもかしこもゆるゆるの黒の上下のシャツの裾から、手を差し入れたランサーは引き締まった腹筋の辺りをてのひらで撫で回した。そうしてびくびくと痺れに身を震わせているアーチャーに、
「どうした? 続けろよ……」
などと、荒い息のまま急かすのだった。
「ん、」
アーチャーは素直に頷いて、またランサーに唇を重ねてくる。ん、んんっん、と詰まった声を上げて感じているアーチャーの今度は腰の後ろを撫で回しながら、ランサーは自分からもアーチャーに舌を絡めていった。
「ん……んー……」
アルコールの味のする舌。それと、種類は知れないがやはり薬種の味。
一体どこでどうしてこれを飲むことになったのだろう?入手先は?経緯は?色々と疑問はあったが、今はただアーチャーとのくちづけが心地良かった。
それだけでいいと、他のことなどもうどうでもいいと、どうとでもなれと思わせる蜜月の時だった。
「ん……ん、らん……」
くちづけの合間に呂律の回らないアーチャーのささやき。それは熱くて、聞くだけで危うく心が爛れそうだった。
ランサーが操る宝具、ゲイボルク。それは心臓を一突きして相手を必ず殺す呪いの魔槍。
そんなゲイボルクにも勝てるのではないだろうかと思えるほどの、心臓をずきずきと言わせてたまらない熱烈的なアーチャーのくちづけだった。
「な……もっと……深く……」
「うん……」
素直な答えと笑顔が愛おしい。
酒乱なアーチャーもたまにはいい、と堅物な普段のアーチャーを思い出して苦笑いしたランサーを不思議そうに見つめる、アーチャーなのだった。


翌日。アーチャーはしっかり二日酔いになってキス魔と化したことも覚えていなかった。ランサー役得である。



back.