最近、衛宮士郎の視線を感じる。
なんというかこう、舐めまわすように露骨でいて、しかし隠れているつもりなのだろうか。小さな体は陰にひそんでいる。
「―――――」
シーツをぱん、と広げると私はそれを無視することにした。突っかかってくるのならいなせばいい。おかしなことをしたら叩けばいい。今は特になにもない。精神的にささくれ立つ程度だ。
慣れている。


俺はため息をついた。
「あら、衛宮くん。どうしたの?」
偶然そこを通りかかった遠坂が声をかけてきた。さすがというか、なんというか……だけれど俺はなんて答えたらいいのかわからない。とりあえず聖杯戦争に参加する同じマスターとしての立場の遠坂に、聞いてみた。
「遠坂、ちょっといいか」
真剣な顔と声を心がけたからか、遠坂も神妙な顔つきになった。齧っていた煎餅をばりぼりと音を立てて食べつくすと、神妙な顔つきのままでちゃぶ台を挟んで俺の目の前に座る。まっすぐに見つめられると少し、怖いくらいだ。さすがあかいあくま。
そのあくまに負けないように視線を強めると、話を切りだした。
「遠坂……マスターっていうものは、サーヴァントの力量が見えるんだよな?」
「? まあ大体ね。なに? 衛宮くん、それでなにかあった?」
違う違うと慌てて手を振ると遠坂は怪訝そうな顔をした。―――――ああ、まあ、確かになあ……。
遠坂はばん、とちゃぶ台に手をついた。そしてたずねてくる。
「どういうこと」
「う」
「答えなさい士郎。でないと……」
ひどいわよ。
腕の魔術刻印を示して、あかいあくまは微笑んだ。怖い。めっちゃ怖い。ごっさ怖い。俺は視線を逸らしたかった、けれど逸らせなくて、うふふと笑う遠坂に告げる。
「……見えるんだよ」
「は?」
「詳細が。サーヴァントたちの詳細が見えるんだ、いや、それは前からだったんだけど、アーチャーの詳細だけやたら詳細に見えるんだ……!」
言ってしまった、告白してしまった。
案の定。
遠坂は、「は?」と言った。
「なによそれ」
「いや……他のサーヴァントはステータスくらいしか見えないんだよ。だけどさ、アーチャーは違うんだ。……俺……の可能性、だからかな? 機嫌とか、考えてることとか、見てるだけで情報が俺の中に入ってくる。このまえなんかさ……猫と遊んでるとき顔がうっすら微笑んでて、心の中は幸せでいっぱいでなんていうか桃色状態で……俺……俺さ……!」
くっ、とそのときのアーチャーを思いだして俺はくずおれた。
可憐だ、と思ってしまった。
馬鹿みたいだけれど。本当、馬鹿みたいだけれど。かわいい、と思って、しまった。
うううう、と唸る俺を見て、遠坂は煎餅をもう一枚手に取った。ばりん、と噛み砕く。嘆息して、つぶやいた。
「大変ね」
「ああ」
いろいろとぐるぐる回る脳裏をおさえこんで、俺は苦悩した。
なんでさ。
絶対俺、おかしい。


洗濯物を畳みながらちらちらと飛んでくる視線をやりすごす。最近、視線は控えめになった。ただなんとなく、粘着質なものを感じる。あとなんだか衛宮士郎の顔がいつも赤い気がする。熱でもあるのか?
「―――――」
嘆息した。
仕置いてやらなれければならないだろうか、面倒だと思いつつ。
嘆息が、柱の陰からも聞こえてきた。



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