「だりい」
しょっぱなから言い放った言葉がこれだ。
ならばコミュニケーション不足かつツッコミ役、そして天然ボケ担当のアーチャーは無言になるしかない。三点リーダーをふたつ。……なにがさ、とか。そんな無粋なことばは言わないのだ。
もうちょっとやる気出して行こうな、とか、よしがんばれよ俺がついてるよ、とか、そうかそれは仕方ないな、とか。昔の自分のような気遣いをする気もないしする必要もない。と思う。
「そうかね」
でも弓兵はあいにくと世話焼きでもあった。は?誰がさ?と、いまさっきおまえ、昔の自分のような、っつったじゃん。――――そんな矛盾はさておいてだるくていらっしゃるらしい槍兵に軽く返事をしてやった。
「そうだろ」
「私は特に、そうでもないが」
「ああそっか、おまえアレだよな。なんつかアレだ。ん、アレ。……ええっと、なんだっけ? オレも年とったか? ってやめろよな縁起悪りい。あ? なんの話してたか? そうそうアレだ。シャツ! アイロンされたやつだ。プレス? でいいんだったか? よくわかんね。まいっか。まあソレだ。プレスしたシャツな。白くてパリッとしてとにかく真っ白いやつだ。あ? そういえばおまえ、このまえ脱衣所でオレの服嗅いでなかったか? アレ微妙に失礼だろ、な、つか失礼だろよアーチャーよ。つかなんだ? 欲情したのか? オレの匂いに」
「……それくらい口が回るのなら大丈夫ではないのかね、君」
アレ=四回。つか=二回。白くてパリッとしてとにかく真っ白いやつだ。前後でダブっている。
古代の英霊よ現代に染められたか、と弓兵は思った。まぼろし、栄華、栄光、白夜。神秘的なありとあらゆる単語を羅列してみるのさえこの男のまえでは馬鹿らしいことだと思う。
「ちっげえよ馬鹿。大丈夫じゃねえよ。もっと心配しろ。つか甘やかせろよ、アーチャーさんよ」
「ランサーさんよ、だが断る。私は自分と同じ程度のサイズの男を愛でる趣味はない。……そうだな。セタンタだったか?あのような可憐な姿になれば考えんこともない」
「!? ……なにおまえ、ガキが好きなの?」
となるとギルガメッシュ(小)だとか、まさか衛宮士郎まで、
「それはないぞランサー。ああ、どうしてだとか愚問を言うなよ」
「どうしてだ?」
「だから言うなと。……口から出ていたよ」
ぴろりと。セイバーのアホ毛のように自己主張していたとも。
「ちなみにアレを引っこ抜くと黒くなるらしいぞ」
「マジで!?」
「聞いた話だが」
やっべえオレ見てえよマジで見てえんだけどおいアーチャー、どこ行ったら見れんのそれ。つかいくらだ?千円くらいか?
別に料金が必要なわけではない。ただ、命という名のチケットが一枚あれば事足りる話だ。
「いのちだいじに」
ドラクエとはアナログな。
この槍兵、自分の古代英雄に対するヴィジョンをどこまで貶めてくれるつもりだろう。と弓兵は考える。
けれど言いはしない。言ったところで青髪ピアス赤目アロハギャルチンピラ(語尾半上がり疑問系)がぎゃあぎゃあとわめくだけだろうから。
ギャルチンピラって、その、なんていうか斬新な表現よね。
弓兵のマスター、いわゆるあかいあくまはその表現をとらえてそうのたまった。至極。
そういえばセイバーのアホ毛が黒化スイッチなら、この男の場合ひとつに結わいたおさげ?だろうか。アーチャー。うぜえ。
おまえがうぜえだ。
そういってやりたい衝動に駆られる発言に、だがしかし弓兵はハイハイうぜえのね、ハイハイとまるで子供に対する母親のように接してしまうのだった。
ギャルチンピラ、ってその、男の人なんですか?女の人なんですか?
言葉を選びながらちらちらと槍兵を見やっていったのはあかいあくまの妹だったか。
さて。
「それにしても……」
ギャルチンピラ、もとい槍兵はにまっと笑ってのたまった。
「嬢ちゃんたちはなんつうか、こう、見てるだけで心が華やぐな」
騎士王。
あかいあくま。
あかいあくまの妹。
あかいあくまの妹のサーヴァント。以上四名のお嬢さんたちはめいめいにきゃっきゃうふふ、と笑いさざめいてなにごとか盛り上がっている。
「セイバーはまあ……オレの好みじゃねえがかわいい部類に入るんだろうな。小せえけど。で、トオサカの嬢ちゃんは名前どおり凛としてる。マキリの嬢ちゃんはまさしく桜の華のようだ。ライダーはあれだな、通好みの魅力ときた」
「…………」
「よりどりみどりだ」
「おまえのものではないがな」
「うん。だけどオレいいぜ、おまえがいるから」
「…………」
「ん?」
「…………」
「つか、ばっかやろうなにやってんだおまえ。ここは嬉しがるところだ。アレか、タイミングがわからねえか。空気読めねえのか。ああそうか、かわいそうにな。―――――来いよ。数十秒くらいの差、オレは片目つぶって許してやるぜ?」
「…………」
「ん?」
「……君は、」
「なんだよ」
「その。なんというか。……大概に自信家、なのだな」
「なんだよ、照れんなよ。好きだろ? オレの匂い」
「……私を変態扱いするのはやめてもらえないだろうか」
「あっそ。でもオレ、好きだぜ。おまえの匂い」
「…………」
「ん?」
「……駄犬がえらそうに」
「狗いうな。心臓いただくぞコラ」


あの二人、なんだか妙に楽しそうよね。
ええそうですね、微笑ましいです。
そうですねサクラ。
そうですね仲良きことは素晴らしきかな。…………ああ、おやつの時間だ。

槍兵の評する「お嬢さんたち」はきゃっきゃうふふ、と笑いさざめいているように見える二人を見て、口々にそうおっしゃったそうだ。


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