「愛してる」
……重症だと思った。寝言でまでこんなことを言ってしまう彼と、嫌でない自分が。
光の御子はその名のとおり太陽の光が降り注いでいる部屋の中で仰向けになって眠っていた。
「畳のあとがつくだろう……」
まったく、とため息をついて起こそうとする。と、はがいじめにされた。まただ。筋力BとDの差は大きく、あっというまに引き倒されて体の上に転がされてしまう。
「ランサー!」
叱咤の声を上げるが、聞いてない。眠っているのだからもちろんだろう。歯噛みする。
むにゃむにゃにゃーと幸せそうな寝言。なんとかして仕返しをしてやりたいと思って、けれど動けなくて、考えついたので、
「……………………っ!」
深い深いキスをしてやった。光の御子様は目を丸くして飛び上がると、顔を真っ赤にして息を荒げていた。
「い、息、息、」
「息がどうしたね」
「息できねえ!」
「そうかね」
「そうだよ!」
ええいと叫ぶと腕をぶんぶん振り回す。それが面白くて思わず笑ってしまうと、むっとした顔をされた。幼い顔つき。
それを正直に言えば「おまえのほうが童顔だ」などと大変不本意な評価をいただいた。しかも「かわいい」などとも。
「……寝すぎて目が腐ったのかね」
「腐ってねえよ。よく見ろ」
「ふむ」
キスされた。慌てて離れようとしたがまた捕まった。ええい筋力Bめ。
「……愛してるぜ」
「寝言を言うな!」
「え、いま起きてんだろ」
「さっき言っていたぞ」
「まじでか」
「で、だ」
「夢の中でもおまえのこと見てたのかもな」
「は?」
「だってそうだろ?」
どうだというのだ。真顔になる。
「そうだな。夢にもおまえが出てきたんだな」
まじまじと言っている。もうどうでもよくなった。
「じゃ、一緒に寝るか」
「は?」
「そうしたら、オレの夢にもおまえが出るし、おまえの夢の中にもオレが出てくる」
「……は?」
抵抗もむなしく捕獲された。抱き枕のように抱かれて転がされる。
「あ」
まだ終わってない仕事がある。けれど抱きしめてくる体温が気持ちよくて、ついうとうととしてきてしまった。
「……おまえ、猫みてえだな」
「猫!?」
「ほれ、喉鳴らしてみろ。ごろごろごろごろ」
「た、たわけ!」
満足そうに先に眠りについた顔は、まるで犬のようだ。
「…………貴様こそ」
口の中でもごもごと毒づいて、鼻の先にくちづけた。それから先は知らない。まるで動物の子のように、眠りに、ついてしまったからだ。


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