「は?」
真顔になるアーチャー。ランサーも真顔であった。
「済まない、もう一度……ああ、いい、いい」
「好きって」
「いいと言っているだろう!」
がたん!と鳴るちゃぶ台。なのにランサーは、
「好きって言えよ」
「ああああ……」
言われてしまった。繰り返されてしまった。“好きって言えよ”なんて傲慢!なんて暴君!なのに可愛らしく!頭がおかしいとしか思えない。好きって言って?そんな風にきっかけは始まった。
昼食後の片付けを始めようとしていたアーチャーに向かってその爆弾は落とされた。なあ。何だね。好きって言って?…………は?
くりっ、と小首を傾げて。可愛らしく愛らしく。だっていうのに目は輝いて、ああ、獣だ。
「もう嫌だこんなのは嫌だ逃げる逃げよう逃げたい」
でも、褐色の手首は白い手に掴まれていて。
「逃がさねェし」
にこ、と真顔から一転笑うランサー。さすが光の御子である。その笑顔は途方もなく眩しい。やだ信じられない!思わず乙女口調になったアーチャーだったが、それも仕方ないことと言えただろう。光の御子のぐうかわスマイルに予防策なんてない。
「なあ、一言言えばいいんだって」
「無茶無理無謀は事故の元」
「標語?」
不思議そうな顔をして問い掛けるランサー。けれど生憎とアーチャーはいっぱいいっぱいだった。雄っぱいに隠された心臓はどきどきうるさかった。
「もう嫌だ……」
「なんで」
「なんでとか言うか!」
オウム返しになってしまったアーチャーにきょとんとしているランサー。わかっていない。この男、全然わかっていない!
「は」
「は?」
「恥ずかしい、だろう」
「生娘かおまえ」
「私が処女ではないことは君が一番よくわかっているだろう!」
――――はっ。
「ほうほう」
今、勢いに任せてとても、異様に、すこぶる、恥ずかしいことを言ってしまったような。
「ほほう」
「ニヤニヤするな!」
「無理言うな」
「無理じゃない!」
さっきまで真顔だっただろうと突っ込めば、「それとこれとは話が別」と返ってきた。そうか。
別か……。
「そういう問題か!」
ちゃぶ台に足を乗せて目の前のランサーの胸倉を掴めば、何故だかニヤニヤと笑っている。
「何故笑う!」
「感情露にしてるおまえ、かわいいなあって」
「な……ッ……」
まずい。
完全にランサーのてのひらの上で転がされている。白いてのひらの上でころころと。
「なあ、好きって一言言えばいいだけじゃねえか。それがなんでそんなに嫌なんだよ」
「恥ずかしいと言っただろう!」
「生娘でもねえのに?」
「今度その単語を口にしたらカラドボルグる」
「はい」
ちゃき、と視線で下半身を指せば、さすがのランサーも姿勢を正した。我が骨子は捩じれ狂う。
どこを捩じれ狂わされるのかは恐ろしくて口に出来ない。
「なあ」
「……何かね」
「好きって言って?」
「――――ッ!」
甘えるような声が、いや、甘えきった声が卑怯だと思った。くちゅ、と何かが濡れるような声。
見る見るうちにアーチャーは真っ赤になっていく。
服の色の話ではなく。顔色だ。
「おまえ、ほんとかわいいな」
「……ッ君が、おかしなことを言うからだろう!」
「ふーふふ」
欠伸のようにランサーは笑って。
「な」
アーチャーはとうとう追いつめられた。
「好き、って言って?」



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