ぴんぽーん、ぴんぽーん。
「ん?」
ガーガーと音を立てて掃除機をかけていたのを、スイッチを止めて反応する。いつものようにテレビを見ていた英雄王に「済まないが、出てくれないか」と言いかけてやめた。
従うわけがない。
ぴんぽーん、ぴんぽーんと続くチャイムの音に、はい!と短く答えを返してドアノブを握る。がちゃり、ドアが開いた。
そこには。
「…………? 失礼だが、どちら様……」
「おお!」
バッと。
怠惰に寝転がっていたくせに腹筋を使って跳ね上がるように起き上がった英雄王に、思わずぎょっとする。そんな機敏な動きが出来たのかと。そんな彼を見て、来客者は。
闖入者は――――。
「ふふ、君は相変わらずだね。元気そうで良かったよ、ギルガメッシュ」
「そう言う貴様も元気そうではないか我が友よ、エンキドゥ!」
「え……」
友!?
いや、驚くべきところはそこではないのかもしれないが。いや、それでいいのかもしれない。あの英雄王に友がいたとは。しかも相当に仲が良さそうな。互いに意思の疎通が出来ていそうな。意思の!疎通が!
美しい長い髪の中性的な男性とも、女性とも取れるその人物はにっこりと笑ってこんにちは、と言ってきた。
「こんにちは。あなたが今、僕の友と暮らしてくれている人ですね? 苦労をかけているとは思いますが、どうぞよろしくお願いします」
「あ……ああ、うん……」
その美しい人物がごくごく自然に手を差し出してきたので、つい反射的に自分も手を差し出してしまう。握るとそれは柔らかく、しかししっかりとしていて、何だか奇妙な気分にさせられた。ただ好意的に取れるのは、ほのかに暖かい体温。
にっこり。
「…………」
すごく、きれいだ。
「おい、贋作」
「はい!?」
「我が友をいつまでそのようなところに立たせておくつもりだ、気が利かんな。早く中へと招き入れてやれ」
「あ、ああ、うん……」
どうぞ、と握った手を離して彼(?)を中に招き入れてやる。そうすれば彼はにっこり、と笑いかけてきて、ありがとうと上がり込んできた。
裸足だった。


「それにしても貴様と会うのは久しぶりよなあ? 元気にしていたか?」
「うん、元気だったよ。君も元気そうで」
良かった、と先程の言葉を繰り返して彼は笑う。それにうむ!と笑い返す英雄王。
物凄く仲睦まじいふたりに日本茶と和菓子を用意しつつ、一体いつからの付き合いなのだろうと思う。どこまで深い付き合いなのかと。だがそれを詮索するまでの気力は自分にはなく、また間合いも計れなかった。
マジウルク組パネェ。
「ところでギルガメッシュ」
自分が出した日本茶をずず、と啜って彼は。
「彼とはどこまで行っているんだい?」
「ぶふっ」
噴いた。
何も飲んでないのに噴いた。この美形、いきなり何を言い出しているのかっ。
赤くなって「君……」と言いかけたところで英雄王がもりもりと駄菓子を喰らいつつ、
「もちろん行き着くところまでよ」
「君も何を言っているのかね!?」
「貴様と我との情事のあらましだが?」
「最低だ君は!」
「ふむ?」
ふむ?じゃねえよ。
そういうところを赤裸々に語るんじゃありません!
なんて思っている間にも、会話はどんどん続いていく。彼は楽しそうに微笑んで、
「そうか。君にもそんな相手が出来たんだねえ……何だか羨ましいな」
「貴様とは友であるからな」
「うん、あくまで友達だからね」
あ、そうなんだ。
行き過ぎた友達以上恋人未満とかじゃないんだ。
何だかがっかりした(逃げられると思った、何となく)自分だったが、ウルク組はきゃっきゃうふふと。
「そうかあ。今日はそのなれそめから行き着くところまでをじっくりと語ってもらおうかな!」
「うむ! とっくりと語ってやる故に、心して聞くが良いぞ我が友よ!」
「待て待て待て待て!」
「ん?」
「何だ、贋作」
なんだ、じゃない。
少し君は恥じらいを持て。
と言いたかったのだが、にんまりと笑んだ英雄王の表情に悪寒を感じて口を噤んでしまう。
「何だ贋作。貴様、我が友ばかりと語らっているのが寂しかったか? 悔しかったのか? だとしたら構ってやろう。我が慰み者となるがよい、何、いつも通りだ恥ずかしくも――――」
「恥ずかしいに決まっているだろう、この……」


たわけー、たわけー、たわけー、とエコーした絶叫をにこにこしながら美形の彼は聞いていたという話。



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