「ん……」
ごそごそ。
早朝、薄っぺらい布団の中で目を覚ます。そして隣に“いる”気配にそっとため息をついた。サーヴァント稼業を繰り返して数ヶ月。
睡眠など必要ないとわかってはいてもこの英雄王と一緒となってはそれも無駄なことだった。
そして布団は三つ、数日前から英雄王の友達とやらがたずねてきて、泊りがけでやってきて。
さんざんに“体験談”を語られて、ついでに“実地”で目の前でやられ。
精神のヒットポイントは地味にガリガリと普段より多めに削られ中だった。
「まっ、たく……」
ふ、とため息をついてすやすやと寝息ふたつ分を聞き。
今日もまた始まる苦労を思い、身を起こしかけたところで――――。
ガッ。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「君!?」
腕をがっしりと。掴まれて。
筋力では敵うはずもなく、赤い瞳を間近に見る。ぞっとする、怖気が走る。これから自分はどうなるのか、朝から?まさか!でも常識が通じないのが目の前の相手だ。我イズマイルールで突き進むのが英雄王である、朝から励まされてもおかしくはないのだ。
「フェイカーよ、朝から何とする? まさか我から逃げようとしたのではあるまいな?」
「そ……そんなわけがないだろう! ただ朝食を作ろうとしただけだ、だからこの手を」
「ほう? だがおまえは嘘つきだ、簡単に信じてやるわけには行かんな」
「――――〜っ」
どうしろというのだ。まさか、まさか本当にこのまま?傍に大事な友人がいるというのに?眠っているというのに?いや、そんなことを気にする彼ではない、でも程度というものがあるだろう!
「んっ」
初っ端から深いくちづけ。酸素を制限なく奪われて、くらくらと衝撃と単純な酸素不足に眩暈がする。近くにある薄い布団をくしゃりと握りしめ耐える、だが耐え切れるはずもない。
「ん、は」
糸を引く、それは途中で切れてぷつんと落ちた。
はー、はー、はー、と手が、肩が、体が震えている。熱い。そこらじゅうが熱い。
「ふむ、従順だな。これなら信じてやっても良いかもしれぬ、が」
英雄王はぺろりと濡れた口端を舐め、にんまりと笑い。
「やはり何事にも仕置きというものは必要なものよ、なあ?」
「何がだね!?」
意味がわからなかった。
何が何事にもなのか、全然わからなかった。などとぐるぐる思っている間にも手が伸びてくる、顎を捕らえられくい、と、彼の方を向かされる。
くわっ、と開く口、迫り来る口、ああもう駄目だ。などと思っていたとき。
「ギルガメッシュ?」
澄んだ声が、混沌の中に響き渡った。
「…………」
「…………」
「…………」
三人分の沈黙。
布団から上半身を起こし、彼がじっと弓兵と英雄王を見つめていた。やけに真摯な瞳で、じっと。
沈黙が続く、やがて彼は言った。


「そこに愛はあるのかい?」


思わずずさーっと布団に突っ伏した弓兵とは裏腹に、英雄王は平然とした顔をしていた。顎に手を当て考えて、そして。
「似たようなものはあるかもしれんな」
「そうか、ならいいんだ」
「似たようなもの!?」
違う、それ絶対違う、まともな愛じゃない、加虐愛とかそういうものだ、だって英雄王だもの!
ああとおさか、おれうちにかえりたいよ――――。
「エンキドゥ、貴様も参加するか?」
「ううん、僕はいいよ。君と彼の間には愛があるんだろう? それを僕が邪魔するわけには行かないさ」
「そうか」
「そうか!?」
「よし、我が友の許しも得たことだし励むとするか、フェイカー!」
「なんでさああああ!?」
あなたさまは朝からお元気ですね、だとか。
言いたいことはいろいろとあったけれど、だけど、そんなことは王の猛攻の前に虚しく消えてしまったという。



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