私の王子様。
など言うのは、多少どころではなくかなり気恥ずかしい。
「…………」
なのでむっつりと押し黙って言葉を堪える。変な言葉が漏れ出ないように。漏洩しないように。
けれど彼はやっぱり王子様で、私はだから苦労する。
「エミヤ?」
不思議そうに首を傾げる彼は、やっぱり全然ちっともわかっちゃいない。不思議そうな顔で、声で、まなざしで、私を見つめてくるのだ。
「どうしたんだい、エミヤ?」
「……何でも、」
ない、と言ったのに彼は聞きもしない。どうしたの?と問う口調になって、額に手を伸ばしてくる。
「顔が真っ赤だよ?」
だから何でもないはずなんてないだろう、そう言ってひた、と額に手を当ててきた。
「――――ッ」
びくん。
思わず体が戦慄いて、全然ちっとも「何でもない」はずはなかった。
「……エミヤ?」
怪訝そうな声。
それに悪いことをしている気分になって、きっと本当に悪いことをしているはずで、だって嘘を吐いている。
けれど本当のことなんて言えるはずがない。そんな恥ずかしいこと言えるはずがない。
君は私の王子様だよ。
ああ、そんな浮付いたこと、一体誰が言えるだろう。
……目の前の彼なら、歯の浮くような台詞だって堂々と言えるんだろうけど。
「君の、手は、冷たい、」
「嫌だった?」
「――――別に」
「ああ、でもね」
屈託なく、彼は笑う。
「手の冷たい人間は、心が温かいんだって」
笑う。
得意げに。
「だからね、エミヤも」
手を握られた。冷たい手。けれど。
「ほら、冷たい。だからね、君の心は温かいんだ」
得意そうに、彼は笑った。
駄目だ、と思う。
「おそろいだね」
君は。
そうかもしれないけれど、私は。
全然、温かくなんてない。
「……違う」
「ん?」
「そんなの、違う」
駄々を捏ねるみたいな口調になったけれど。
私はとにかく、反論する。
なのに彼は、笑って。
「違わないよ」
ぎゅっ、と手を握る手に力を込めてきた。
「君の心はきっと、温かい」
目を細めて、彼は笑う。
「この手で触れられないのが残念だけど」
君の心は、きっと。
「温かいよ」
まるで、安心するように笑うから。
……錯覚を起こしそうになる。
でも、違う。
この心は鉄だ。温かくなんてきっとない。
「……セイバー」
「アーサー。でしょ?」
にっこりと微笑んで真名呼びを強いてくる彼に、私は「セイバー、」と繰り返して。
「私に、触れようとしないでくれ」
「どうして?」
「錯覚してしまいそうになる」
「すればいいさ」
息を呑む。
苦しくて、ため息を長々と吐いた。



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