「……っあ〜!」
久々の酒は美味い!
笑顔でビールを飲み干したランサーにつまみを出しつつ「あまり飲みすぎるものではないぞ」とアーチャー。それにからからと笑って、オレを見くびるなよ?とかのアイルランドの光の御子はのたもうた。
「生前は樽単位で飲んでたんだ。こんなもん水だ、水」
「それならいい……のか……?」
あまりアルコールが得意ではないアーチャーからすると、もう何杯目かもしれないビールは明日のために控えた方がいいと思うのだが。バイトもあることだし。
その傍ではライダーが真っ赤なカクテルをちびちびと舐めている。その名はブラッディ・マリーだ。ある意味、彼女にぴったりと言えるだろう。
彼女の隣にはセイバー。彼女もまたランサーと同じくビールを飲んでいた。見た目的にアウトな気がするがまあ、実際の年齢ではセーフなのだから許してほしいというところか?
そして。
「おいフェイカー! つまみが無くなったぞ、早く持ってこい!」
「誰だこいつ呼んだの」
「誰も呼んではいませんよ」
「勝手に来たんです」
無駄に豪奢な黄金の器になみなみと赤ワインを満たし、英雄王は何も気にしない様子でつまみを強請る。アーチャーはそれに全然慣れた様子でさっとクラッカーに様々なトッピングをほどこしたカナッペを差しだした。おお!英雄王が感嘆の声を上げる。
「貴様はただの贋作者の割に料理だけは突出しているな! 良い良い、すべて喰らってやろうではないか!」
「なっ……この暴君め! アーチャーの料理を独り占めしようと言うのですか!?」
「あー、それはオレも許せねえな。手助けするぜセイバー。ライダー、おまえはどうだ?」
「わたしは……あまり食事にこだわりはありませんので……」
血の味にはこだわりますが、という言葉はあえて飲み込んだ彼女の前でよーしとランサー&セイバー組が気炎を上げる。
「英雄王、たとえあなたでもわたしたちふたりを相手取っては無事で済まないでしょう! 今ここで降伏してそのカナッペを差しだすのならば許さないでも……」
「ふむ? セイバーよ、貴様にならば少し分けてやらぬこともないぞ?」
「えっ」
今にもエクカリバろうとしていたセイバーが間の抜けた声を上げる。そのリアクションにランサーも「えっ」と言ってセイバー、それと英雄王ギルガメッシュの両方の顔を交互に見た。
「おまえはこの我の妻となる女。それならば食い物の少しくらい分けてやることも許してやろう」
足を組んで、いつの間にか用意された椅子に座り偉そうに。
抜かしやがりました英雄王の目の前で、ランサーはセイバーの方を見る。そして言う。
「おいセイバー……ないよな? おまえ今ここで、“食べ物に罪はありません!”とか言いやがってあの野郎側に付くとか」
「アーチャーのご飯がわたしを呼んでいます!」
「最低だなおまえ!!」
期待を裏切らないって意味では最高だけどな!
びしっと指差して言ったランサーの目前でセイバーは差しだされたカナッペにメロメロだ。そんな彼女を英雄王は加虐的な視線で舐めるように見やり――――。
「喧嘩はやめたまえ、君たち。つまみなら私がいくらでも作ってやるから」
そこで、救世主の声が響き渡った。
ギルガメッシュが、セイバーが、ランサーが、ついでにライダーがその声がした方を見やればそこにはまるでウェイターのように両手にたくさんの皿を持ったアーチャーの姿。
次の瞬間はぁぁぁぁ、といった様子で赤面して(興奮して)アホ毛をピコピコと揺らすセイバーに、身を乗りだすランサー。
「アーチャー、あなたの手料理がこんなにたくさん……! ここは理想郷ですか? アヴァロンなのでしょうか?」
「おい……いいのかよアーチャー、オレ、出されたもんは遠慮しないで食うぜ?」
キラキラと夢見る子供の瞳なふたりにふう、とため息をアーチャーはひとつ。
「そのように楽しんで食べてくれて食材たちもさぞかし喜んでいるだろうよ。ギルガメッシュはともかくとして……ライダー、君も何か腹に入れておいた方がいいぞ?」
飲むときに空腹なのはよくないのだと。
もっともらしいことを言ったアーチャーに、眼鏡の奥の瞳をきらり輝かせてライダーが「はあ」と答える。それならあなたの血を云々と、言いたそうにしていたが気のせいだろうか。
「ほら、みんなで分けなさい」
すっかり保父さん状態のアーチャーにわっとみんなが群がる。カナッペをさくさく美味しそうな音を立てて頬張るセイバー、んーと頬に手を当ててとろけそうな顔だ。
「美味です……美味ですアーチャー! あなたの作る料理はいつだって美味しい……!」
「これ上に乗ってるの何だ?」
「おい狗。それは我のものだ、手を出すな」
「…………」
もぐもぐこくこくはむはむ。
あっという間にたくさんあったつまみは消えていって、その度に空になった皿を持ちアーチャーは台所へ向かう。その皿を洗って、また新たなつまみを乗せて戻ってくるのだ。
やがて夜も更け興も乗り、ギルガメッシュが椅子からガタリ!と立ち上がった。
「雑種共! 我もいい気分になってきた、そこでだ」
そう言って彼がどこからともなく取りだしたのは。
「これぞ類い稀なる秘酒である! 心して呑むが良いぞ、皆よ!」
古びたラベルが貼られたワインボトル。中には真っ赤な液体がとぷり、と音を立てて揺れていた。
見た目だけでなく、漂う品格だけで凄そうなものだとわかる。その凄さにギルガメッシュを除く一同がざわめいた。
「あれは……! 見た目だけでわかります、きっと奥深く、それでいてこくのある味わいなのでしょう……!」
「御託はいいから早いところ呑みてえもんだな。おまえもそうだろ? ライダー」
「…………」
「ふふふ、良い良い。実にいい気分だ。今日は特別であるぞ? フェイカーよ、おまえにも……」
「いや、私は酒は嗜まないのでな」
先回りしてアーチャーが制すれば、英雄王はかすかにむっとした顔を見せる。
だがすぐにその他の面々からの呑ませろ!呑ませろ!コールを受けて下降気味だった機嫌を直した。
背後のゲート・オブ・バビロンに手を突っ込み、セイバー、ランサー、ライダー、そして自分の分の器を取りだす。
「さあ、とくと注ぐがよいぞ。我はいじましく節制しろなどとは言わんからな、浴びるように好きなだけ呑むといい」
わーい。
王が言うが早いかボトルは最速のサーヴァントであるランサーによってがばっと掠め取られ、どぼどぼとそれぞれの器に注がれる。
金色の器の中で輝きを見せる赤い酒にサーヴァントたちは瞳を輝かせて。
いただきます、も言わずに一気にそれを飲み干した。
「ああ……」
まったくもう、と言わんばかりのアーチャーの表情。器を手に、にやにやと笑いながら自らもそれを口にしようとした英雄王……だったのだが。
「アーチャー」
「どうした? またつまみでも欲しいと言うのかね?」
やれやれ仕方ない、とアーチャーが席を立とうとしたそのときだ。
名を呼びかけたランサーが、真顔でもって。
「おまえが欲しい」
「……は?」
いまなんていいましたかこのばかおとこは。
あまりに最速すぎて脳がいかれてしまったのだろうかと心配する暇もなく(する気もなく)今度はセイバーが畳に膝をついてずりずりとアーチャーの傍に寄ってくる。
「アーチャー……お願いがあります」
今度こそか?そう思ったアーチャーだったが。
「そのたわわな胸を揉ませてください」
「……何?」
いまなんて(ry 。
まさかセイバーがそんなことを言いだすだなんて思ってもおらず、ぽかんとしているとセイバーが両手を突き出してきて。
「拒否しないということは了承したということでいいのですね。では存分に……」
もみもみもみ。
もみもみもみもみ。
もみもみもみもみもみ……。
「いやちょっと待った! じゃなくて待ってください!」
勢いキャラも変わろうというものだ。
「何故?」
「いや、何故? じゃないだろうセイバー」
あなたの胸は大層揉み甲斐があるというのに、と真顔で言うセイバーにこんなときどんな顔したらいいかわからないの、な気持ちのアーチャー。笑えばいいと思うよ?と言ってくれる人はどこにもいなかった、残念ながら。
ちなみにもみもみもみ、と問答の間もセイバーの乳揉みは続いている。
そんな中、ゆらりと立ち上がったのはライダーさん。眼鏡の奥の瞳はどうしてかよく見えない。
「……まさか、ライダー……君も」
「あなたの血を吸わせてください、アーチャー」
「やっぱりな!」
やっぱりだった。
三者にじりじりと迫られて、アーチャーは混乱しながら英雄王に向かって叫ぶ。
「おいギルガメッシュ! これは一体どういうことだ!?」
「む? どういうことだとはどういうことだ」
「明らかにこの惨状は君が持ちだしてきたその酒のせいだと思うのだがね!?」
「むむ?」
眉を寄せ、首をかしげながらラベルの文字の羅列を眺める英雄王。しばらく無言の時が過ぎ。


「ああ、間違えた」
「何と!?」
「はっはっはっ。フェイカーはこれだからいかん。何と何を勘違いしたかなどと、取るに足らん些細な問題ではないか」
「この惨状を見ても貴様はそう言えるのか」
ドスの効いた声で言うアーチャー。それから君→貴様とランクアップしていた。秘かにだが。
その声を聞いても英雄王は余裕綽々で、
「見るに、随分と楽しそうではないか。我を除け者にするとは許さんぞ?」
「…………は?」
「混ぜろ、と言っているのだ」
ぱちん、と指を鳴らせば、はい!天の鎖の登場です☆


「存分に我らの手で乱れよフェイカー。痴態を晒すことを許す」
「っんな……!」
緊縛状態にされたアーチャーの唇をランサーが奪い、胸をセイバーが揉み、首筋にライダーが喰らいつき、下肢を英雄王がなぞる。
「――――〜ッ!!」


後日。
しばらく衛宮邸での酒盛りは、アーチャーの猛反対にあって断固禁止となったそうな。



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