「なあ坊主」
「ん?」
黙々とさやいんげんの筋を取る。
「アーチャーを嫁に貰うにはやっぱりキリツグにナシつけに行かねえと駄目かね」
全部ぶちまけた。ちまちま手伝っていたセイバーが慌ててざるでキャッチしようと頑張る。ちなみに彼女が挑戦したさやいんげんはほぼ十割、筋が途中で切れていた。
ぶっちゃけ全部だ。手先の器用さを求められることは苦手でして、と後々セイバーは恥らいつつ語る。
「いやもう実質オレの嫁みたいなもんなんだけどよ、」
「いやちょっと待て俺は続きを促してないから!」
「なんかバイト先で聞いたらきちんと相手方に挨拶しとくのが男の甲斐性だとか何とか」
「だから聞いてないって言ってるのに!」
「シロウ! 大丈夫です三秒ルールセーフです!」
「現代はそういうところが面倒くせえな。オレたちの時代じゃそんなことなかったんだけどよ。ナシつけても後でチャラってことだって数えきれねえくらいあったし」
「アーアーアーアーアー」
「おい聞いてんのか坊主?」
「シロウ! 三秒ルールセーフ」
「ランサーうるさい! それでもってセイバーわかったから! 聞いてるから繰り返さなくていいからああランサーは黙っててくれよ頼むから!」
ぜえはあぜえはあ。
常識外れのサーヴァント二騎を何とか治めて士郎は肩で息をする。
「で……?」
息を整えてから、あらためて口にした。
「ランサー? 俺の耳がおかしくなったんでなきゃ、あんたがアーチャーを嫁に何とかって聞こえたんだけど」
「うん。だってそう言ってんだもんよ」
耳遠いのか坊主?
それとも痴呆か、あまりにあまりの言葉に目の前が真っ赤になりそうですデンジャーデンジャー。というか、
「爺さんはもう死んでるんだぞ!?」
「そんなのは知ってるっての。馬鹿にすんなよ?」
「いや馬鹿にするとかそう言う問題じゃなくてさ」
死んでる相手にどうやって会うのか。アーチャーをくださいと頼み込むのか。
「しかも男同士だし……」
「ばっかおまえ、サーヴァントに男も女もねえよ」
キリッ、といった調子で口にするランサー。ああ。
これが、こんな状況で放たれた言葉でなければなあ。
さぞかし格好良かったことだろう、と士郎は思い、はっ、と、
まずいまずいまずい自分取り込まれてる!非常識に練り込まれてる!と意識を改め直した。ノーモア非日常。
「ランサー」
そこにキリッ、とした調子でセイバー。そうだ彼女なら。
「アーチャーはわたしのものですよ?」
「ぶふっ」
――――いきなり、何を言い出すのか――――。
「はぁ? セイバーよ、おまえ何を言い出すんだいきなり」
「アーチャーはシロウ。ですので自動的にわたしのものになります。元鞘ですから」
「セイバー、それこういうときに使う言葉と違う」
違うぞセイバー?ていうかしっかりさやいんげん入りのざるを持って発言するところからして違うからな?
「とにかくキリツグ云々はすっ飛ばして、わたしはアーチャーを嫁御にもらいたいと思っています」
「この暴君が」
「それが王です!」
「セイバー、あいつみたいになってる! ほら金ピカの!」
「む。あの暴君と一緒にされるのは不満というかこう、黒いものが湧き上がってくるといいますか」
「セイバー今度は黒化してる! 黒くなっちゃ駄目ぇ!」
ぜえはあぜえはあぜえはあ。
今度の休憩タイムはちょっと長かった。いいだろもう勝手にしなよ、と士郎の頭の片隅でちっちゃい士郎が言っている。人、これをいわゆる投げっぱなしジャーマンと名付ける。
「これは……」
「キリツグ、ですね……」
えっ、突然何が始まったっていうか終わったの。終わったから始まりがあるわけですよねえ、ええ。
「師匠に聞きかじりだが降霊術を習ってたんでな。それでキリツグを降ろせばいいだろ」
「ええ、それで決着をつけましょう」
え。
サーヴァントが死人を召喚してもいいの?ていうかそんな理由で決着つけて――――ああもういいじゃん勝手にしなよ。と、またも頭の隅っこで投げっぱなしジャーマンが炸裂した。
「よし、行くぞセイバー。まずは生け贄探しからだ!」
「ふふ、負けはしませんよランサー? それでは!」
それではっ、じゃないっていうのに。
それぞれ武装を纏って勢いよくブロック塀を越えて駆けていったふたりに取り残された士郎がひとり。ぽかんとするでもなく彼は。


「さやいんげん……返してほしかったんだけどなあ……」


おかげで今日のメニューを練り直さなければならなくなった。



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