とさ、と軽い音。
畳に敷いた、布団の上にアーチャーを組み伏せたランサーはさてこれからどうしようか、と脳中で思いを巡らせていた。
初めてではないが重ねた回数もそう多くはない。アーチャーも慣れていないはずだ。
さて――――。
「…………、」
見れば。
首筋。
肩口。
手首。
そんなところが、細かく震えているのをランサーは視覚した。
褐色の肌、器官、そんなところがよおく見ないとわからなく……ではなくて、しっかりと灯りの下で眺めてでもわかるほど震えていて。
「…………」
思わず、何度かその赤い瞳をランサーは瞬かせた。
「、ッ」
前髪をかき上げてその額にくちづける。
息を呑む音を聞いて、そっと笑って声をかけた。
「……やめるか?」
そうすれば、向こうも軽く息を呑む音。そうして、
「……す、する!」
「意地張んな」
ああ、なんて。
「い、意地なんて、張って、いない、」
「んな途切れ途切れの声で何言うよ」
くすくすと喉奥でランサーは笑いを転がす。するとむっとした気配がして、
「だから、意地など私は……」
オレは、と言い募る喉仏を軽く噛めば反論は止まった。そこにやさしく、やさしくランサーは声を落とす。
「震えてる」
言いながら手首を取って、布地に隠れた鼓動する場所に唇を当てる。
明らかに速い鼓動にくすりと笑えば、震えはなおいっそう速くなった。
ちゅ、と音を立ててしかし痕は残さずに、甘く噛むだけで次に行く。
てのひら、関節、指の腹。
爪の先を柔く噛んで口内に含めば、どうしようもなく震えている。
もごもごと粘膜で弄んで、歯で押し当てて、溢れた涎を呑む。
その度にアーチャーの体は全体で細かくびくびくと震えていた。
「ぅ、う、」
上がる小さな声。
抑えきれずに上がるその声へ、ランサーは欲情を覚えずにただ愛おしいと思った。睦言、色事に弱いアーチャー。ランサーの恋人、たったひとりの。
「……ん」
震える声。
ついっと糸を引いて抜け出ていく褐色の指先。
それはまだ細かく震えていて、吐き出す息も震えている。
熱い。
吐き出す息は、いつもは冷たい体と違って現在の火照った体のように熱を持っていた。
「……ランサー」
「無理すんなって」
「だから、私は――――」
ん、と上がる声。白い髪をわしわしと掻き乱して、体を離そうとする。
「……ん?」
ランサーは違和感に声を上げた。背に回る感触、少しだけ濡れたものが触れてきて、慌てて引いていった。
片腕だけで己に縋ったアーチャーに、ランサーは先程のように瞳を数回瞬かせる。
「怖く、ない」
「……アーチャー」
「これだけなら、怖くは、ないから」
抱いていてほしいのだと。
震えながらも、アーチャーはそう言葉にした。
ランサーは目を軽く見開く。そして、すぐに細めて。
「ああ」
震える背中に腕を回して、抱きしめた。
その前に自身の唾液で濡れたアーチャーの手を取って、背に回させ。
戸惑うアーチャーに「これでいい」と呼びかけ、体を密着させて。
硬くなる体を解そうと耳元で笑い、少しだけ失敗し。
小さく炸裂するように漏れたアーチャーの悲鳴、のようなものを聞いて目を丸くした。
震える体は。
少しずつ、少しずつ。
落ち着きを増して、いったのだった。



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