『あんたたちはTPOってものを知らないの!? そうやっていつもべたべたべたべたべたべたして! ……いい、わかった。わたしの目の届く限り、ずっと監視してやるんだから!!』


「……なんて嬢ちゃんは言ってたがよ」
ランサーはつぶやく。アーチャーは眉間に皺を寄せた常の表情だが、ランサーを突き放したりはしない。
「嬢ちゃんが始終見張ってられるわけでもなし。かと言って監視カメラなんてハイテクなもん、嬢ちゃんにはとてもじゃねえが扱いきれねえだろ」
「……確かに」
凛の機械オンチは皆の知るところだ。ついこの先日も特番を録画しようとしてリモコンと格闘したあげくにリミットブレイクし、笑顔でガンドを決めようとしたのを全員で押しとどめたのだ。
もう機械には触らないでくれ遠坂。というのが家主の士郎の切実な願いだった。
「彼女も努力してはいるのだがな。まあ人間……ひとつやふたつ苦手なものもあるだろう」
アーチャーはため息をつく。しみじみとしたその口調。ランサーは横顔を見つめ、
「てい」
「!?」
ごろん、と畳の上に転がされてアーチャーは目を丸くする。その体の上に乗り上げたランサーは口端を吊り上げて笑った。
「ランサー、一体なんの……」
「簡単だ。オレと一緒にいるのに嬢ちゃんの話ばっかりしてる。それが気に食わねえ」
大人の体と精神を持ち合わせながら、ひどく子供じみたわがままを言う。それにぱち、ぱちと何度か瞠目して、アーチャーはふと笑った。
「やれやれ。アルスターの英雄ともあろうものが、少女に嫉妬するなどと」
「いけねえか?」
「祖国の民が知れば悲嘆に暮れるだろうよ」
「違いねえ」
くつくつと肩を揺らしてランサーはささやくように告げた。
「だけどそんなことはオレの知ったこっちゃねえんだ」
今、オレの頭の中はおまえでいっぱいだ。
そう続けて、ランサーはアーチャーの顔に自らの唇を寄せる。
「愛してるぜ。アーチャー」
「ラン、サー」
唇と唇が重なりあう―――――そのときだった。
ふたりのサーヴァントは、はっと弾かれたように顔を上げ、天井の隅を見た。そこにいたのは、
「……なんだありゃ」
「……梟、だろう」
「……そんなのはわかってる。だけどなんでやたらとキラキラしてやがんだ」
「……それは宝石で出来ているからで……」
そこまで言って、ふたりは気づく。
凛(嬢ちゃん)の仕業だ!
「ずっとあそこにいたのか……」
「正直魔力の無駄遣いだよな」
「それは言ってやるな。しかし……」
「ああ、しかし……」
めっちゃ見ている。
ふたりは呆然とする。
「正直視線で射殺されそうだぜ」
「ああ…………私もだよ」
ものすごく、めっさ、ガン見している。ふしだらなことは許しません。淫らなことも許しません。そんな気迫が梟からは滲みでていた。つかいちゃつくな。と言っている、視線が。
「……危険だ。私の本能が告げている。とりあえず離れろ、ラン、サ―――――ッ」
言葉は宙にちぎれた。両腕を拘束されて、アーチャーが焦燥する。
「一体なにを!」
「いいかよく聞け。オレはな」
先程のようにランサーがアーチャーの顔に唇を寄せてきた。それを顔を動かすことで必死に避けようとしていたアーチャーに、ランサーがささやく。顔を動かしたことであらわになった、無防備な耳に。
「何事にも、障害があるほど燃えるんだ」
その言葉にアーチャーが絶句する。ランサーは大層男くさい表情でにやり、と笑った。


「ランサー、君、まさかッ!? やめたまえ、そんな馬鹿げたこと……!」
「ああ? 馬鹿げたとは失礼だぜ、オレのこいびと? この溢れんばかりの愛を、嬢ちゃんに見せつけてやろうと思ってるんじゃねえか」
「気が触れているのか君は! そんな悪趣味なこと、私は」
「見られてるってのも燃えるもんだぜ?」
「な―――――!」
再び絶句したアーチャーの首筋にランサーが噛みつく。怯んだところで甘噛み。声が漏れてしまいそうになって、堪える。だけれど緩急つけた責めに、とうとうアーチャーは屈してしまった。
「っは…………やめ、ラン、サ…………」
首筋をべろりと舐め上げてランサーはいったん身を離す。とろり、と蕩けて潤んだ瞳をじっと見て、口をゆっくりと動かした。
「そんな顔で言っても、全然説得力ねえぞ? アーチャーよ」
そしてめくるめく狂宴が始まった。


使い魔を通して一部始終を見ていた凛が、夕飯時にそれをネタにして英霊ふたりをじわじわといたぶったことはまた別の機会に話そう。



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