よお。よく来たな。で、あれだろ。
こんな時間にそんな顔してここに来るってことは、退屈で退屈で仕方ねえんだろ?な、そうだろ。しょうがねえなあ。
なら暇つぶしにオレの話を聞いていけ。なに、案ずるな、すぐに済むさ。
最近猫がオレに会いに来るようになってな。毛皮の色は……白……いや、黒か?それとも赤だったか。
まあいい。目の色は灰色だ。それさえわかってりゃいい。
今じゃ触らせてくれるようになったが、最初はもうひどいもんだった。ええと、初めて会ったのが、学校の……屋上だな。飼い主と一緒だった。気の強い嬢ちゃんだ。なかなかオレの好みのタイプ。
いきなり声をかけたらそろって驚いてたな。いや、悪りいことをした。それから校庭に場所を移してスキンシップの始まり。楽しかったぜ。思わず本気を出しちまうくらい。
その猫だが、ツンツンしながらニャアニャア鳴くもんだからうるせえったらねえ。よく喋る猫だと思ったぜ。
そうやってせっかく楽しく遊んでたのに、邪魔が入ったからオレは猫を放って邪魔者を追いかけた。それで、仕留めた。当然だろ?
……だと思ってたのに、その坊主、生きていやがった。これはまずいと追いかけて殺しに行ったら獅子が出てきた。獅子だぜ獅子。
ああ……まあ、獅子の話はいいか。猫だ、猫。
猫は相変わらずツンツンしてニャアニャアうるさく鳴いていた。本当によく喋る猫だった。で、正直うんざりしてたんだが、何かの間違いで惚れちまった。
って、なんだその顔。な……って、馬鹿野郎、違うっての。からかうんじゃねえよ。おいたがすぎると痛い目に遭うぜ。
痛い目といや、猫はずいぶんと自虐が好きだったみたいでな。進んで痛い目に遭いたがる。地雷を踏み抜く。落とし穴に落ちる。なあ、あんたの知り合いにいるか、そんな積極的自爆野郎。いねえよな。わかってる。
……毛並みの変わった猫だった。そこがよかったのかもな。
それであれだ。惚れたら追いかけるだろ、まずは。ところが猫の奴、逃げやがる。軽々屋根を飛び移りやがって、大層身軽だ。
猫まっしぐら。
いやなんでもねえ。言ってみただけだ。
ようやく追いついて屋根の上に押し倒すと、猫は抵抗した。まあ当然だろうな。オレだってそうする。
夜中だっていうのに猫はニャアニャアニャアニャアやかましく騒いだ。やめろだとかはなせだとかたわけだとか。うるさくてたまらねえ。
だから口を塞いでやった。んっ。
今のは何かって?猫の物真似だろ。口を塞がれた瞬間の。似てた……って、見てたわけじゃねえよな、あんた。いや悪かった。
とにかく猫を黙らせたオレはすみやかに行動した。
ねこじゃらしを振って、
またたびで酔わせて、
とろとろになったところを、
美味しくいただいた。
あーなんだ。つまりは魔力で酔わせてめろめろになったところを襲っちまったわけだ。無理矢理に。
便利だよな、オレたちの体って、本当によく出来てやがる。
さすがに愛をささやく前に襲っちまったのは悪かったと思ってる。嘘じゃねえよ。誓って。
だけどなあ……あいつ……悦んでたんだわ。いや、もちろん魔力に酔ってのアレだったかもしれねえけど。
すみませんごめんなさい。まずは体のお付き合いから。
順序が逆だろって言うなよ。わかってる。悪かった。オレが悪かったよ。だからそうニヤニヤすんな。あの嬢ちゃんを思いだす。
それでなんだったっけか。そうか、猫の話だったよな。
あいつ、オレに抱かれてから、オレのまわりをうろつくようになった。
港まで追いかけてくるわ、なんか変なもん食ったんじゃねえのこいつって引くような奇声上げるわ、余計な王様連れてくるわで散々だ。
同じ系統同士仲いいのかあいつらって思う……ん?なんでもねえ、こっちの話。
まああれだ。
変な奴なんだが。
オレはアレが好きなんだ。そんでもって愛しちまったんだな、手遅れだ。
なかなか悪くない気分だぜ。
―――――ん、気が済んだか?よし。じゃああんたのあるべき場所へ戻れ。オレもそうする。
結局はのろけ話だったってな、でもオレは満足したしあんたも満足した、それでいいんじゃねえの。
さて、仕事の続きだ続き。
今日は天気がいいよなあ。あの猫も、干した洗濯物にでも思いを馳せながら上機嫌でオレの顔を見に来るだろう。


じゃあな。



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