みーんみーんみーん、と終わり気味の蝉。
どうしてだかコンビニエンス前の道で、ランサー、アーチャー、ギルガメッシュの三人はアイスクリームを食べていた。
「全く……九月に入ったというのに今日も暑い」
宇治金時を食べているアーチャーは、シャツの胸元をはためかせて珍しく滲ませた汗を拭う。
「なかなか終わるもんでもねえだろ、夏ってもんは」
あずきバーを齧っているランサーは、くくった長い髪を跳ね上げタンクトップの腕から伸びる眩しい白い腕に垂れ落ちそうな練乳を舌で舐め取る。
「日本というのは鬱陶しいものだな。過ごし憎い」
胡乱げな表情をし、ハーゲンダッツバニラをローズレッドのスプーンですくったギルガメッシュはため息をついた。
シチュエーションの妙は突っ込まないでほしい。そういうものなのである。


みーんみーんみーん。
蝉が鳴く。
「…………」
「…………」
「…………」
しばしアイスを貪る。
しゃく、とカップに僅かに残った宇治金時を口に運んだアーチャーは、口内に残る抹茶と小豆の味に癒される。サーヴァントは食事をせずとも生きていけるが、嗜好品としてでの食品を摂ることをマスターである少女に薦められてから少しは摂るようにしていたのだった。
凛、と彼女の名を呼んで、ランサーとギルガメッシュに隠れてかすかに笑う。
その時だった。
「ひぃあ……っ!?」
べろりと首筋を舐め上げられて、アーチャーは腰掛けていた鉄の仕切りから落ちそうになる。
何を、誰、と見てみれば、そこには、間近にはランサーの姿。
「ランサー、君、何を……!?」
「いやよ」
食べ終わったらしいあずきバーの棒を咥え、ランサーがこもった声で。
「こいつみてえな肌の色してるだろ? おまえ。だから甘い味でもすっかな、と思って舐めてみたんだけど」
ごくん、と生々しく白い喉仏が音を立てた。
「ただ汗の味がするだけだったな」
「なっ、あっ……!」
ただただ絶句するアーチャーのうなじを、べろりと。
「あっ……!?」
振り返ればそこにはギルガメッシュ。
「君もかね!?」
「うん。まあ、つられてやった」
「……――――〜ッ!」
もう、声も出ない。
「本当に汗の味しかせんのだな。つまらん」
つまらん、と言いながらギルガメッシュはにやりと笑う。手にはとろりとしたバニラがまとわりついたローズレッドのプラスティックスプーン。
「しかし、珍味だ」
「おい、そいつはオレのもんだぞ」
「ぬ?」
かちん、と見つめ合う赤い瞳と瞳。ぱしんと絶句するアーチャーの右腕をランサーが掴んで。
「オレはするなら路地裏がいい」
すぱん、ともう片方の左腕をギルガメッシュが掴んだ。
「たわけが、事に及ぶならばロイヤルホテルのスイートであろう」
アーチャーは、今度こそ、正しく、絶句した。
上限を越えて絶句した。
「なっ、なっ、な、あああ……!?」
「路地裏だ」
「スイートだ」
赤い瞳と、瞳。
見つめ合っては後、離れて。
「どっちがいい?」
「声を重ね合わせるな!」
叫んだアーチャーは鉄拳制裁を食らわせようとするが、上手く力が入らない。
どうしようかと思っていたその鋼色の瞳が、ふと人影を捕らえた。
「衛宮士郎!」
「え!?」
「おまえは正義の味方だろう? ……困った者がいるのなら……助けるのが道理だ……そうだな?」
「え……え!?」
甘く掠れた、むやみやたらに艶っぽい声で呼びかけられ。
戸惑いの声を上げる、衛宮士郎がそこにいた。
その正義の味方に、食い入るようなアーチャーの視線が投げかけられる。
がさがさと鳴る買い物袋。
衛宮士郎の明日はどっちだ!



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