本当のことは目に見えない。
そう彼に言ったら、おまえの鷹の目でも見えないのかと笑われた。
「オレにはよく見えるけどな。おまえの考えてることも、信じてることも、全部」
見通せる、と言って笑う。
全部見えるということは怖くないんだろうか。
「怖くねえけど? だって、そんなこと言ってたら生きていけねえだろ」
本当のことが見える。そんな目は魔眼というのではないだろうか。
赤く綺麗な瞳。宝石のようなそれを見ていたら、言うこともあながち嘘ではないのかもしれないと思えた。
自分が衛宮士郎であった時、途切れた命を繋いでくれた赤い宝石。それに、彼の瞳の輝きはよく似ていたから。
ランサー。
彼の言葉は嘘が含まれていない。本当のことばかりで目が眩む。
輝いて、煌めいて。
そんな目で見据えられたら、嘘ばかりの自分が居た堪れなくなった。
「――――」
「どうした?」
「何でも、ない」
また一つ、嘘が増えた。
一つ一つ積み重ねていったら、いつか嘘しか口に出来なくなるんだろうか。
そんなのは嫌だと思いながらも、本当のことを言うのは怖い。
だから嘘に逃げればまた怖くなって、堂々巡りに嵌っていく。
嘘は怖い。
誠は怖い。
そればっかり。
かろうじて笑うことだけ覚えて、それさえ曖昧にはぐらかすことに使う。
本当のことは目に見えない。
だから、彼もいつか見えなくなるんだろう。
この鋼色の目には、嘘ばかりが映るから。
澄み切った青色をした彼も、いつか映らなくなるんだろう。
「――――ああ、」
怖い。
そうやって怖がることばかり覚えて、信じることを失っていく。
もうとっくに自分を信じられなくなっていたのだから仕方がない。
怯えて過ごしていくしかないのだ。
最初からそうやっていれば怖くなかったのに。失うことも。得ることも。
下手に信じていたから。感じていたから。
失って、得ていくことになる。
真実を。
恐怖を。
失って、得ていくのだ。
「アーチャー」
赤いコートを着た少女が自分の名を呼ぶ。
「あんた、最近調子がおかしくない?」
ねえどうしたの、と心配そうに彼女は言った。
「何でもないよ、凛」
エメラルド色の瞳は、怪訝そうな様を浮かべている。
それに笑う。曖昧にはぐらかす。
彼女は信じていない目をして、それでもそうなの、と答えてくれた。
「そうなの。それならいいわ。……それなら、いいわ」
あんたがそれでいいなら、いいわ。
ごめんなさい。
本当のことを何一つ口に出来なくて、ごめんなさい。
ごめん、凛。
ごめん、遠坂。
ごめんなさい。
でも、いつか。
笑えるようになるから。
本当のことを言えるようになるから。
それまで待っていてほしい。君も、彼も。
裏切らないようにするから。
本当のことを、言えるようになるから。
それまで待っていてほしい。
これは嘘じゃない。真実だ。
だから、待っていて。
お願いだから。
風が吹く。気持ちいい風だったけど、少し寒く思えた。



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