「離れなさい! 英雄王!」
「何を言う、セイバー? おまえが共に我の胸に飛び込んでくればよいのではないか」
「…………」
なんだこれ。


左右からおうさまふたりに挟まれ、アーチャーは磨耗していた。
まずは衛宮邸にてセイバーに粛々とご飯を提供していた。この食事が終わったら手合わせをしよう、もちろん宝具はなしで。
そんな約束を交し、ほんのりと嬉しさを覚え。
もぐもぐこくこくはむはむと食べ進むセイバーを眺めていたアーチャーだったが、縁側の方から高らかな笑い声が響いてきた。
すわ敵襲かとふたり剣を取り、庭に躍り出ると。
「はははははは!!」
大声で笑う、英雄王ギルガメッシュがいた。
塀の上に。
「会いに来たぞセイバー! さあ我のものになれ!」
「――――英雄王!」
「ギルガメッシュ……」
「む? フェイカーもいるのか?」
そこで。
アーチャーは、「ああ」などと言ってしまった。
「フェイカー、貴様がいるのなら話は早い。貴様も……我のものになれ!」
「な……なんですって……!?」
「……なんでさ」
なんでさ、である。


「はっ、なっ、しっ、なさい! アーチャーが痛がっているでしょう!」
「ほう。眉を顰めているな。だがその顔もまた……貴重なものよ」
痛い。
本気で痛いので、やめてほしい。あとセイバー、……君も痛いよ。
それが言い出せないアーチャーであった。
「アーチャーは――――わたしの鞘です! 英雄王、あなたなどに渡すわけには行かない!」
きっ、とセイバーが眼力を振り絞る。だがそれを跳ね除けて、ギルガメッシュは鼻で笑った。
「鞘? 何だそれは。フェイカーは我が蔵に収納する原点よ。セイバー、おまえと共にな」
「断ります!」
きっぱりと言い切るセイバー。そして強まる腕を引く力。
いたっ、とアーチャーは眉を寄せる。
それに気付いたようにギルガメッシュはふと力を弱め。
「ほう……その顔。処女を引き裂くようでいて、ひどく……そそるな」
「英雄王!?」
「セイバー。少し待っていろ。何、そうは待たせん。フェイカーの処女を奪った後、おまえのそれも……」
「エクス……」
「セイバー!」
エクスセイバー。
ではない。
アーチャーが、カリバーを止めたのだ。
「いけない! この場所で放てば我々も巻き込まれる、それに半壊程度では済まないぞ!」
「ぐ!」
「そうなれば凛に何と言われるか……いや、言われるだけでは済まない!」
「ぐ、ぐ!」
「ははははは! 手はもう無いようだな!」
高らかに笑ったギルガメッシュを、セイバーは冷たい目で見て。
「……いいえ、あります」
「……何だと?」
「全力カリバーだから怒られるのです。ならば……省力カリバーであれば」
「セ、セイバー?」
「エクス……」
沸き起こる風、細い光の柱。
「カリバー!」
英雄王の脳天に振り下ろされたハリセン状の光の柱。
「痛い!?」
「カリバー! カリバー! カリバー!」
ばしばしとギルガメッシュを叩き続けるセイバーがくるりと振り向いて。
「これでいいのでしょうアーチャー? 被害は無い、英雄王は追える! 二兎を得る、です!」
「う……うーん……」
手が離れて。
痛みが去ったのはいいものの、ハリセン状カリバー(ミニ)で追い回されるギルガメッシュを見て、少し複雑なアーチャーだった。



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