さーて今日の衛宮さんちは?


イリヤの持ってきたワインで大混乱!アーチャーさんは酒乱だった!?そしてファザコン!?士郎さんは大殺界!力の限りだだをこねる大人気ない槍の英霊!結託する姉妹たち!これからどうするどうなる!


「初っ端からぐっだぐだだな!」
「え、きりつぐ、誰と喋ってるの?」
不思議そうにたずねるアーチャーに、士郎はぶんぶんと首を振った。なんでもないなんでもない。アーチャーはにっこりと笑う。
「よかった」
「あ、うん……俺もその……よかったよ」
「ナニがかしら」
「ナニがでしょうね」
「そこの姉妹、変換自重してくれ。さすがに女の子が下品なのは耐えられないぞ俺」
姉妹は口をつぐんだ。美味しい場面が途切れては困る。ランサーは涙目でまた暴れようとしたが、先手を取って桜が黒いアレで抑えた。今度は全力を注いでいるらしく、なかなか千切れない。おそるべしは女の子の底力。
アーチャーは士郎に抱きついて、切々と昔の思い出を語っている。縁側で一緒に喋ったこと。昼寝をしたこと。おやつを食べたこと。
あんなことこんなことあったでしょう?
―――――あったよな。
士郎は思わず自分の胸のどこかが痛むのを感じた。切嗣との思い出が、セピア色で脳裏に蘇る。
まるで古いアルバムをめくるようだ。
「きりつぐ?」
はっ、と我に返る。
切なそうな声に視線をやると、心配そうな顔のアーチャーがいた。眉は寄っている、だが眉間に皺はない。あ、こいつ、こんな顔もできるんだ…………。
「きりつぐ、きりつぐ? どうしたんだ?」
「なんでもないよ」
「なんでもなくないだろ。だってその顔」
指が動いた。
士郎の指先に唇を押さえられて、アーチャーは目を丸くしていた。士郎はそんなアーチャーを見てゆっくりと首を左右に振る。そして、うなずく。
「大丈夫」
「…………」
「俺は大丈夫だよ。だから、そんな顔するな」
「きりつぐ」
あら、なにこのしんみりムード。
姉妹は顔を見合わせて、ランサーは少し複雑そうだ。さすがに親子?の語らいを邪魔する気にはなれないのだろうか。しん、と沈黙。
誰もが口をきかない。
そこへ、
「きりつぐ大好き!」
「うわあ!?」
すべてをだいなしにする絶叫が響き渡った。


「きりつぐ大好き大好き大好きやさしいところ大好きほんと大好きオレお嫁さんになるきりつぐのお嫁さんになる絶対なる誰が言ってもなるいいよね? いいだろ? 答えは聞いてない!」
「ちょ、落ちつけ! アーチャー落ちつけ! マジで落ちつけ! ちょ、ランサーゲイボルクしまえ! 血涙流すな! 怖い! 本気で怖いから!」
筋力Bとは思えない力で桜の拘束を再びぶっちぎったランサーはいつのまにか概念武装で紅い魔槍をかまえている。怖い。本気で怖い。赤いのに青い。青いのに赤い。殺る目だ。これは殺る目だ。
士郎の上に馬乗りになったアーチャーは完璧になにも聞こえない様子だ。というか、非常に危険な場所に危険な格好で、むしろ体位で、いや体位言うな。しかし体位に見える格好で乗ってしまっている。
「オレ……きりつぐにならあげてもいい」
「ナニを!?」
下品になった。アーチャーは顔を赤らめたままで、ええい、もう酔っているのだか恥らっているのだかわからない。
士郎の手を取って自分の胸元に当てると、つぶやいた。
「いいよ。……きて」
噴いた。
「行きなさい衛宮くん!」
「行ってください先輩!」
「……逝くか。坊主」
「ちょ、待て! 待て待て待て待て!」
士郎は慌てて片手を振る。そりゃあ壊れた扇風機のように。あ、そういえば土蔵にふたつくらいあったっけ?まったく藤ねえってばいらないものばっかり置いていくんだからな、ハハハ。
まともなのは俺だけか。
「鼻血噴いてる男の子に言われたくないわね」
「言われたくありません」
「言われたくねえ」
「ええ!?」
噴いたってそういう意味?!士郎は急ぎ手の甲で拭いてみる、すると確かに赤い。不覚!
「さて、逝くか。坊主よ」
「やめろ! いややめてマジで! 本気でやめてください、うわ避けられない、アーチャーどけ! どいてくれ頼むから!」
「答えは聞いてない!」
「聞いてくれよ!」
さて。
人間という生き物は、生命の危機に陥ると子孫を残そうという本能が働くそうだ。
「…………っあ」
「あ?」
「あ?」
「え?」
「は?」
「きりつぐ……すごい」


「なにがああああああああ!?」


大絶叫が衛宮邸をゆるがす。
焦って起き上がろうとすると、アーチャーがびくんと体を震わせて声を上げる。ちょ、なに、アーチャー!とさらに焦って腰を動かせば、さらに声を漏らして真っ赤な顔をさらに赤くした。
「あっ、きりつぐだめっ、だめだって、そんな激しくしたらオレっ、」
「したらなんだよ!? なんなんだよ、ってこら俺落ちつけ、俺だけでも落ちつけ、ってとおさかああああ! さくらああああ! 見てないで助けっ、てランサー! 槍! 槍しまえって! マジで! 槍! 槍!」
「衛宮くん……すごいのね」
「すごいんですね、先輩」
「よーし、オレ坊主殺っちまうぞー」
「落ちつけって言ってるだろおおおお!!」
「きりつぐ大好きいいいいっ!」


衛宮邸の夜はもっと更けていく。



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