「ざ」
ぶ――――ん!!


浮き輪だの何だのを持ってプールに飛び込んでいく少年少女たち。巨大なクーラーボックスを抱えたアーチャーは、それをどこか微笑ましく遠い目で見ながら、人工の砂浜に腰を下ろした。
「ん、何だ。おまえ、泳がねえのかよ?」
「君こそ。こういったイベントでは率先して飛び込んでいくものかと」
思っていたのに。
隣へとランサーに腰を下ろされ、不審げに眉を寄せたアーチャーは、まあまあ、とばしばし肩を叩かれる。
つんのめる勢いとなったアーチャーはねめつけるような勢いで彼を見るが、当然相手は平気の平左。
「いいんだよ、オレは。それに、おまえがいる」
「え?」
「おまえが隣にいる。それでいいんだ」
いつものように火を点けていない煙草を咥え、アーチャーの背中をランサーは軽く叩く。赤い瞳の横顔に、ついアーチャーがどきりとしてしまったのは、秘密だ。


プールではきゃっきゃとセイバー、士郎たちが遊んでいる。ボールを投げあったり、水をかけあったり。まさに青春といった様子だ。
「……やはり」
「ん?」
「あそこに君がいないのは、おかしいと、思える」
「あのな」
今度はランサーがねめつけるような勢いでアーチャーを見据えた。白い顔の中の赤い瞳。それに、アーチャーはまたどきりとする。
「おまえが隣にいる、それでいいって言っただろ。それの何がいけねえ」
「だって――――君が」
「それとも」
わしっ。
がっしりと頭をホールドされて、アーチャーは俄かに慌てた。ランサー?声を上げるが、抵抗は上手く行かずに。
わしわしわしわし!
「わ……ぷ!」
「それともアーチャーさんは、オレにどっかに行ってほしいとお考えで?」
「そ、んな、こと、は、」
「だったら」
ぐしゃぐしゃになってしまった髪を梳くようにしているアーチャーの肩を叩きながら、ランサーは片手で自らの口に咥えた煙草を取り上げた。
「傍にいさせろ。おまえはあそこにオレがいないのはおかしいと言うが、オレからしてみればおまえの隣にオレがいないのは、おかしい」
「――――」
「ん?」
不思議そうに伏せられてしまった顔を覗き込むランサーの耳に、声が忍び込んできた。
「君は、」
「オレが?」
「ずる、い」
「は?」
「そんなことを言って。私の――――オレの隣に、だと? そんなの、絶対にずるい」
「…………」
頭に伸びようとしていたランサーの手が、止まった。
その手はランサー自らの頭に伸び、わしわしわし、と、後頭部を掻き乱す。
「あーっ」
「 、?」
「ずるいのはどっちだ、馬鹿が!」
白い耳が。
ほんのりと赤く、なっていた。
それを見てしまったら。
自覚して、しまったら。
「…………!」
アーチャーの顔にも、朱が差して。
「……ひど、い」
「どっちがだ、馬鹿が」
「君がだ、たわけ」
「そっちがだ、天然」
いや、魔性か。
そんなことをぶつぶつとつぶやくランサーの顔に、


すぱーん!


「…………!?」
「あーっ、ごめんなさいね? わざとじゃなかったのよ!」
明らかにわざとです。
そんな感じで、朗らかにボールをぶち当てた凛の声が照明差す天井に、高らかに、響いたのだった。



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