■domine-domine seil:0e クラインのメモ

「どんな感じ?」
 俺は気が遠くなりそうなのを堪えて懸命に目を開けた。
「気持ち……い……です」
「そっか」
 何かを入力する忙しないキーボードの音。
「さっきのと比べてどうかな」
 考える為に、感覚を改めて認識する。器具の変な形を思い出す。前のは、ふつうの人間みたいに細長くて、今のは、曲がってて柄が付いてる。どっちも、狭いのにおしてくる。ふるふる、きしきし動いたり、電気とか、流れたりする。やっぱり、なんていったらいいかなんて、思えない。あたまが、ぐちゃぐちゃだ。
「……っ……わかんな……い……」
「うーん。もーちょっと何かこう、表現できない?」
「できな……」
 息が続かなくて話がし辛い。ホントはちょっと感じがちがうのを説明したかったが、語彙が足りなさ過ぎる。
「……! っぁ、冷た」
 目の前がくらくなる。
 中触られるとあつくなるのに、水が冷たくておかしい。
「一度洗浄してリセットするから」
 すぐに水の温度が上がって、柔らかいお湯に変わった。でも、体はいうこときいてくれない。
「大丈夫? 胸がぎゅうってなったりしない?」
 モニタと見比べながら、丁寧に体を拭かれる。立たせてもらったら歩けた。
「気分悪くなったら、いつでも言ってね」
「大丈夫です」
 ケーブルをさばきながら歩く。こんなの馴れてるから平気。
「ピリピリするのとふわふわするかんじ」
「ん?」
 次の準備をする手を止めて、俺をみる。側に来て、目の高さを合わせて屈み込む。白衣の中は、今日はスーツじゃなくて、俺と同じ格好だった。前開きの検査衣。色はなんでか薄いピンク。俺は水色とか好き。今日も朝、白いのと2つ並べてあったからソレとった。へんなの。この人女の子の色が好きなのか?
「さっきの……どう違うかって考えてた」
「なるほどね〜」
 あんまり役には立たなかったみたいだ。ささっと入力して、電極を持ち上げる。
 我慢できなくてへんな声出しちゃうと恥ずかしいけど、怖くはない。
 怒られないし、痛くないし、血も出ないから、触素のテストは嫌いじゃない。結構すきなほう。気持ちいいと、後ですごく沢山眠れるのがいい。
 熱いのとも冷たいのとも、痒い……のが近い? やっぱり全然ちがう。その変わった感じを説明するのが難しい。アレがないともっとラクなのに。
 なんて、いつも思うけど、多分感覚のデータはスロットから吸い上げてるから、質問の意図はまた別。俺の心の動きとか、会話の仕方とか、脳が受け取った情報をどう周囲に伝えるか、あと、反応速度とか。そんなのも測ってる。
 やっぱり、我慢できなくて声出してしまう。こういうのは、さすがに細かく何も聞いてこない。
 こんなのついてるのに、ピンクとかオレンジとか好きなんて変な人だ。彼のうなじで揺れるプラグを眺めながら思う。この人は優しいけど、お腹が苦しくなるので最初のところは苦手。
 やな声だな。自分のなのに。なんか、すごくわるいことしてるみたいな気持ちになる。隠れなくちゃならないみたいな。口を押さえたいけど、抱っこされてて上手く手が動かせない。無理にやるとこの人の骨が折れる。
 頭の皮のしたを、誰かに締め付けられているような感じ、目の後ろに圧迫感があって、そういうのがお腹の奥を圧して、あつくなる。
 あつくなりながらきしきしされると、途中でねてしまったりする。
 気絶してしまったら、もっと身体が小さかった頃は次の日も歩けなかった。
 そういえば……いっぱい圧されるとよくわかるけど、人によってちょっとずつ形状が違うのは言わなくていいんだろうか。何故か誰もそのことは質問しないので、答えたことない。この人のが一番? 何を基準に並べたらいいか分からないけど、体積とかだと多分そう。身長とか体重に比例しないのも不思議だ。今度きいてみようか。俺も、大人になったらあんな風になるのかとか。
 てゆか、俺は大人になることができるのか、ダメかな。こんなのきいたら。
 彼は俺みたいに恥ずかしい声は出さないけど、何十kmも走り込んだみたいに息を上げ、しにそうな顔になる。温い汗がぽたぽた伝ってソレはちょっとだけいやかも。
 それでも、しなければならないことは忘れない。みんな冷静で、えらい。
「大丈夫?」
 モニタを注意深くみて、ソレを手にもつ。
「……は……い」
 とろんとしたやつに浸けて、行き渡らせて、着ける。筒だから被せる感じ?
 一瞬冷たくて気持ち悪い。それから、身体ががくがくして止まらなくなって、手に絡んだケーブルが抜けそうになって、それを何とか解いて、もう声とかしらなくて、抱き付いてしまう。いきてるみたいにきゅう、って締まって、しんでしまいそうだった。試作Lotのラベルが付いたつるつるの外側と違って、内側は細かい溝があるみたいだった。ソレがなんかこう……もう殺されそう。
 出し終わったのを確認すると、彼は腰を引いて、まだおかしいのがなおらない俺を強く圧した。
 フィルム越しに、すごく熱い感触がある。やけどしそう。ふらふらになりそう。この人もきもちいのかな。きもちわるくないといいけど。


「いい出来だ」
 スピーカーの向こうで、満足げな声がする。厳しい評定への安堵。別に、あてられて興奮してる訳じゃない。
 直で試してた男だってそうだ。
 俺もそうなんだけど。
「……」
 ほっとくと跡がつきそうだ。寝起きみたいでカッコ悪い。目の端に溜まった涙が気になる。でも、すぐそこに置いてあるティッシュを取るのも億劫だ。
 息もまだ上がったままだし。
 身体がダルい。
「今日はもういいよ。ご苦労さま」
 白い紙コップをくれた。椅子に腰掛けて、壁にもたれて中身をすする。我ながら行儀がわるいな。今度は音をたてないように、そっと口にする。合成ミルクティーのいつもの味だ。
 素子の仕上がりに気を良くしたのか、彼はにこやかに試験室を出て行った。
 まあ、だいたいみんなそうだけど。
 時々イカれた中でも最高にイカれた奴が来たりするけど、すぐいなくなる。
 隠れて俺を殴ったり、自作のドラッグを試した男か女かよくわからない博士も、壁のシミまで消えるくらい痕跡がなくなった。良い洗剤使ってるんだろうな。
 その部屋に新しく来た博士は、コックピットの係みたいだ。まだ話したことはない。狭いから、もうちょっと体を伸ばせるようにしてほしい。今度言ってみよう。


 何か色々勘違いされているようだが、研究所の人達はだいたい優しかった。
 取引先が持ってきた手土産にお菓子があったら分けてくれたし。ごちそうさまって言ったら頭も撫でてくれた。
 床がいつも綺麗で、定期的に清浄している薬剤の匂いが好きだった。清潔な証拠だ。安心するし、落ち着く。
 粉っぽいミルクティーも、それがいつもの味で、俺には満足だった。
 意地悪でないことが善良である証拠にはならないって、もう知ってるけど、工廠の誰か一人が間違ってるとは思わない。
 恨みとかも、俺はもってなかったんだ。


 自分の事で、工廠にムカついたことはない。提督として意見を求められたら、擁護にまわるだろう。自分の生まれた所だから言うんじゃないが、工廠のテクノロジーが世界を支えている。ワイヤー一本にも、セラミックの砕片にさえも、決して手を抜かない。μ単位の規格のずれでも切腹しかねない彼らを、俺は尊敬している。
 撃破というときこえはいいが、溶かし腐らせ潰すことを業務の大半にしてる俺とは全然ちがう。いや、ソレはソレで、俺にも仕事に対するプライドはある。
 だからこんな気持ちにもなるし。
 それでも自分には出来ないことの出来る彼らを凄いと思ってる。変わらず作り続けることは立派だ。いつも壊してるけど。


 俺のことをかわいそうだって言いたがる。良い人なんだなって思うけど、正直困る。人が良すぎるとすぐ死ぬし。
 更に斜め上をいって、生命倫理について一説ぶたれるとむしろ閉口だ。ソレがカミサマの言うとおりなんだって満足そうな顔をみてると、額に肉って書きたくなる。思想を絡める奴は信用できない。俺のタマシイだとか身体とか、そんなのダシにしなくても賽銭くらい入れてやる。縁起を担ぐのもパフォーマンスだ。


 そんな言い方されたら、俺には何もないみたいじゃないか。


 でも、俺はさっき、目の前にそいつがいたら殴りそうだった。斬り捨ててたかも。ソレはないか。軍法会議は嫌だ。
 艦長――あの人も長いこといるけど、転属も願わずよく付き合ってくれるな――が目を逸らすくらい、俺は収まらなくて多分殺気とかを振り撒いてた。ミクラ中尉が閃いてくれなかったら、作戦終了後も気まずい空気を引きずるトコロだった。


「提督、抗議文を出されますか? こちらの処理はエッケルベルグ大尉と私がいたします」
「頼めるか」
「はい。でないと『この後どんな風に報告書を書いて出したら良いかわからない件』もありますし、併せて提督にやってもらった方が」
 自分は若輩、あるいは知恵がまわらないので考えがまとまらない、ご指示を仰がないと不適切な記録になってしまうかも。
 このままだと洗いざらい全部本部にぶちまけてしまいそう、間違ってあらぬところにうpってしまったりするかも、というへりくだってはいるが脅しは、フユツキからの伝授だ。いかにも謙虚そうな態度で、落ち着き払って口にすると効果があがる。魔人て呻く奴が増えたりもするけど。
 あと、考えるならざわついてるブリッジよりも自室で腰を据えて、まあ、頭を冷やしてリセットしろという次第だ。


 新規兵装の実績を作る為に、出航を故意に遅らせるなんて。


 カテゴリーダークは知的生命の精神活動を喰らう。怯えや絶望はさぞかし旨かっただろう。特に老成していない不安定な精神を好むから、学生や幼児の多いあのステーションは、餌場として最適だったんだろう。


 一度助かったと安堵したところを、叩き落とすような真似をするなんて。
「あんたはカミサマがこわくないのか!」
 俺は剣に手がのびそうになるのをこらえて、自分の腕を掴んだ。


「ああ、間に合ってよかった! レガード主席が気を利かせてくれなかったら運用が先送りになるところ」
 メガネにはその先を言わせなかった。そばかすの目立つ色の白いガキだった。まあ、工廠にはロリ博士だって実在してるから、学徒兵みたいな年格好のヤツが白衣で高速艇を指揮していてもおかしくない。なかなか可愛い顔だったが、直で会いに来なくて良かったな。来てたらご自慢の工具で自分の顔を修理するところだった。俺の大ファンだって最初はどもりながら赤い顔をしていたが、件の主席研究員に繋ぐよう努めて静かに言ったときは驚きの白さ、見る間に青くなった。自分が高揚のあまり滑らせてはいけないものをすべらせた事に気が付いて、震えながら弁解を始めたが知るか。勝手に幻滅するといい。まあ、本当に俺、いや先行とかに糾弾されるべきなのはコイツじゃないんだが。
 メガネはメガネで言われたとおりに走って来ただけだ。不愉快な無邪気さが癪だったのはそうだけど。


 主席は怒りを露わにする俺をみて興味深そうに目を細めた。
 そういえば、上げ底してガチガチにして散々ヤった直後でも保育士みたいにニコニコしてたっけ。工廠[びと]はいつも冷静なんだよな。
 虚心[コア]を保護しなければならない程の激昂に、ブリッジの皆が引いている。そんなに俺が喚くのが珍しいか。だろうな。俺も指揮官になって初めてなんだ。
 こんなにムカついたのはいつ以来か。


 俺は自室に戻るとマントを外す余裕もなく食ったものを全部吐いた……つもりだったが胃液しか出てこない。最後に菓子食ったのいつだっけ。口をゆすいで顔洗って袖で拭う。行儀わるいな。酷い有様だ。帽子にもしずくがたれている。
 ムカつくってよくいうよな、腹が立ちすぎて吐き気がするなんて。暢気な感想を抱く半分冷静な自分にも腹をたてながら、引き出しを探る。アサギリ先生……少佐にもらった鎮静剤を引っ張り出す。多分期限は切れてない。1年くらいは大丈夫な筈だ。
 ブリスターを眺めて、袋に戻す。
 やめとこう。
 いま、俺の腹の中にあるものは吐き出したり抑えつけたりするべきじゃない。
 ソレがとても大切なものに思えて、正直めまいまでして苦しかったけど、俺はみぞおちに手をあてて、床に座り込んだ。心拍数が上がっているせいか、軽く脈を感じる。柔らかいな、自分でもそう思う。結構鍛えてるつもりなのに。ジョスはいつも触ってくる。こんな薄くて小さいのにって思うと余計興奮するらしい。悪かったな薄くて。悪態をつくが、そんなコト言われると俺だって、押し込まれるのを想像してしまう。
 いっそ滅茶苦茶やって忘れるか?
 ディスクに入れとけば休眠してるけど、たまに出してやらないとカワイソウだし。ついでにかわいがってもらおうか。
 確か規定ギリギリの酒入ったチョコレートがあった。それから、アサギリ少佐がくれた中枢神経系の……まあ興奮剤、ていうかロコツに言うと媚薬。使うつもりなかったから適当に仕舞ったけどどこだっけ。やっぱり引き出しか。
 俺自重。氏ねじゃなくて死ねって思った。ココまでが約7分。
 大事なものだって感じたのに、逃げるのかよ。許せないなら、許せなくていい。


「10分したら呼び出してくれ」
「了解。時間ありますよ」
「大丈夫だ」
「エッケルベルグ大尉に代わりますか」
「いや、自分に頼む」
「……了解」
 俺は枕やタオルケットが濡れるのも構わず目を閉じた。制服のまま寝るなんて、行儀悪いな。いいか。


 10分して、いつもどおり作業して、俺は魔人だと言われた。あの主席は、俺が自分の思い通りになる人形かなんかだと勘違いしてたみたいだった。態度に反して、下っ端だったのか。脅されて小者の地が出たってコトは、手柄を急ぐあまり独断に走ったのかも。本部にチクったからって、普通なら出向してる場所は兎も角、ホンモノの首そのものは護られるのに。お前みたいな見ず知らずの職員に弄られるほど俺はお安くない。工廠の人間だからって誰でも自由に出来るような強い調整がかかってたら、人を使う仕事なんかできないだろ。脳って知ってるか? 使うと便利なんだぜ。
 あいつとは2度と一緒に仕事したくないな。言っても仕方ないから黙っておくが。
 皆の溜飲は、若干下がったようだが、すっきりしなかった。わかってる。俺の知らないところで、多分工廠はいろんなやり方で開発してる。あんなあからさまでなくとも、傷も沢山作っている。
 こんなこと考えたくない。思考するのが苦痛だ。工廠は、工廠でいい。ただの俺の生まれたところ。研究所は今もチリ一つ落ちてなくて、片付いてすっきりしてて、あのうまくないミルクティー、まだあるんだろうか。


 事後処理が落ち着き、時間が出来たので医務室へ行った。アサギリ少佐がいた。急な患者もいないらしく、人払いがてら部屋へ入れてくれた。礼を言うと、提督なんだから当たり前だと言われた。どこの王様ですか。まあ、一般的にはそうだろうけど。
 いきさつは聞いているのか、軽く点検して、胃薬を出してくれた。既にいらない気もするけど、くれるんなら必要だってことだろう。茶菓子と一緒に黙って飲む。
「コップはここでいいですか」
「お構いなく……ああ、ありがとう」
 給水器の脇にあるゴミ箱に紙コップを捨てて、椅子に戻る。アサギリ少佐は俺が座ると新しい紅茶を注いで、ジャムを勧めてくれた。甘い方がおいしいから、多めに入れる。
「いただきます」
 さっきも言ったけど。いいか。
 熱くて、イチゴの香りがして、葉の香りと溶け合って、すごくおいしいと思った。半分くらい一気に飲んで、のぼせたような気分になる。カップを両手で抱えたまま、一息つく。
「最近調子はどうかな」
「特に変わらずです」
 アサギリ少佐は優しい顔で俺をみた。まあ、いつもそうなんだけど。
 提督にはベタ甘なんです! と妙な情熱を込めて言う奴がいるんだけど、違うと思う。贔屓されてるとかじゃない。こういうタイプの医者なだけだ。ありがたいことだ。
「ただちょっと短気起こしたんで2秒程ヘコんでました。まあもう先生もご存知かと思いますが」
「それで、何か不都合はあった?」
「いえ幸い」
 端末をさわる。カルテを呼び出して検索しているんだろうか。
「前に処方したのがあったけど、使った?」
「いいえ」
 アサギリ少佐は少し驚いて俺を眺めた。
「そうなんだ。軽いから連用してもいいよ」
 ダメだったら出さないだろう。
「怖い?」
 実験じゃないんだから。
「そんなことはないです」
「まあ、そうだよねえ」
 名前を言えて軍人じゃない人間は医者か科学者くらいしか知らない俺の事情を、この人は了承済みだ。
「なんていうか」
 俺は紅茶を飲み干して言った。
「痛いなら痛いまま、どんなものか受けてみようって、いやうまくないな、どんな感じなのか調べたかったっていうか……」
 結局自分でも何を言ってるのかよくわからなくなって止まる。
「今までにない感情、だったってことかな」
「そうですね」
 これまでも俺なりにキレることもあったんだけど、そんな一瞬で炎上するような感じじゃなかった。最初は同じだけど、ずっとずっと燻ってるみたいで、苦しかった。そしてソレは、時間と一緒に、少しずつ、和らいできた。
「でもいつまでも消えない感じで、腹の中が重いです」
 目を伏せて、そっと制服の前に手を置く。脈はもう感じない。
「それは、わかってなくちゃいけないものだと、おもったんです」
 続けて口を開く。こういう雰囲気は、続けて話せってことだ。
「何の為に必要な経験かはわかりませんが、薄めたらダメだって。不適切ですか?」
「なんともいえないね」
 先生は少し笑った。
「負荷にのまれるくらいなら、いっそ抑えた方がいいし。そこで薬を服用してでも自分を引き上げる、そうしなくちゃいけない人もいるから、ソッチを下げることもできないし。誰も否定は出来ない」
「そうですか」
「だけど、今回の君は、それでいいと思うよ」
 いつまでも引きずって、職務に影響が出るようなら、病気だから治療が必要だけど、と彼は付け足した。
「もう歩けてるみたいだしね」
 まあ、頑丈なだけが取り得だから。
「人間らしい感情はなくしちゃいけない。むやみに発露出来ない立場だからこそ、それを知るべきなんじゃないかな」


 定期連絡があって、工廠のスタッフと話した。ちょっと老けてきたかな。昔からハラは出てたけど、今はあごのラインが消えかかってる。元気かときかれたので、元気だと言った。先日の件で質問をされたので、反抗的な態度がモンダイにでもなったのかとジョークを言ってみたら笑われた。君の精神は完璧な人間なんだから、不愉快なら怒って当たり前だろう、とのこと。
 感情的になるなんて、素晴らしいじゃないか。そこまで言われるとウソくさいし恥ずかしい。相変わらず陽気な人だな。
 ソレを制御して、自分なりに折り合いを付けて、やるべきことは収める。そこが特に評価されるべきだと彼は言った。
 それから少し雑談になって、あと何か差し入れをしてやろうと言われた。不足気味な資材を言ったら、また笑われた。ソレはソレで、他ならぬ君の頼みなら、公な手段で都合しようじゃないか。個人的に、欲しいものはないかって、ニコニコ笑んで俺をみる。ケーキでもアイスクリームでも、好きなだけ、もう大人になったから、お酒やタバコ──但し摂取量は守ること──がいいのかな。それとも、と小声で年齢制限のある書籍なんか必要ならあとでメールででも、なんて言う。遠慮はするな、僕らからの気持ちだ、と言われたので食べてみたかったお菓子をいくつかリクエストした。艦に入ってるコンビニとは系列が違うので、手に入れる機会がなかったのだ。停泊しても大体俺は降りられないし。ありがたいことだ。


 最後にあの主席のことを尋ねたらそんな奴はいないと言われた。

 (1stup→110107fri)


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