■domine-domine seil:11 わたしのモヤモヤのミッション

 戦闘行為は、タテマエ自分の正当性を以て成り立つ。コッチが正しいと言ってぶわっといく。正義は我にありという顔をして働く。だけどいつでもソレで、カタルシスが得られる訳じゃない。
 むしろディフォルメされたかのように滑稽な軍国主義者は僅かで、そういうナニしてもオイラとオイラのゴシンタイが正義ってひとは幸せだ。アタマのおかしなサンクチュアリだけどね。
 普通の人は皆、心に思うトコロありつつ、この仕事してると思う。
 物は壊れるし人もよく死ぬし、割り切るけど2秒はモヤりとするだろう。
 まあ撃つ奴は撃たれるにきまってるから仕方ない。
 私はどっちかというと得なタイプで、あまりモヤらず軍隊ライフを送ってる。
 そんなおめでたい私でさえも、今回は言いたいことがいっぱいある。


 ヨクワカラナイ拾った物を使うと不幸になる。コレって定説だよね。
 あと遺跡はリサイクルしちゃダメ、ゼッタイ。エラい人にはソレがわからんのかね全く。
 遺跡には変なものがよくいる。新しい生物だと厄介だ。細菌やウィルスだともっと厄介だけど、今回は目視できるサイズだった。
 相手はカテゴリーダーク。魔物や妖怪の類だ。魔物なんているのかって、いるんだからしょうがない。人的要素に左右されやすい魔導に手を出す人間なんかあまりいないから、廃れてるジャンルだ。悔しいが工廠の専門。トヨダにあんなおかしい人の研究員はいない。まあマトモでないのはみんないっしょアモカモチカだけど。
 人相手じゃないと聞いてソレじゃ気がラクだ。ガンガンいってスッキリしよう、なんて皆思った筈だ。私も思った。
 だけどミッションはシビアだった。
 侵食されたステーションから逃げ遅れた民間人の救助。と施設の破壊、抗生生物の殺滅。付け足したように言ったけどメインは後半。助けるのは消防や警察の得意ジャンルで、私達に廻って来てる時点で半分諦めろって部分。サンプルを確保して来いと言われないだけ良心的かも。
 でも今思えば、多分工廠的にはもうコレクションしてる──見る用も触る用も保管用も──から必要なかっんだろうなムナクソ。アイホートは比較的よく知られた生物だから。
 簡単に言うと、魔的な属性を持った孤虫。孤虫というからには終宿主がいるんだけど生体の確認は限られた星系でしかみられない。この辺じゃ化石になってよく遺跡に埋まってる。
 中間宿主は知的生命ならなんでもいいみたいだ。歯が弱いのか消化液の都合か、ケイ素系の生物は食べない。終宿主がいないなら生体になれず緩慢な死を迎えるしかないんじゃないかってハナシだけど、厄介なのはソレ。ぶっちゃけ終宿主がゴロゴロいてくれた方が助かる。
 外的手段で殺さない限り、ヤツら私達の体内で増殖し続けるのだ。こわ!
 さっき知的生命体って言ったけど、そんな進化してなくても食べるのは可能みたいだ。終宿主のいる星系じゃ私達とコンタクトを取れる生き物はいないけど、アイホートは適当な中間宿主を選んで乗り変えている。そしてアイホートだらけになって生態系が破綻することもない。
 生きるだけなら慎ましく食事をするだけでよかった。
 しかし、彼らは禁断の味を覚えてしまったのだ。
 それが心≠セ。高度な精神活動は大変美味らしい。「くははは! 苦しめ人間ども! 恐怖こそ我が糧なり!」ってのもウソじゃない。だからアイホートは悦んで目覚めたんだ。


 あんなもの、掘り起こすからいけないのよ。


 私がコッソリ呟くと、提督は同じようにコッソリと私にだけ聞こえるトーンで言った。
「プロトンビーム撃たせてやろうか」
 相変わらずふざけるのが好きなお人だ。
 言うからには、サクっと救助を済ませるつもりだ。でないと気楽になぎ払えない。


 まず、ステーションが建てられたいきさつ。近場のアステロイドから引っ張って来た小惑星が土台。
 小惑星はいろんな資源を得る元素プラントとして利用するんだけど、掘ったら遺跡が出てきた。最初のスキャンで出なかった時点で何か特殊なプロテクトが掛かってたとみるべきだった。
 報告してくれれば調査したのにと主任さんは言ってたけどしらじらしい。
 遺跡なんか出ると工事出来ない。掘った人の損だ。しかももう、牽引してきた後なのに。その会社は遺跡を見なかった事にした。
 やがて、めぼしい資源が底を尽き、プラントは解体される。会社はとてもケチだったので、更にソレを別の会社に売った。器用に避けた遺跡の部分を基礎にし、脆いから何かを建てるなら念入りに強度を上げるよう言って。
 そうすれば今まで遺跡を隠蔽していたこともバレないし、建造物が出来れば強固な材質で封印される。例え発見されても自分は死んだ後だと、社長は軽く考えた。遺跡についての情報を得るために警察が追及すると、涙ながらに訴えたらしい。
 あたしら零細はそうしなきゃ生き残れないって、子供が閉じ込められて死ぬなんて、知ってたらやらなかったって。世知辛い話だ。
 だけどソレだってヤクザに安く買いたたかれて二束三文にしかならなかったみたいだけどね。現に社長はもう社長サンじゃなくなってて、田舎に帰っちゃってたそうだし。
 ヤクザは社長の忠告? をスルーして、値切りに値切ってついでにメンチもきって更地を作らせた。請け負った業者もお金に困ってて、資材をケチって工事した。
 その土地を買ったのがフリースクールだった。
 フリースクールって言っても、規模はデカい方かな。生徒は100人を越えてるし。
 そこの大きい子達と先生で、自分達だけの基地を作ろうってプランだった。
 何と壮大でステキ過ぎる夢。聞くだけでワクワクしてきましたよ。すげえやつになれる経験になったハズ。
 小さなステーションならキットを使えばそれなりに組める。映像でみせてもらった基地は、なかなか立派だった。
 職業訓練の成果をみる課題でもあったらしい。ってコレは並の工業高校や専門学校を遥かに凌駕しておりますよ。実務だけなら高専のヤツらより使えそうだ。
 中にはバカもいたみたいだけどね。
 まあ死んだ人を悪く言うもんじゃないから控えるし──わたしはDQNしぬべしがジャスティスだけどさすがにマジ死にされると寝覚めがわるい──そもそも最初に掘った奴が悪いのだ。てか埋めた奴なのか? まあいいや。兎に角全ての責任をそのお子さまたちに擦り付ける事は出来ない。悪いのは大人だって言葉も嫌いだけど、まあ大人の不始末だよねムナクソ。
 それでDQN……ぶぶー、怠惰な一部の生徒達は工事をサボっては地下通路にたむろってたらしい。そこで気付いてはいけない事に気付いた。不良にも頭の良い奴はいるからね。てか製図がアタマに入ってるなら素直になまかにアタマ下げなはれ。そうしてれば……ああダメだ。
 彼は小惑星の欠片が不自然な事に気付いた。プラントとして採掘していたならこんな風に残るのはおかしい。まるでこの出っ張りに何かを隠したみたいじゃないか。あった。測定機器は十分にあるから、ガメれば調べるのは簡単だった。
 彼らもまた、上手く丸まれなくて、アチコチ出っ張りがあって、つかみにくいだけだったんだろう。だからフリースクールのお手手からもこぼれて、地面の下でダラダラするしかなかったんだ。わたしはワルはハートマン軍曹にしばかれるべきだと思うがね。
 本当にお馬鹿さんではないその子達は、工事に夢中になる代わりにミステリーを解明する気になった。死体でも隠してるんじゃないか? それかヤクザが隠したブツかもな。てな具合か。
 何か奇想天外なものが出れば、モルダーかスカリーを呼べばいいと思ってたんだろう。最後に来たのはボロいながらも一個艦隊だけどね。
 遺跡だとわかって、彼らは嬉しかったそうだ。聞き伝えの報告書にあった。自分達だけの記念にサインでもしようと、踏み入った。埋めるつもりだった。数百年、数千年後の誰かを混乱させる為のジョークのつもりだったって。でも、追いかけてきたのはフラッテリー一家じゃなかった。ママはママでも異形の母体。アイホートが休眠から覚めたんだ。
 お化けは子供が大好きだ。少し屈折した感情なら特においしそうだろう。アイホートは喜んで走った。追い付いて悦んだ。おいしかったんだろうな。そしてどんどん殖えていった。


 何だかバタバタしてるなって思ったら、何か事故があったらしい。資源プラントの作業は危険だし、隠れ蓑にしやすいから捕り物も多い。
 次のミッションが決まってないから、急ぎの補給が必要ならソッチにまわすよう伝えた。互換性があれば問題ないし、名前が書いてある訳でなし。刑事ものじゃ悪者にされがちだけど、私達だってそのくらいの融通はする。
 確かに警察より軍隊の方がエラいって顔するテイトク様も多いけど、今の提督はまあまあの人格者だ。企業の犬なりに出来る範囲でだけど、別の艦隊や余所の組織にも親切だ。急ぐ人が先だって、私達に指示したのは彼だ。


 不穏な雰囲気になったのは船体と思われるものの爆発を観測した所からだった。


 兵装プラントでは隔壁の向こうが何やらざわついてるのに、変わらず作業が続けられている。忙しいなら行ってあげればいいのに。コッソリ様子をうかがうと、若い職員が何度もこちらへ指示を仰ぎに来る。先輩らしき人も、随分気にしているみたいだ。さっきどこかに連絡を取っていたけど、返答は芳しくない。不承不承な様子がわかる。
 私達恨まれそうかも。なんて思いつつ手を動かす。艦が止まってても忙しい。こういう細かい作業は止まってる時の方が忙しいかな。
「交代しよう」
「おんやエッケルベルグ大尉、ハヤいですな」
 いけませんね、と一瞬だけ黒い笑みを浮かべる。こういう時はセクハラでもしないとモチベーションが保てない。
 ジョスさんは案の定、ソレがなければ艦隊一のモテ男で通りそうなイケメンフェイスでうろたえた。
「ミクラ中尉、別にハヤ、休憩不足ではない」
 他に誰もいなければどつかれてるトコロだけど、プラントの職員さんがいるので免れた。
「規定どおり取ってるから君も気にしないで行って来なさい」
「ありがとうございます。では」
 私が席を立つとパンが焼きたてでうまかった、と食堂のランチの感想を言った。あと、デザートにケーキセットがあってOPの子がおいしいって言ってたとも。ケーキの事なら提督に教えてあげて下さい、とからかうのはやめる。
 休憩は終わったと言っておいて仕事に関係ない話をベラベラ続けるのはらしくない。何だコイツ女と雑談しやがって、みたいな目で職員さんがチラ見してくる。私はそうなんですか〜キャハハっていう感じでエッケルベルグ大尉に接近した。背後からみるとさぞかしムカつく光景だろう。


 キャッキャウフフとくだらな話はつづく。
「え〜でも大尉ってばウソばっかり///」
 とクネクネ。
「そんなことはないぞ♪」
 などとコソコソ。聞いちゃいられねーとプルプルしながら作業してる職員さん。ゴメンヨムカつかせて。
 エッケルベルグ大尉はエロネタに過剰反応するようないい年こいてアオアオしスギな残念賞だけど、KYな男ではない。
 仕事中にイチャイチャなんかしてたら叱責確定、艦隊屈指の堅物だ。むしろ別方向にKYなのか。まあいい。
 そんな男性士官(25)が何故同僚とダラダラモードでしゃべってるのか。何か大事な用事があるに決まっている。


 プラント側に気付かれないよう警戒、いつでも戦闘態勢に移れるよう心積もりせよ、とのお達しだった。脳内で受け取った情報を撒く。隠れて言い触らすのなら任せ給え。私の得意分野。電脳関係はトヨダの一人勝ちだ。
 私は暢気に鼻歌など歌いながら司令室を離れ、プラントの食堂に向かう。時間はあるみたいだし、行かなきゃ怪しまれる。途中、売店があったのでお菓子と栄養ドリンクを買った。提督が食いっぱぐれたら恵んであげる用だ。なるべく新製品を見つくろう。コレで提督は喜ぶけど、本当はせめてパンとかおにぎりとか用意してあげたい。でもポケットに入らないと持ち歩けないので諦める。腐ったらヤバいしね。


「提督、お茶どうぞ」
「ありがとう」
「何か買ってきましょうか」
 お菓子とエロ本以外で、と付け足すとバナナはおやつに入るのかときかれた。一瞬特殊なセクハラかと思ったけど深読みのし過ぎだろう。そもそもふっかけたのはわたし。是でも否でもスルーしよう。
「バナナが良いなら買ってきますけど……売店結構色々売ってましたよ」
「何か手が汚れなさそうでこのまま食えそうなものでよろ」
「了解」


 買い物済ませて連絡通路を歩いているときであった。
 支援の要請。多分何かあると思ってたアレだ。
 アイホートってきいてなんか背中がざわざわした。何て厄介でコワスギな奴らだろう。勿論、本家神話──ていうか完全に不条理SFだよねアレ──程人類にとって絶望的な存在ではないけれど、その名を拝する程度には、とんでもないイキモノだ。そうそう、こういう恐怖感や危機感、緊張だって彼らには良い餌だし。
 アイホートが出た。
 そして救助隊も助からないかもしれないってどういうことなんだろう。
 後発の船が出られなかったからざわついてたんだ。
 チョット何か引っ掛かるけどソレはあとまわし。
 司令室にいるジョスさんと連携取りながら、提督の判断を仰ぐ。
 チョットしたお手伝いから本格的なミッションへシフトしていく。
 てか、提督の性格上、限界まで守ろうとするんだけど。
 何をって、取り残された人達に決まってる。いくら不気味生物愛好家w であってもアレをコレクションしようなんて思わないだろうし。
 全部後手後手だった。
 提督の思惑はやっぱり救助だった。だけどそういうのは救助隊が手を尽くした後で、私達は片付け≠ノまわることが多い。今回もそう。
 ソレでも、提督はいつも可能な限り救助、退避させてからしか手は下さない。
 今もこうしてモニタからは人の助かりたい声が聞こえているというのに、ソレはもう人間とカテゴライズ出来ない。
 間に合わなかったからだ。
 アイホートに契約≠ウれた──したというのはあまりにもヒドいとわたしは思う──ヒトは必ず死に至る。
 だからそういう名前なんだし。てかヒトが宿主ならアイホートにとっても利にならない分現実の方がひたすら虚しい死、かも。殖えて、殖えて、ソレだけで死んでいく。アイホートだって終宿主がいなければ、そこまでで終わる。ヒトが尽きれば糧が尽きておわり。すごい虚しい。
 巻き込まれた救助隊の方々は、迷わず自分達を焼き払えと言った。気持ち≠ェ変わらないうちに。人間でいられるうちに。
 そんなこと言われなくたって、提督はブレないお方だ。ソレが最適ならそうする。
 そんなときも顔色ひとつ変えないひとの内面を覗く程、わたしだってゲスじゃない。


「オキシダントブラスト構築開始」
「開錠、展開まで20……10……5……3、2、1展開……!」
 クルーが彼らの死への恐怖や運命への怨嗟──取り残された人達だってみんな強い心持ってるわけじゃないし、あのアイホートにだって精神活動はある──にあてられないように、提督は同時進行でかなり厚いシールドを張ってた。私達にはソレが、提督のいつだって誰かを守りたい気持ちなんだってわかってた。
 わかってないのはあのかんじわるい工厰のお使い君と主任さんだ。
 私は提督を励まそうか労おうか結論が出せなくて何もしなかった。
 言い訳するなら、人はこういうとき、そっとしておいて欲しいものなのではないだろうかと考えたからだ。
 提督は人間だし。
 わたしがそうだっていうなら、彼だって人間だ。
 だから彼が戻って来たときは、いつもと変わらない態度で接した。自分がそうしてくれたら心が幾分か軽くなるだろうなって思ったし。
 最後に、提督はこのモヤモヤの意味を知っているのだろうか、と何故かそんなことかんがえたきょうのわたし。

 (1stup→170505fri)


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