■domine-domine seil:unknown02 ぷにょ宇宙(嘘 の旅に出る

「……〜」
「百面相か?」
「ちがいますよもきゅもきゅイキナリ超失礼ですね」
 ──てかナンデスカこのサイトはヘンタイ且つぶっちゃけキモい男率高杉の中健気にしゅわしゅわ〜っとさわやかハキダメニツル的に! 暗躍……ぶぶー、活躍する美少女キャラにこの仕打ち!

 ◇別に優遇いたしません◇

「おたんじょうびおめでとうって書こうと思ったんですがなんて書いたら良いものか悩んでいたのですよ〜もきゅもきゅ」
「辞書が故障してるのならインストールし直せ……電脳の調子が悪いのか? それなら良い機会だから点検を受けてみたらどうだ。しばらくなら仕事は私1人でも問題ないし」
「ジョスさんて本当に良い人ですね」
 ナナメ上にですけどね。と心の中で付け足す。
「でも漢字……スペルが分からないとかそういう言語的な問題ではなくてもきゅもきゅ」
「……」
「どうしました?」
「さっきからそのもきゅもきゅいってるのは何だ」
 何、というか、正体は食い物である。多分。珍妙なパッケージのキャンディらしき物体で、よく見れば多少かわいいかもしれない外観だった。
「これは失礼いたしました。よろしければお一つどぞ」
「……いや……ソレ義体じゃない奴が摂取しても大丈夫なのか」
 どことなく変なのはデフォルト。しかし通常のデザインとはかなり違わないか。ニセくさい未来っぽいメタリックカラーの外装とか。アミのサイバー化率から考えるとサイボーグ食仕様かもしれない。
「大丈夫ですよもきゅもきゅ」
 と更に包み紙を開く。10粒入りらしき物体がどんどん減っていく。
「ぷにょご存知なかったですか?」
「知ってるが普通の味しか見たことないし私はあまり好きではないんだ」
 虚数シトラスレインボーベリーMi X≠チて何だ。そもそもあのソフトキャンディに妙な具? が入っている落ち着きのない食感がイマイチだ。ヨーグルトなのかフルーツなのかヌガーなのかクラッシュキャンディなのかキャラメルなのかグミなのか、口の中で同時に存在しているのに破片(あえてそう呼ぶ)の大きさが違うせいか混ざりあうことがなく、飲み込むまでカオス状態、子供の頃ジョークで何種類かの菓子を一度に口に放り込んだかのような。
 確か製造元は日系企業だった筈だ。仕方ないか。腐った煮豆を喜ぶ彼らの食文化に何を言っても詮無きことだ。
「そうなんですか〜。今日は他のお菓子何も持ってなくて私1人だけ食べちゃっててスイマセンもきゅもきゅ」
「気にしなくていい」
「りょかいです。あ、提督用に買ってたマズい棒ならありますけど……いらないですよね」
 クッキーやシリアルのスティック状パッケージと同じ形状の栄養調整食品だ。一般に販売されているので菓子に近いフレーバーの筈だが、いくつかハズレがあり、出来の悪いレーションより酷いと言われている。艦内での通称がマズい棒≠セけあって確かに酷い味だった。パッケージの表示にクレームをつけても良いくらいだ。
「因みにチョコバナナ味です」
「何でよりにもよってソレなんだ」
 エチレンガスの臭いしかしなかったぞ、と呟く。
「ぶっちゃけ私もマズいと思うんですけど提督がおいしいって」
 工廠のセンサリーウェアがおかしいんじゃないですかね、と言ってしまいたいがお口にチャックだ。
「同じチョコ系だったら断然オレンジだと思うんですけどもきゅもきゅ」
「ああアレはうまいな」
「提督ってやっぱり変ですよね。でもさすがにブルーベリーはないって言ってました」
 わたしもダメでした! とアミが首を振る。
「まんま有機溶剤の味でむしろ体に悪そうもきゅもきゅどうしました?」
「変ていうな失礼だろあとソフトキャンディ一気食いするな」
 何かみてるだけでカオス食感が蘇ってきそうだ。
「いいじゃないですか〜、と失礼して」
 と傍らのアタッシュケースを漁る。
「ではエッケルベルグ大尉は提督が変じゃないとお考えで? はあ〜幸せもきゅもきゅ☆」
「新たに取り出すな〜! ……いやそれは」
 かなり変だと思う。
「そういえば変と恋って漢字似てますよね」
「何だ藪から棒に」
「んーなんとなく。てか、珍妙菓子でもおいしい〜って食べる人いるみたいに世界は需要と供給のバランスで……おんやどうされました?」
「別に……」
「ジョスさんて……わかりやすいですよねもきゅもきゅ」
「……」
「あ。提督」
「ひっかかるか」
「ういっす」
 なんだスルーか、と言われようがそう毎回単純な手にはのりたくない。
「ぷにょ箱買いしちゃいましたけどいかがですかもきゅもきゅ」
 管理局限定版です、とアタッシュケースを指す。
「くれ。てか一本単位なら買うよ。そんな貰ったら悪いし」
「いいですよ〜出張のお土産なので差し上げます」
 と新品を2個取り出して渡す。
「ありがとう」
「いえいえ〜。変な味だったら返して下さったら私が食べるので」
「ぷにょウマーもきゅもきゅ」
「最高ですか〜もきゅもきゅ☆」
「最高ですよもきゅもきゅ」
「コラー!」
 バチ当たりダメ絶対! とエッケルベルグが立ち上がる。
「しかも微妙に古いし……いや大分旧いか」
「いる?」
 手袋の手のひらにアレな物体がのっている。シュールなゆるキャラ? がプリントされた包み紙だ。触りたいがアレはいらない。
「結構です」
「あそ」
 未練などあるものかと極力そっけなく断ると、相手はソレを自分の口へ放り込んだ。
「……」
「なにもきゅもきゅ」
「いつからいらしたんですか!?」
「ミクラ中尉が『需要と供給』って言ってたあたりから」
 茶を買おうとしてた、と自販機を指す。
「申し訳ありません……」
「何故あやまる?」
「いや、その」
 なんという悪魔だ。とアミをみるが、わざとらしく乙女チックなポーズで考え込んでいる。
「まあいいよ。自分達も何か飲む?」
「よろしいんですか」
「茶なら私がお煎れします」
「ありがとう」
「提督もミクラ中尉も紅茶で?」
「おけ」
「恐れ入ります」
 と言いつつアミが席を立つ。
「ジョスさんの分のコーヒーは私がお煎れしましょう。具は何がいいですか」
「具ってなんだ」
「カタツムリとかぷにょとか」
「……」
「ウソです。ミルクか砂糖か両方か。あとカフェオレもおけです。エスプレッソマシンはないんです〜」
「ミルクで。カタツムリはいらん」
「ぷにょは良いんですか」
「良くない」


 アミはおかしなことを言うし、エッケルベルグはソレにいつも、振り回される。しかしそのセリフさえ拾わなければ、絵になる光景だと思う。
 クラインは副官たちの様子をみて薄く笑った。
 今日も彼はかっこいい。あとアミはかわいい。自分がいなくなったりしても、アミなら適当に彼を構ってやってくれるだろう。いっそくっついて、そういうのもナシじゃない。


「提督」
「なに」
「「何をされているのですか」」
「皿出してる」
 アミは目だけ動かしてエッケルベルグをみた。相手も同じ様子。
「これくらいやらしてくれ」
 こういうときは黙って座って威張っていればソレでいいのに、面倒な生き方(大袈裟)をするニーサンだ。
 変な男だが、選ぶ食器は悪くない。シンプルな受け皿と本体。お茶もコーヒーも、綺麗な色になりそう。
「わかりました。お願いしますもきゅもきゅ」
 何か言いたそうなエッケルベルグの背中をシンクへ向けて押す。


 衣装がかったこの制服に、お茶の時間はよろしくない。
 ご先祖の帝国海軍もそうだったというけれど、白い軍服とかダメでしょ、いや見た目は大変結構、何だかんだネタにされつつも人気はある。
 提督のような本来は≠ネんにも動かないエラい人はしらないが、いざとなればこのまま戦闘行為に突入してしまう自分達の服である。
 汚れは落ちやすくお利口な撥水性能且つ通気性も損なわず、着心地の良い生地だ。
 しかしどーよこの姿。決して嫌いじゃないんだけど、たま〜に自分を振り返るとのたうちまわりたくなる。
 コレに耐えて精神を鍛えろというありがたい修行なのか。
 側にこの人達がいると益々落ち着かない。
 由緒正しい少女漫画趣味。採用を決めた上層部にそんな意図があるわけないがというかあったらしばきたい。
 紅茶は好きだけどティーポットを優雅に扱うこのおっさん(言い杉)は苦手だ。このまま蘊蓄を流されたらハエ叩きを探してしまいそうだ。


 い……いまのわたしたち、違うマンガとかのキャラのよう。コレはナシかもてかキモい……。


「これくらいでいいですか」
 アミがコーヒーをカップに注いだ。自分ではあまり飲まないようだが沸かすのは巧いと思う。腐っても恋人にしたい副官か。と失礼な感想を抱くエッケルベルグ。
「そういえば、ミクラ中尉、何か悩んでいなかったか?」
「そうなんですもきゅもきゅ。今も悩み中で」
 いただきます、と紅茶のカップを傾ける。アレを食いながら茶を飲むのか、と思ったりもするがまあいい。
「なに?」
「えとですね、管理局コラボ商品だったのでもきゅもきゅ」
「それって……」
「そですです」
 ちょっぴりでなく大変なうれしさがこみあげてくる。
「玉虫色のワラジムシがでたのですです」
「ソレ実在してたのか……てかイロイロいいのか?」
 ──ダメなんじゃないデすか?
 ──普通にダメだよなー。
 ──でも管理局のやるコトですから異界でも異位階でもみたいな?
「あ。もう交換済なんで現物はないですが、写メ撮ったんで」
 みます? と言うアミに寄るクライン。
「みる」
「エッケルベルグ大尉もご覧になります?」
 ジェラシーのなせる業などではない、とかなんとか、何故この私が言い訳せねばならんのだ、とか思いながら近寄るのをやめる。
「なんで? こんなレアもの滅多にないのに」
 クラインが不思議そうにこっちを見る。それから向き直って2人して小さな携帯のモニタに見入る。可愛くてちょっとだけさみしいが、なんかみてはいけないもののよう〜な気がするのだ。イカれた気配だナンセンスの。常識というゴーストが踏み切りを鳴らす音がきこえる。
「あ〜、ホラ蟲ですから、ミラクルでも」
 ──もちろん、ジョスさんがそんな虫こわいヘタレとかじゃないのは存じておりますが。
 などと電脳通信でフォローが入る。
 そうだ。蟲って言った。
 恐いとかの話ではなく。
 菓子にムシ。それは異物混入といいはしないか。常識の範囲なら。
 そもそも、とチラリと3分の2程に減ったパッケージを見る。シュールな銀色、中にはあの落ち着きのないキャンディが確か10粒。
 これの? どこに?
 脳の中にキャンディを模した微妙にかわいく微妙にムカつくゆるキャラが不思議なおどりをおどりだす。
 どこに、無意識にパッケージに触れ、手にして、考える。踊りの中でそれがどこにとか。
「はいってるんですよ」
 はっとして我に返る。
「……すまない」
「あ、きにしないでください。てか気になりますよね?」
 アミは大きな瞳でにこりと笑った。
「……」
「入ってるんです。なんか気付いたら。同じなんですよ、他の商品と」
 10個包装のキャンディの中に、どういうわけか、ソレが入っているのだという。おかしい。もういい。
 おかしいがソレでいい。あまり深く考えてはいけない部分だ。これ以上進むと不条理に轢死させられる。
「玉虫色なら1個で」
 クラインがぽつりと言った。顔は相変わらずあまりはっきりしないが、ソレが彼なりにワクワクしている表情だ。
「管理局謹製缶詰のプレゼント」
 アミは可愛らしく微笑んだ。
「缶詰なら天使じゃないのか」
「ソレは別の企業です〜。てかチョコそんなにいらないです〜」
「俺はソッチも欲しいけど」
「えっ提督くちばしチェックしてるんですか」
「してるよ」
「じゃあもし当たりがでたら差し上げます」
「ありがとう」
「あ、でもやっぱり見せびらかすだけにしようかな」
「ひでー」
「まあ前向きに検討しますね。今回で一生分のクジ運使い果たしちゃった感触なんで望み薄そうですけど」
「期待しないで待ってま」
 オタク人種というのはもっとこう陰鬱としたものなのかと思っていた。しかし、大変微笑ましく感じてしまう。
 ソレとさえ識らず政略結婚させられる無垢な皇女様と王子様を、温かい目で見守る騎士になった気がしてきた。さみしいのでいい加減戻ってきて欲しい。
「あ。ソレでですね」
 ややバツの悪そうな顔でアミがエッケルベルグを見上げる。
「管理局謹製缶詰で『イカイにメッセージキャンペーン』です」
「メッセージ? それでバースデーカードか」
 首をひねりながらもエッケルベルグが納得? しようとする。
「あ、そうです。異界っていうのは恐らくジョーク的な装飾で、知らない人に手紙や小包を送れる権利が貰えるのです〜」
 ──ってコトにしちゃっていいですか? ジョスさん超おカタそうだから管理局的SAN値がヤバ気なので。
 ──いいけど何故俺に聞く?
 ──えー☆
「待て」
 納得はまだ8割だ。
「もらうんじゃないのか缶詰」
「缶詰を貰うのはチョコの方です。ぷにょ(管理局限定版)は缶詰を無理矢理送りつけるのです」
「わかったもういい」
 脳内とはいえ轢死は嫌だ。
「缶詰……多分ふいんき缶とかに使う事象をなんとかかんとかする類の素材なんでしょうけど、ソレに色んなもの入れてピョピョってするのです」
「風船に手紙と花の種を付けるようなものか」
 ならばなかなかロマンのある企画だ、と思う。もう疑問は破棄しよう。
「しかし何故誕生日なんだ? さっき見ず知らずの相手っていわなかったか」
「居住地とかは防犯上伏せられますがある程度の情報は抜け……ぶぶー、教えてもらえるんですもきゅもきゅ」
「今なんか不穏な動詞を耳にしたような気がするが」
「キノセイデス。それでお誕生日わかったのでせっかくだからおめでとうメッセージにしようかと思いまして」
「まあいいだろう」
「私も春休み生まれなんで、家族以外には忘れられがちだし、あと実は子供の頃」

「子供の頃、私もぷにょからメッセージ貰ったんです」


「何ソレうらやましいな!」
 身を乗り出すクライン。
「はい〜コレはチョット貴重な体験なので」
 今でもその嬉しさが蘇るのか、アミは新しい包装を開けるのも忘れて目を閉じた。
 誰のものともわからないメッセージを、後生大事に思うものだろうか。幼い少女であれば身を守らなければならない脅威も多い筈だ。アミならさぞかし可愛い子≠セっただろう。少々浮き世離れしていても構いたくなるような。中には気持ち悪いと感じる邪さが、ぬるく手のひらに伝わったりしなかったのだろうか。
 エッケルベルグはミクラ中尉が想像以上に孤独な子供時代を過ごしたのではないかと思った。
「まあでも怪しいからイラネって思ってスルーされるならソレはソレで人望やら愛かなんかのパゥワやらがそのひとの周囲で飽和状態ってコトですから喜ばしい次第ですしもきゅもきゅ☆」
 はっとするエッケルベルグをみて、クラインは白手袋の手をそっと、机の下で重ねた。慌てて、赤面を堪えつつ提督の顔をみる。一瞬だけ優しげに笑った口元がみえて、涼しい顔で紅茶を飲む。膝の上の手を撫でられたた感触だけが残って、一見優雅な手も、ティーカップに添えられている。
 そんな顔するなってことか。そうだなここで俺がしんみりしたら、アミの誇りを傷付けるかもしれない。
 トヨダの出身である彼女とは、単純な自分にはわからない確執があるのかもしれない。エッケルベルグはずっと考えていた。みえない小さな壁があるのかと。
 しかしクラインは誰とも隔たりなく、きちんと副官をみている。アミのこともみていた。多分自分のことも。
 静かで深いまなざしにぐっときて、だからといって手とか触らなくても他にも手段が──例えば目配せとか──などと、戯れを仕掛けてくるクラインのマイペースさに戸惑って、やっぱりエッケルベルグは振り回される。
 おかしな人間が多すぎる。
 そしてどいつも良い子だ。
「そうか。それで何を送りつけ……ぶぶー、贈るか考えてるんだな」
「そうでごわすでゲマ」
「行き先がわかっているボトルレターもおもしろいな。大きさは決まっているのか? いや……それより先に対象はどういった人物なんだ?」
「ソレは俺もしりたい。言ってもおけなら教えてちょ」
 アミは一瞬片眉を上げ、無意味にこめかみに手を当ててデータを呼び出した。
「お子ですね。中学生。性別は野郎です」
「じゃあコレ」
 クラインがポケットから薄く小さなケースを出した。エッケルベルグはコーヒーを吹き出しそうになり、違うとわかって胸を撫で下ろした。
「『洩矢軍人将棋』……ご自分の趣味丸出しじゃないですか〜てかマニアック杉」
 イマドキの子はこんな地味ゲーじゃ食い付かないデスよ、と苦笑いするアミ。
「何でよもしかしたらハマるかもしれないし俺は小学生……? くらいの頃からやってたしスコアカンストしたらバグって止まるけど初期化すればいいだけのハナシだし」
「どんだけ遊び倒してるんですか」
「この中の棋譜全部覚えてるくらい」
「……」
「あーでもさすがに何年も経ったから忘れてるトコロもあるな。懐ゲーだけど移植されてるから新しいハードでも遊べるし」
「〜……」
「出ると中身わかっててもついやってしまうし」
「このひとビョーキだ」
 ──この場合旧いバージョンの方がいいのか?
 ──送付先のソレにあたるものに変換されちゃうから同じですよ。
 ──相当品ルールな。
 ──そうですぎょ。
「兎に角ゲームソフトとかは好みが偏り易いのでよろしくないです」
「折角布教のチャンスだったのに」
「やっぱり趣味拡散工作じゃないですか!」
「子供相手なら菓子だろう」
「え☆」
「何故意外な顔をする」
 そして何故提督は目をそらすのか。
「てっきりいいスニーカーとか自転車とか挙げられるのかと思ってました」
「そんなものが……いや」
 入るのか、缶に、とか考えてはいけなかったのだ。
「どうされました?」
「いや、いいんだ。あまり高価なものを贈るのも、返信できなければ尚更、相手にかえって気を遣わせてしまうことになりかねんからな。菓子が嫌いな子供はあまりいないし」
「なるほど〜さすがエッケルベルグ大尉です」
「ということで私なら」
 とポケットから取り出す。
「?!」
 椅子から飛び上がるアミ。
「どくいりきけんたべたらしぬで」
 などと言いながらクラインも椅子ごと身を引く。
「失敬な! 子ども達が喜ぶ定番でしょう。伝統ある銘菓です!」
「却下です〜ぜんげんてっかいです〜」
「子供スイーツって言うから出すと思ったけど……キン消しは食い物じゃないぞ」
 テーブルの上の箱を指して口々に非難する。
 外国のお菓子、といった風情の洒落たパッケージである。しかしアレはダメだ。
「ラクリッツの良さが分からないとは気の毒な文化圏だ……」
 ぶつぶつ言いながら箱を仕舞う。
「ダウト! ソレただのリコリス菓子じゃないじゃないですか〜」
 リコリスオンリーでも大概なのに、とアミは首を振った。
「お二人とも趣味に走りスギです。でもお菓子は良いかなって思ったのでお菓子の方向でいきます」
 アミはこの世の悲しいことなど何もしらないかのような笑みで言った。
「自分が好きなものをプレゼントするというのは素敵なことなのです」
 とかいうので、野郎どもは笑うしかなかった。
 一緒に、若干照れくさく。


「ということでやはり神の食べ物〜!」
「結局ソレか!」
「こういうオチかもきゅもきゅ」
「みんなで食べられるようもきゅもきゅ一年分送付するのです」
 ぷにょ一年分ってソレは嫌がらせとは言わないのかちょっぴり不安だったがこうなってはもうだれにもとめられない。


「かけました!」
「どれ」
「おお」

おたんじょうび おめでとう ござります
たべちゃったら最後な30分ぐろぐろお任せデス珍妙菓子でも棚に置かれてる以上大宇宙の需要と供給のバランス変ていうか恋?
しらないひとからで ごめんね あやしくないよ
事情があって 本当の名前を名乗ることはできません
わたしの 大好きなお菓子 送ります
タカヤノリコ(仮名)


「電波だ」
「コレをあやしいと言わなければ何をあやしいと言うんだ……」
「どさくさでティーンエイジャー名乗ってるし」
「いい〜じゃないですかもきゅもきゅ。私がマトモなこと書いたら書いたでゼッタイあやしむのに」
「まあそうだけど」
「酷もきゅもきゅ」
「仮に困ってたとして、我々が助けにいけるわけでなし、無責任にいたわりや癒しを送りつけるのもよろしくないかと思うのですよ」
「文面は兎も角、言い分はマトモだな」
「何か引っかかりますけど……まま、納得していただけたトコロで、ぶわっと送ってしまいましょう」
「送付は、宇宙にでも流すのか」
「まさか。コンビニで宙ぱっくです」
 と専用伝票を出す。
「おおこれが」
 とぺたぺた触るクライン。
「提督挙動不審ですもきゅもきゅ」
「イヤでもこんなレアものもうみるチャンスないかもしれないし」
「……縁起でもないこと言わんでください……」


 後ろから足音が着いて来る。若干軽いのは提督のものだ。アンタもスキですね、と黒笑い。
「コンビニ着いて行っておけ?」
 送るトコみたい、と無表情に言われる。笑っているつもり。変な男。
「いいですよもきゅもきゅ」
 キモい面妖な妄想を抱くファンていうか信者がいるのも仕方ないか。顔のせい、スラリとした手足にこの衣装のせい。だけどまあ、愛されるのは、とおといことだ。気の毒だが喜べ。と祝福しておく。
 あなたみたいにできないとはいわない。時々みじめでちっぽけな自分スイッチが入ることもあるけど、わたしをやめることなどない。彼の横はダメじゃない。いい提督。
「自分、まだ言ってないことがあるんじゃないのか」
 聞くべきことなのかはわからないが、とクラインは付け足した。
「ありますね」
 なぜわかったのデスか、と彼にだけ聞こえる声で返す。
「時々へんな顔してたからな。……セクハラじゃないよ」
「わかってます。てかバレました?」
「エッケルベルグ大尉は気付いてないと思うから大丈夫」
 気付いていたら今頃問い詰められてゲロってしまいそうだ。ソレは阻止しなくてはならないけど。
「言ってしまった方が良ければきくよ」
 提督は情が薄そうにみえて、こんな気を使ってくれる良い人だ。
「ダメです。コレはチョット、提督にも言えないです」
 むしろ特に言ったらマズいんじゃないかと思うのはゲスの勘ぐり……であって欲しい。てかそうなれ。
「わたしもそこまで掘る気はなかったんですけど」
 何だ管理局の防壁、結構抜けそうジャネ? なんて軽〜くおさわりしてみただけだ。
「そしたら一気に穴が開いて、ドバっとデータが流れ込んできたんです」
 知りたくもないというか、本来人が知っていてはいけない類の事象だ。しかも専門外の。
 広大な無意識の一部にではあるが、複数の個人の領域に侵入、留まる事は可能だ。でなければ私≠ナないと、今になっては言い切れる。彼女らとレセプターを共有することによって自分の電脳的なポテンシャルは限り無く上がり続ける。
 男の気持ちなどいらない。総てを救えると信じられる程、自分は思い上がっていない。できる奴がいるなら、いるならソレは多分目の前にいる気の毒な神様の役を仕事にしているコイツとか。わたしじゃない。わたしごときが這いずり廻っても世界は救えない。
 わたしに拾えるのは些細な気持ちだけだ。
「出歯亀ばかりしているのでバチが当たったんですかね」
「そんなとんでもないことなのか」
 サラ=コナーを殺しに行くLvか? とふざけてからクラインは手を振った。
「いや、きいたらダメなんだよな」
「なんかスイマセン」
 と笑顔でない笑顔でアミは言った。
「はっきり言えないのに引っ張っちゃって」
「いいよ」
「とりあえずT-800はいらないと思いますけどショッキング且つヘビーな状況ではありますね。管理局を通してのアクセスなんで、存在の壁を突き破っている可能性も否定できないですけど、観測側からみて架空の事象であってもその被観測座標にいれば実≠ナあると同義ですから」
「まあ向こうからしたらコッチが虚≠ノなるんだろうしな。ていうか自分が引っ張り出したソレ」
 と缶詰の梱包を指す。
「の出どころイヤこの場合送付先になるのか、そいつと同じ時間軸に乗ってないとして、そのうちのいずれかのみが現し世であると証明できるわけでもないし、どちらも無数に存在する何かにとっての幻かもしれないし」
「ですよね」
「もっと言ったら独立した世界≠チて言う程鮮明でない、もっと幽かなものかもしれないし」
「あっ提督ソレナシ! わたしの大当たりをユメでおわらせないでください〜」
「こりゃ失敬」
「提督おっさんくさいですよ。エッケルベルグ大尉から感染したんじゃないですか?」
 ていうか接触感染? などと可愛らしく首を傾げる。萌えの無駄遣い。
「そんなこと言ってるとまたどつかれるぞ」
「グーはイヤですね。てかどつかれてたら私も移されてしま……わないですね多分。軽度の接触では感染しない、という解釈で」
「セクハラ禁止」


「以前何かの本で読んだのですが、世界のどこかに、書かれなかった手紙が流れ着く場所があるそうです。なんかそういうものが溜まる領域、本当にどこかにあるんですかね〜」
「そうだな」
 例えば、渡せなかった言葉とか、迷子になった本当とか。
 エッケルベルグ大尉はボトルレターに例えてたっけ。花の種とか、あの人はマトモで、常識的で、ロマンチストだ。
 拾って欲しいという願いが、やがて誰かにたどり着くと言った。
 どうしようもなくなって、棄てたものもあるんじゃないかと思うけど。
「あー」
「? もきゅもきゅ」
「さっきジョスも似たようなこといってたけど」
「なんデスかもきゅもきゅ」
「アミが拾ったら丁度いいと思ったからカミサマが押したんじゃないか」
「なんとソレはわたしにぷにょを布教しなさいという啓示ですね!」
「そんなものに目覚めろとは言ってないと思うが」
「もきゅもきゅ Y.uP!」
 カミハカンダイデスなどと言いながら浮かれて歩いていく。
「まあいいか」
 ズバリお前はいいやつだからとか言ったら、以降自分とマトモに口をきかないだろう。ソレがコイツの美学だ。アミはいいやつだ。


「ヒトツ言っておけ?」
「良いデスぎょ」
「自分そんなやさしかったっけ」
「あー……多分ナイです〜☆」
「うん」
「ただ」
「なに」
「あのお子……ぶぶー、少年≠ヘ、もうご自分の戦士の銃を持っていらっしゃるのですよ」
「そか」
「そです」
 カタナのある[スタイル]が、カリスマのある[スタイル]が、そいつらだけが戦うワケじゃない。
 銃も単分子ワイヤーも、プロトンビームもフォトンもImG+も、腐敗の手≠セって武器じゃない。それだけが、武器と呼べるものではない。
 牙なきものの朽ちないハートこそが武器である。
 アミはすごいことをいう。クラインは思った。しかしまっとうな、しばしイカれたこの宇宙で、至極まっとうな女の子の意見だ。
 無数の弱き心と僅かな領域を共有し限りなく無限に近い並列化を繰り返し、聖女とも魔王の娘とも云われる彼女の未来を、ヒトツの現し世という座標に存る彼はしらない。


 なーんか怪しいなって思ってポイッとされてもまあいい。それならきっと、ソイツは何かをもらうことに満たされてる。
 缶詰を送ったおめでたいわたし。そこまででいい。そんなくだらな事にワザワザついてくる、ホームラン級にあほな仲間が今のわたしにはいる。


 いつもリプミラ号を探してばかりじゃ間が保たない。あのときのわたしはまだ機械の体を持っていなかった。
 鉄郎のように、素直におかあさんと手を繋げば良かったのに、だめだ。そんなこと言っても小さい女の子にはわかりはしない。
 わたしも人間の女の子の友達が欲しかった。なんだか解らない薄気味悪いものを愛でる子とは、手など繋ぎたくないだろう。そんなこと小さい女の子にはわからないから、わたしは自分が間違っていることに何一つ気付かず、水たまりの泥を網で掬った。
 絵本の中のお姫様のように、何の罪もなくて理不尽にかわいそうで、ソレにきれいな心で向かい合うなら、多分読んだ人は泣く。わたしはお姫様に幸せになって欲しいと願う。
 罪がなければ幸せになるだろう。カミサマは忙しいけど怠け者じゃない。
 でも正しい人でなくても幸せになりたいと願う。
 わたしのいうことにわからないといわないひとがいたっていい、ききたくないといわないひとがいたっていい。わたしだって汽車に乗りたい。メーテルは男の子しか連れて行ってくれない。女の子でもいいのなら、わたしもネジになるのに。
 次の日私はちいさいノートパソコンを貰った。ソレが誰かがわたしにくれた缶の中身だってすぐわかった。
 コンビニくじで引いた賞品は魔法少女が持っているような可愛いデザインで、嬉し過ぎて素敵過ぎてかえって恥ずかしくなるくらいだったけど、ハエ叩きで叩くのはもったいないからやめた。
 そんなムダアイテムなんか、絶対買ってはくれない両親が何故かしょうもないファンシーグッズのくじなんか引いた。ソレが無理矢理な缶詰のパゥアだ。
 初めて手に入れたわたしだけのサイバーウェポン(大袈裟)は本当に嬉しかったけど、薄気味悪い石の下ばかりのぞくわたしに、くれたお手紙が一番、嬉しかった。
 切符が落ちてこないか、リープタイプが見えはしないか、空ばかりみていたわたしに、誰かが手紙をくれた。誰だっていい。カミサマじゃない名前を言ってはいけないものでもいい。
 嬉しくても人は泣けるんだと思いながら、わたしの目から涙は流れない。
 わたしは泣かないからだ。
 今でも夢で泣くくらい。私が泣くことはない。寝ている間は制御しきれずに、ちょびっと腫れた目に焦ることもある。まあ冷やしたらおわりだし。
 夢で泣くと逆夢といって、その日は良いことがあるらしい。よし今日はラッキーデーだ。我が艦隊は不沈です。
 とかいって、モチベーションは超萎え萎えハートのステータスは赤貧。ぬをを。もうワガハイはボンクラじゃないザンス。宇宙船を探す夢も切符が欲しい夢も既にオヨビデナイでゴザル。
 これはもうジョスさんにセクハラでもするか提督と悪魔会議でもして厄払いでもしなければ割にあいませんぜカミサマ。とかバチ当たりなお祈りをしたからか、お茶煎れながら食べたぷにょからアレが出た。漏れたユメは引っ込んだ。


 私はダイバーだ。電脳戦なら提督にも負けはしない。まあ……勝てるとも思ってないけどコアは向こうのものだし。
 ダイバーなので覗きが好きです。覗きがキライなダイバーはいません(大体)。
 そりゃ穴があいてたらみるでしょう。空いてなければ隙間をチョイとピョピョっとするまでです。
 そうすれば、わたしにお手紙をくれた人の事が……という純粋──誰も言ってくれないから自分でフォローあるのみ──な探求心と、正直下心満載でしたひひひ。
 しかしよもやあのように容易く防壁を抜けるとは、お釈迦様でもわかる……のかも?


「ミクラ中尉」
「はいもきゅもきゅ」
「神は神を敬うものにしか奇蹟を与えないという。どのようなものであれ、素直に喜んで受け取れるからこそ、そのナニカはミクラ中尉ならまた贈り物ができると判断したのではないか?」
「エー……ソレって私が何か超おめでたいカミサマヒャッホーな人間ってコトになりは」
「折角エッケルベルグ大尉がかっこいい態度でまとめてるのにもきゅもきゅ何故うまいこという」
「おめでたいっていうのは否定しないんですねまあおめでたいんですけどもきゅもきゅ」
「さりげなく私もdisられてるんですが……」


 ついふざけてしまったけど、仮にリップサービスだったとしても、ジョスさんの言葉は嬉しかった。まあカミサマがわたしを引き寄せたなんてとんだ思い上がりだし、ソレなら隣の幸薄そうな美少年(違 に合わせた照準がズレたに違いない。わたしに男など、しかも超絶ナイーブな訳アリ思春期くんは掬えない。そんな網は持ってない。
 アレが虚なのか実なのかはしらないが、私の脳に焼き付いたメモリには総計で1000を超える何かの数値がカウントされていて、ソレは今も、少しずつ増えている。もう一度アクセスして、解析とかする勇気はもうない。
 提督みたいなある意味神がかった奇人さんでないとだめなのではないだろうか。わたしのように俗世のしがらみ(ワラワラ や膿にまみれた貞子もビックリの並列化ダイスキ出歯亀サウンドオンリーではイカンだろう。多分ジョスさんはジョスさんで清く正しい人過ぎてよろしくないだろうし。みたら憤りで文字どおり憤死しかねない。
 てか提督だって何か他の幸せな夢とかみせたらイイカモって斜め上にやさしく(怖 接しそうだし。どうやって培養してるのか知りたくもないけどあの変なイキモノ送り付けそうだし。ダメ過ぎる。わたしには何も言わない辺りデリカシーという言葉くらいは知っている変態紳士なんだろうけど触手はおやつに入りません。
 かんがえると、私達ってダメな大人かも。イヤダメ杉な大人デースナンマイダ。
 職業も軍人って書いたらカッコいいけどワルいことばっかしてるしな〜。
 意味のない殺戮はしてないつもりだけど。ニュースには色々いわれるけど、そんなのみんな思ってる。プロはダダで仕事しないのさ。
 この発砲には意味がある。
 この設備には意味がある。
 この隠蔽には意味がある。
 もしかしたら、そういう深層での罪の意識が、都合のいい、居心地のいい曖昧な世界を作り出しているのかもしれない。
 観測の立場によって虚と実が入れ替わるなら、こうして考えるわたしも、だれかが観測する増え続けるデータの塊かもしれない。
 だとしても、ダメな私達なりに一生懸命かんがえたからいい。
 おめでたい宇宙からぷにょが旅立ったからいい。おかしくてもアリだ。


 たとえば、わたしたち3人のうち誰かの、走馬灯のようなものだったとしても、ナンセンスじゃない。
 この宇宙の浮かぶ世界はナンセンスだからだ。

 (1stup→110516mon)


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