■裁たれたドリーム

「そんなの大量に買ってどうすんの」
 マユトらしくない買い物。チューブ入りジュース──凍らせて半分に割るアレ──1袋10本入りが3袋。
「シーズンオフで安かったしお前がアイスアイスってうるさいからだよ、因みに1日1本な」
 概念的な彼女≠ニいうもののように優しくはないが、自分の為にアレコレ世話を焼いてくれる。ソレがうれしい。1本あたり5.5円のちょっぴりセコい気遣いでも、愛は愛だ。
 そもそもアイスは質より量。冷たくて甘かったらなんでもいい真夜だった。


 次の日。
 澄んだオレンジ色が白く閉ざされて、綺麗に凍っている。触れると指の形に霜が溶けた。
 風呂上がりにパキッと割る。ぐにゃっとならずに割れると無駄に誇らしい気持ちになる。
「食う?」
 甘いからいらないだろうと思いつつも聞く。
「食べるけど自分のあるからいいよ」
「ういうい」
 返事しながらこぼれそうな切り口を舐め取る。珍しい。が、スカスカしててクリームが詰まった輪が蛇腹になったドーナツとか、果物とか、マユトもたまに甘いものを喜ぶ。
 そういやアイスとか食ってるトコ見たことなかったっけ、と思ったトコロで手が止まる。
 ――コレはチョットおいしくないか?
 一人赤面して悦に入る真夜。
 今日まで順調に愛情は育ててきたものの、いかがわしい方面の発掘は一向に進まない。
 だからせめてこんな特典でもなければ。
 ――アイスの神様ありがとうー!
 コレをあいつが可愛くぱくっと食うのか、てか咥えるのか!?
 もはや今口にしているアイスの味などはどこ吹く風であった。
「こぼすな」
 イヤソレ俺が言うセリフだから、などと半分夢の世界の王様になりつつ、可愛いマユトの声を聞く。
「エロい、エロいよマユ可愛いよ……」
「はあ? 何言ってんだ、いいからちゃんと食えって。右側のが床に垂れてるんだよ」
 と、マユトの手には想定外の物体が。
「お前はアイスも一人で食えんのか」
 どんだけ子供なんだよ、とぼやきながら中身を飲み干してしまう。ソレでおわり。まさに2秒。
「じっとしてろよ。拭くから」
 マユトは袋の端を切り落としたであろうハサミをテーブルに置いて、手近なタオルを手に取った。溶けたアイスに濡れた真夜の手や服を丁寧に拭う。いつもならソレだけでにまにま舞い上がってしまいそうなシチュエーションなのに、真夜のハートは萎れたまま。
「てかお前なにぼーっとしてるんだ?」
 ぺたんこで空になったチューブを片手に床を拭くマユト。
「何でってお前だよお前! 何だよソレ」
「??」
「凍ってないまま食うなんてナシだろ!」
「そんなの俺の勝手だろ……」
「ムキャー!」
「ナニ逆ギレしてんだお前」
「あー……」
 叫んでいたと思ったらがっくり肩を落とす。忙しい男。下を向くと一緒に、溶け掛かった切り口まで下を向く。
「こぼすなって言ってるだろ! 何でお前はそんな馬鹿なんだ!」
 怒りながら床を拭く横顔は、いつもどおり可愛い。
「……健康な男子の夢を何だと思ってんだ……」
「いいから人語を操れ。それから手伝え……あ、イヤそれより早よ食ってしまえ」
 人の気も知らないで、てきぱきと片付ける。その辺はカンペキなのに、ナゼもう一歩、もう一歩ど・りーむな世界を構築してくれないんだろうか。
「バカはおまえだよ……」
「なんでだ! ふざけんな」
「なんでもー……」

 (1stup→100131sun)


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